第13話追跡者
ご飯を食べた後は、待望の買い物に行くことになった。やっと魔法カバンが手に入ると思うとテンションが上がる。
「わたしはまずお洋服。それとアクセサリーも見たい!」
「私は、小道具屋に行きたいですね。おばあちゃんに色々頼まれているんです」
「俺は魔道具屋だな。やっぱ魔法のカバンは絶対欲しい!」
それぞれ、行きたい店が違うということで、俺は別行動をしようと提案した。女子の買い物に付き合ってたら、間違いなくウンザリするだろう。
「わたしは別に良いけど、プルティアはどうする?」
「私は、最近の新しい刺繍とかも見てみたいですし、シルチィちゃんと一緒に行きます」
俺の提案はすんなり通った。これで気兼ねなく伸び伸びと買い物ができる。
「でも、サトシは初めての街で迷子にならないか? 悪い人に騙されるかもしれないよ?」
俺は、見た目5歳くらいの幼女に心配されている。
「大丈夫だ。もうこの街のマッピングは済んだし、森の夕映え亭の場所も把握してる」
「何言ってるか分からないけど、まぁサトシなら殺しても死なないか!」
そうして、俺達は買い物が終わったら宿屋に戻るということで別行動になった。
二人と別れた俺は、教えて貰った魔法具店へ向かって歩いていた。
それにしても、この街は色んな種族が溢れている。ギルドの受付のお姉さんはエルフと言ってたし、ギルド長はトゥルーヴァンパイアとか言ってたな。どっちも恐ろしく寿命の長い種族らしい。プルティアは聞いたことないけど、特に特徴ないし人間かな。あの、ふとっちょ貴族はなんなんだろうな。人間っぽいけど実は魔物だったりして。
俺が居た世界は、人工知能が発達した
こうやって街中を観察しているだけで凄い楽しい。ご飯は食べたばかりだが、露天で珍しい食べ物を見つけるとついつい買ってしまう。
「さて、大きな古本屋の隣だし、ここがシルチーが言ってた魔法具店かな?」
俺は、ゴチャゴチャとした道具が並んでいる店に入っていった。中には、所狭しと色々な魔法具が置いてある。カバン、カバンっと……魔法カバンがないか店内を見渡す。できれば邪魔にならないように腰に巻くようなウエストバッグが良い。見ても良く分からないので、奥のカウンターに居るボサボサ頭のメガネ小僧に聞いてみる。
「魔法具のカバンが欲しいんだけどどれかな? 腰に巻くようなタイプのとか無い?」
何かに夢中になっていたメガネ小僧は、はっと顔をあげて後ろの棚をガサゴソと探した。
「こ、これなんかどうですか! これはこの店で一番の魔法カバンで、小さいですが収納スペースがかなり大きくて、30立方メートルまで収納することができます」
へぇ。いいね。
「おいくら?」
「150金貨です!」
「え? なんて?」
思わず聞きなおした。
「150金貨です! これは貴重な魔物の素材で作ってあるので高性能で高いんですよ! そうですね。もう少し安いのだと、巾着袋になりますが5立方メートルで30金貨というものもありますよ!」
高価だとは聞いていたが、そんなにするとは……俺の今の全財産は28金貨ちょっとだ。巾着袋も買えねぇ……。
「ちょ、ちょっと考えてまた来るわ!」
俺は、逃げるように店を出た。
ん~。どうしたもんかなぁ。食料を入れるなら、巾着袋でも良いっちゃ良いけど、魔物の素材とかは入らないよなぁ。それにしてもお金を稼がないと巾着袋すら買えない。帰ったらシルチーとプルティアに相談してみるか。あ、そうだ。ギルドでなんか仕事がないか聞いてみよう!
俺は、とぼとぼとギルドに向かって歩いた。
「まだ居るか……」
実は、シルチー達と別れたあたりから、こちらを尾行している者が居るのを察知していた。最初は気のせいかと思っていたが、魔法具店から出てきてからもその生体反応が居たので確信した。無視して歩くと後ろをこっそりついて来る。害意があるようには感じないが、なにせ未知の世界だ。なにが起こるか分からない。
俺は、
「あ、あれれ? どこ行ったんだろ? あぁ、どうしよう見失っちゃった!」
なんだあいつ?
