第16話幻獣ペリュトリア


「よし。じゃあ俺が魔法を唱えたらすぐ頼むな」

「は、はい!分かりました」


 ペリュトリアを目撃した原初の祭壇まで行く為に、俺の新魔法を使うことになった。

 魔力消費が尋常じゃないので今回はプルティアに補助してもらう。


 えぇと……まず場所を思い浮かべて――黒い材質でツタだらけの古びた祠を思い出す――空間を捻じ曲げるように引き寄せる。魔力を空中に集めて留める。


空間歪曲移動ディストーションワープ!!」


 ヴゥンという音と共に人間一人が通れるワームホールが出現した。ゆらゆらと空中に浮かぶそれは、何食わぬ顔で大量の魔力を吸い込んでいく。


神聖天慶魔法ホーリーグレイス!!」


 すかさずプルティアの神聖魔法が柔らかい光で俺の体を包んでいく。失われた魔力がすうっと戻されていく感覚だ。


「よし! 今だ! そこに入るんだ!」


 そうして三人で急いでワームホールに飛び込んだ。



 飛び込んだ先は、あの目覚めた時と同じ祠の中だった。


「あはははは! 凄ーい! ほんとに原初の祭壇だー! うっほほーい!」

「こ、これは! 本当に凄いですね! どういったことわりなのでしょう……」


 よし。うまくいったようだ。

 昨夜に比べるとかなり大きなワームホールを作ったが、プルティアの補助もあってかそこまで魔力は消費しなかった。また倒れたりでもしたらどうしようかと思ったが、底力も付いてきているみたいで問題ない。


 シルチーがはしゃいでどっかに走っていく。


「お、おい! どこ行くんだよ! ペリュトリアは向こうだぞ」


 俺とプルティアは慌ててシルチーを追う――。

 すると、祭壇の裏手にある川辺まで来た。


「あった! あった! あ~でもまだ生え揃ってないねぇ」

「あ! イルーナ草がこんなに!?」

「あぁ、これが目的か。あれからまだそんなに時間も経ってないしまだ採るのは早いだろ」


 何本かはまた生えてきているが採集するにはもう少し時間が必要だ。

 俺達はイルーナ草はそのままにしておきペリュトリアを見かけた岩塩のある岩場までやってきた。


「しっ! この辺だから静かにしろ!」


 ピクニック気分で騒いでいるシルチーを静かにさせる。

 周辺探索装置アラウンドサーチシステムで周囲の生体反応を確認する。


「あ、あっちの方角に何体か反応があるな。シルチー、隠れて見に行けるか?」

「ん。分かった! ちょっと待ってて」


 そう言うとシルチーは高周波振動小剣ヴァイブブレードを握り締め、変な踊りを踊ってすうっと消えていった。

 消えるところは初めて見たが一瞬ボヤっとしたかと思うと完全に跡形もなく消えている。まぁ生体反応は出ているのでそこに居るのは分かるんだが……。


 シルチーが向かって暫く経った頃――。

 突然、何か大きなものが上空から接近してくることに気付いた。


「な、なんだ!? プルティア! 上からなにか来る!」

「え!?」


 二人で上を見て身構える……周りの空気が一瞬シンとなる。


神聖保護魔法プロテクトハピネス!!」


 プルティアが防御魔法を唱えたようで薄い光の膜が俺達を包む。

 その時上空から物凄い咆哮が聞こえた。


「ギャオオオオオオオン!!」


 それは大きな翼をもった恐竜のようなモンスターだった。


「ド、ドラゴン!!」


 プルティアが声を押し殺して叫んだ。


「ドラゴンだと!? あれが……! くっ! 早い!」


 俺は素早くプルティアを抱えて岩場の後ろに回りこむ。

 そのドラゴンのするどい爪は俺達が居た岩石をいとも簡単に粉々にした。判断が少しでも遅れていたらズタズタに引き裂かれていただろう。

 すかさず魔力を溜め、ドラゴンの位置を確認する。


高出力集光砲スペクトルレーザー!!」


 俺はドラゴンが居るであろう空中に向かって魔法を放った。拳大のレーザーが光の速さでそれを貫く――。


「なっ!? 避けた!? そんな! なんだあいつは!」


 その攻撃でドラゴンは標的を俺に定めて追ってくる。

 俺はプルティアから離れるように走って誘導し、両手に魔力を溜めながら高機動装置ウィンドシアシステムで岩場の上部にワイヤーを差し、後ろ向きに空中移動しながらドラゴンを正面に捉える。


標的捕捉装置トラッピングシステム!!」


 ドラゴンの頭を枠内に収め、溜めていた魔力を解放する。


拡散粒子光弾パーティクルフレア!!」


 無数の光弾がドラゴンに向かって飛んでいく。それに気付いたドラゴンは上空に回避しようと大きく飛び上がった。

 

