第12話オウフ! ドプフォ! フォカヌポウ!
ギルドでガボルバーグやらイルーナ草やら多数の素材を換金して外に出た。ガバルバーグの素材が全部で27金貨、イルーナ草は半分売って8金貨、燻製肉はもしもの為に温存しておく。魔物襲撃で得たエッジスパイダーの足16金貨分はポルタ・ゴ村に寄贈するためプルティアに渡す。俺が20金貨でシルチーが15金貨で取り分けた。
「まさかサトシがプラチナになるとはなー! でも、わたしは勇鷲の勲章を持ってるからもっと凄いなー!」
「はいはい。そうでございますね」
俺に一気にランクを抜かれたシルチーがねちねち嫌味を言ってくる。
「でも、シルチィちゃんもゴールドに上がったじゃないですか。おめでとうございます」
プルティアがすかさずフォローをする。
「そう! わたしはサトシと違って地道な努力で着実に上がった叩き上げというやつだ! ぽっと出のプラチナ冒険者なんかよりよっぽど優秀なんだー!」
意味不明な理由を付けて息巻いているおこちゃまの
「それより、もうお昼も過ぎたよな。なんか食べようぜ」
気付けばもう13時だ。お腹もすいてきた。こちらの世界の自転周期も元の世界と同じようで、太陽と似たような恒星が頭の頂点に上がっている。
「あ! わたしは、向こうに新しくオープンした東大陸料理専門店が良い!」
来たばかりで、シルチーはどこからそういう情報を手に入れてくるのやら、そう言って繁華街の方を指差す。
「東大陸ってのはなんだ? 変な料理じゃないだろうな」
この世界が初めての俺が面白いのか、ことあるごとに変なものを食わせようとしてくるクソガキの妖精には気を付けなければならない。
「東大陸料理というのは、ここから東にあるウェルデネス山脈を抜けて更に海を渡った所にあるレムリア大陸の料理ことです。ここはロマンシア王国の端に位置していますので、隣の国からの他文化も流れてきやすいんです。料理自体はスパイスの効いた美味しいもので、今流行の女の子に人気の料理みたいですよ」
プルティアが詳しく説明してくれる。なるほど、まともな料理のようだ。
暫く歩いていると、人だかりができている店が見えてきた。プルティアが言っていたように、若い女の子の割合が多いようだ。すると、そこに一際大きな馬車がやってくる。大きいだけではなく装飾も豪華で、どこぞの貴族様が乗っているような馬車だ。
「あ! あれは、領主様の馬車のようですね。……あれ? でも降りてきた人はアルベルト辺境伯様ではないですね。どなたでしょう」
「わたしも初めて見る。歳から見て辺境伯の息子ってところかな? おでぶちゃんだね」
シルチーが失礼なことを言っているが、確かにぽっちゃり太っている。
「あ、お店に入っていきますね。新しく出来たお店の料理を食べにきたのですね」
「おでぶちゃんだから新しい料理に目がないんだな。くいしんぼうめ」
俺達も店に入る。店内は南国のような観葉植物やエキゾチックな像などが置いてあり、店内の中心には噴水みたいなものもあって随分と凝った造りになっていた。まるで異国に迷い込んだかのような雰囲気で、女子受けが良いのがよく分かる。ふとっちょ貴族は奥の方の広めのスペースに案内されたようだ。
「わぁ! 素敵な装飾ですね! 見たことも無い像もあります」
プルティアは、その南国テイストの店内に感動し、キョロキョロと見回している。
「この植物はなんだろ。少し毟って持って帰ってみよっと!」
アホの子が珍しい植物をひっこ抜こうとしている。
「こらこらこら! そういうことはやめなさい」
俺はシルチーを諌めて案内された席に着いた。シルチーがまた店員に勇鷲の勲章を見せ付けた為、俺達も奥の方の席に案内されていた。
「さぁて、何食べよっかなー! このスレイプシープの香味焼きってのが美味しそうだ!」
「そうですねぇ。私は、こっちのふわふわカモミーの煮込みシチューが興味ありますね」
メニューに写真とかは付いていないので、二人は料理の名前と説明文だけで選んでいる。言語や文字は
暫くして、それぞれの料理とパンが運ばれてくる。
「美味しい! 柔らかいジューシーなお肉で、口に入れるとフルーティな香りが広がっていく!」
「このシチューも美味しいですよ! このふわふわしたものは何かの実なのでしょうか? 口に入れると溶けていきます」
女子達は、キャイキャイ騒ぎながら、料理を交換したりして食べている。俺も自分の料理を口に運ぶ。
「うん、辛い。でも美味い! これは鶏肉のようだな。この野菜もしゃきしゃきしてて舌触りが良い」