それは、小綺麗な格好をした小姓のような奴で、辺りをキョロキョロしながらうろたえている。
なんで俺を尾行しているのか確認する必要があるな……。俺は、屋上から腕を出して
「ああああ! あぎゃぁぁ!! あひぃぃぃ」
そいつは今にも泣きそうな声で叫んだ。
「おい。……おい! こっちを見ろ!」
「ひぎゃああ! ごめんなさいぃ! うわーん! え!?」
そいつは俺の顔を見ると驚き固まった。そのまま屋上から吊るし上げて尋問をする。
「お前。俺が料理店から出てきたところからずっと後をつけてきただろう。何が目的だ?」
「あ、え? そ、その……」
そいつはしどろもどろになりながら目を泳がした。
「あ~、別に言わなくても良いんだぜ。そのかわり
ワイヤーを揺らしながら軽く脅す。
「ひ、ひぃぃぃ! 言います! 言います! だから降ろして下さい!」
俺はそっと屋上に降ろした。逃げないようにまだぐるぐる巻きにしてある。
「じ、実は、私はセルシオン様の命令で後をつけて居たのです。みなさんが泊まっている宿屋を探しあてることが目的でした」
なぁんだ。あのキモオタの命令か。
「普通に聞けばよかっただろう? なんでこそこそ後をつけるような真似をしたんだ?」
「そ、それは、セルシオン様がみなさんの迷惑にならないように、秘密裏に探せとおっしゃったので、こっそりついて行って宿屋に戻るのを待とうと思ったのです」
良いのか悪いのかいまいち分からない理屈だな。まぁ理由は分かったしこいつにはもう用はない。
「俺達は、森の夕映え亭って宿屋に泊まってるから、用があるならこそこそしないでちゃんと尋ねてこいって言っとけ!」
俺はそう言って、その小姓を路地裏に下ろしてやり解放した。
と、見せかけてこっそり後をつけることにした。建物の屋上を飛び移りながらその小姓を追跡する。セルシオンとやらが何を考えているのか確かめる必要がある。単純にシルチーのことが気になるってだけなら別にいいだろう。だが、誘拐したり乱暴するような奴だったら……消すか。俺は、久しぶりにスイッチを入れ、戦闘モードで任務にあたった。
暫く追跡していると、その小姓は街の中心にあるお城の敷地内に入って行った。
やっぱり領主の息子とかだったか。どうするか。中に進入したことがバレればただでは済まないだろう。
俺は、さっきの小姓の生体反応を登録して、身を隠し外から様子を見ている。小姓は城の中を歩き回り、中心から少し離れた場所にある豪華な屋敷に入っていった。
……。
まぁよっぽどのことでもなけりゃバレないか。そう思い、その屋敷のそばまで近づいて身を隠す。そして
コンコン。
「誰だ?」
この声は、カインとか言う剣士だな。
「ラルクです」
これはさっきの小姓だ。ドアを開けてラルクが入る音がする。
「それで? それで? どうだったでござるか?」
これはセルシオンだな。
「は、はいぃ! バレてしまいました!」
「なっ! なんだと! お前は確か男の方を追跡してたよな?」
カインが驚いたように聞く。
「は、はい。私が追跡しているのは最初からバレていたみたいで、途中で捕まって締め上げられました。でも宿屋は教えて貰えました。森の夕映え亭です」
ラルクは泣きそうな声でそう言った。
「ホォホォホォ。悪いことは出来ませんな。坊ちゃん、だから言ったではありませんか、気になるのなら正々堂々と礼儀正しく接するべきです」
白ヒゲの爺さんか。この人はまともそうだな。
「わ、わかってる! しかし、拙者も堂々と外に出れる立場ではないのでござる!」
「ま、そうじゃな。ホォホォ。それに相手は幼い子供ゆえ、余計に心証は悪いでしょうな」
「し、しょうがないじゃないか! 拙者は衝撃を受けたのでござる! あの可愛らしいクリクリとした瞳、艶やかでくるくる巻いたピンク色の髪の毛、そして心に響く透き通るような声、あれは天使としか思えない! せ、拙者! あの子のパンツだったら1000金貨でも払うでござる! 」
なんか変なことを口走ったが、こいつはよっぽどシルチーが気に入ったようだな。特に悪意はなさそうだ。
「坊ちゃん! ちょっと落ち着いて。パンツとかそういう変なことは言ってはいけません。それなら食事会の招待状でも送ってみたらどうです?」
「そ、そうでござるな! で、でも、断られたらどうしよう……」
ふむ。クセは強いが悪い奴じゃなさそうだ。これならほうっておいても問題はないか……。俺はそう思いその屋敷をあとにした。
***
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