「甘い! この光弾はロックしたターゲットをどこまでも追っていく――」

 

 逃げ切れないと思ったドラゴンは上空で静止し、翼で体を覆い何かの魔法を発動した。

 まるで宇宙戦艦に搭載されているエネルギーシールドの様なものを展開し光弾を全て弾き返す。


「な! なにぃ! あれはまさか――」


 そのままドラゴンは力を溜め――。

 まずい! 何か来る! 間に合うか! ドラゴンを見て思い出した魔法を一か八か放つ。


次元波動防御壁セレスティアフィールド!!」


 それと同時にドラゴンの口から物凄いエネルギー砲が放たれた――。


「くっ! くそー! 耐えろぉぉぉ!」


 凄まじい衝撃と共にシールドごと後ろの岩に叩きつけられる。その咆哮はそのまま岩場を吹き飛ばし、尚直進して大きな木々をなぎ倒していった。

 

「な、なんて威力だ……」


 次元波動防御壁セレスティアフィールドのお陰でダメージはほとんどない。しかし、衝撃に耐える為にかなりの魔力を使ってしまった。

 感覚的に魔力の残量はもうほとんどない。高周波振動小剣ヴァイブブレードもシルチーに貸したままだ。


「きゃあああ!」


 しまった! プルティアの声だ! 俺は急いで元居た岩場まで戻る。

 プルティアは悲痛な表情でドラゴンに捕まっている。 


「ぐははははは! 出て来い! 仲間はここだぞ」


 なっ!? しゃべった? 知性がある古竜という奴か!


「このやろう! 人質とは卑怯だぞ! 放せー!!」


 俺は近くに落ちていた剣を拾い決死の覚悟でドラゴンに突っ込んだ。


「ぐぉぉぉぁぁあ! そ、その剣は!? お前は一体――」


 その剣はドラゴンの胸に突き刺さり眩い光を放って切り裂いていく。


「ぐああああああ! くそおおおお! 人間ごときにぃぃ――」


 ドラゴンは大きな断末魔と共に、光の藻屑となって消えていった。


「プルティナ姫ー! 無事かー!」


 俺はすかさずプルティアに駆け寄り抱き寄せる。


「あぁ……王子様……ついにドラゴンを倒したのですね」


 プルティアの瞳からうっすらと歓喜の涙が零れ落ちていく。俺は何も言わずプルティアをぎゅっと抱きしめた。



「あれぇ? 二人で抱き合ってなにしてるんだ~?」


 俺とプルティアはその声でハッと我に返った。


「あ、あれ? ドラゴンは……?」

「あ、あ、あ、サトシさん……王子様……きゃ!」


 抱きしめていた手を放してプルティアが離れる。顔が真っ赤だ。


「あれ? 姫? あれ? シルチー? ドラゴンは?」


 俺はキョトンと眺めているシルチーに問う。


「なんだそれ~? ドラゴンなんて居ないよ?」


 シルチーは不思議そうに首をかしげている。そして何かに気付いたように笑い出した。


「あー! 分かった! あはははは! 幻覚にかかってたんだー! あはははは!」


「「え!?」」


 俺とプルティアは顔を見合わせる。プルティアはまだ真っ赤だ。


「げ、幻覚だったのか……?」


 魔力の残量を確認するとたっぷりとある。


「あ、幻覚だこれ。プ、プルティアなんかごめん……」


「い、いえいえ、わ、わ、私も幻覚と気付かず、す、すいません!」


「あはははは! ドラゴンだってー! 姫だってー! あはははは」


 くっ……。クソガキの妖精にまずいところを見られてしまった。これは何かあるごとにおちょくってきそうだ。


「う、うるさい! それでお前はペリュトリアの角を取ってきたのかよ!」


 俺は笑い転げているシルチーをつまみあげて確認する。


「ひ~ひ~! ちゃんと取ったよ! あはははは!」


 シルチーはそう言って、魔法カバンの中からほのかに光を纏った白い角を取り出した。


「おぉ~! 珍しくちゃんと仕事してる」


「んもう! わたしだってゴールド級なんだからね! こんなの朝飯前だよ!」


 どうやらペリュトリアは6匹居たらしく容赦なく12本の角を取ってきたようだ。

 このうち10本は換金して分け、残り2本はシルチーにあげることにした。


 気付けば空の薄い雲が夕日に染まっており、赤く光った木々の端から夕闇の色が見え隠れしてきた。

 俺達はまたワームホールから森の夕映え亭に戻った。



***


次元波動防御壁セレスティアフィールド(魔法)

・未来の宇宙戦艦に付いているエネルギーシールドを再現した魔法。実弾兵器やエネルギー砲を防ぐ。強度は魔力消費量によって決まる。

 

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