俺が頼んだ料理はかなり辛かったが、初めて食べるそれは俺が好きな味だった。シルチーが欲しがったので、ひとかけらすくってシルチーの皿に置いてやる。
「もぐ……。ひぃぎゃー! 辛いー! 舌が焼けるー!」
シルチーは辛い物が苦手のようで大きな声で叫んだ。
「だから辛いって言ったじゃんか。プルティアも食べてみるか?」
「い、いえ、私も辛いものは苦手なんです。遠慮しておきます」
すると誰かが俺達のテーブルに近づいてくる。
「お前達! 誰の御前だと思っている! 騒ぎすぎだぞ!」
さっきのふとっちょ貴族の護衛の人か、若い剣士が凄い剣幕で注意をしにきた。確かに、シルチーの声は良く通るし大きいからうるさい。俺はすぐ平謝りしようと振り返るとシルチーが言い返した。
「なんだとー! わたし達は楽しく食べているだけだ! お前に注意される筋合いはなーいっ!」
あぁ、やっちゃった。まぁこいつの性格からしてこういうのは譲らないだろう。
「なっ! なんだと貴様! 誰に言ってると思っている! 平民風情が調子に乗りおって!」
あ~あ~、怒らしちゃった。貴族相手に揉めたくは無いが、うちの妖精さんも頑固だからどうしたものか。
「こらこら、カイン。お前こそ大きな声を出して迷惑をかけるんじゃない」
すると、さっきのふとっちょ貴族がやってきた。
「し、しかし! セルシオン様! こいつの態度は許せるものじゃ……!」
「いや、ここは民衆の憩いの場。拙者達がどうこう言える立場でもないでござる。しかもこんな小さな子に……」
そう言って、ふとっちょ貴族はその剣士を制し、シルチーを見て目を大きく見開いた。
「はきゅぅぅぅぅん! ヵ、ヵヮィィ……!」
へ? はきゅぅん? え?
「オウフ! キタコレ! まじやっべ。まじやっべ。天使なり! ここに天使が降臨してるなり! コポォ」
な、なんだ? 急に喋り方が変わったぞ。
「ドプフォ! せ、拙者。セルシオンと申すでござる。て、天使様のお名前はなんと言うでござるか?」
シルチーもプルティアも剣士も、みんなぽかーんと口を開けて見ている。
「おっとっと! つい早口で喋ってしまったでござる! 天使様というのはそちらのピンクの宝石のような方でござる。デュフフフ」
ピンクと言うとシルチーのことか、あれか、特殊な性癖を持つオタクって奴だなこれ。
「わ、わたし!? な、な、なんだお前は! 気持ち悪ーい!」
「フォカヌポウ! 気持ち悪い貰いましたー! キタコレ、キタコレ。もっともっと罵って下さいでござる!」
更にマゾっぽいな。ロリコンでマゾなオタクってもう手に負えないなこりゃ。
「わ、わたしは、シルチーナ・ルー・ルーガと言って、みんなはシルチーって呼ぶんだ! 勇鷲の勲章も持っているんだぞ! こ、こら! 触るな!」
あのシルチーがひどく動揺している。これはこれで面白い。
「ドュフフフ。シルチーちぁんと言うでござるか。拙者のことはセルシーと呼んで欲しいでござる。シルチーとセルシー似てるでござるな。デュフ、デュフフフフ」
おぉ、こいつは見事に気持ち悪い。ここまでくると清清しいほどだ。
「ジ、ジルベスター様! こ、こちらに! こちらに早く来てください! セルシオン様が!」
我に返った剣士が、高位の聖職者のような格好をした真っ白な長いヒゲのお爺さんを呼んだ。
「ホォッホォ。どうしたんじゃ? ありゃ! これまた……坊ちゃん! 素が出ておりますぞ。そいやっ!」
そう言って、そのお爺さんは持っていた杖で、ふとっちょキモオタのわき腹を突いた。
「ゴフッポァ! うっ……。 あ、失敬。ついつい我を忘れてはしゃいでしまったようでござる……。ジル爺、お詫びとしてこちらの方達の会計は支払っておいてくれ。カイン行くぞ!」
そう言って、ふとっちょ貴族は剣士を連れて店を出て行った。
「いやはや、すまんかったな君達。坊ちゃんも普段は温厚で聡明な方なんじゃが。どうやらそちらのお嬢ちゃんを
そう言って、白ヒゲのお爺さんは10金貨を置いて店を出て行った。
「す、凄かったですね。大丈夫ですかシルチィちゃん?」
「な、なんだったの。あの気持ちの悪いおでぶちゃんは……」
シルチーは、初めての強烈なオタクにびっくりしてぷるぷる震えている。俺はその様子があまりにも面白くて笑ってしまった。
「わ、笑うな! ふ、ふはは、なんだあれ。あははははは!」
「うふふふふ。面白い方でしたね。ふふふふ」
釣られてみんなで大笑いをした。食事代は三人で15銀ほどだったのに、10金貨も貰ってしまい、俺達はホクホクで色んなデザートを頼んで食事を楽しんだ。
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