第7話 不吉な予兆
誰かが話をしているのが聞こえる――
『太古の昔、大いなる光によって再生が促されたという――』
『いや、あれは神々が天空に咲かせた白い花によって――』
『これではまだ確信は持てない――』
なんだ……何を言っているか分からない……
意識が……また……
「まだ寝てるの~? よく寝るねぇ」
「シルチーちゃん、魔力切れはツライものよぅ。ゆっくり寝かせてあげなさいな」
聞いたことのある声がする。
「だらしないなぁ。ちょっとカミラばあちゃんのとこ行ってくる!」
「あ、シルチーちゃん、ついでにルートの実も何個かもらってきてちょうだい」
「わかったー!」
ドタドタと走り去っていく音が聞こえ静かになる。
体はまだ動かない。魔力であるはずの熱いモヤみたいなのが感じられない。
目も開けられない……もう少し寝るか……。
「戻ったー! プルティナも連れてきたよ」
バーンっと開けたドアの音でびくっとなって目が覚めた。
「あ、目が開いた。おーい。分かるかー? おーい」
シルチーが覗き込んで、頬をペチペチと叩いている。
「あ、あの、シ、シルチィちゃん……あまり手荒なことは……」
他にも誰かいるようだ。
「大丈夫だよ。サトシはこれでも結構強いんだ。ペチペチ。バシバシ」
う、この……声がでない。
「じゃ、じゃあ、私は、準備しますね」
「お願い!」
もう一人の子が何かをするようだ。
「安息と安寧を
周囲の空気がシンっとなって雰囲気が変わる。
「
優しい光が身体全体を包む。
「う、あ、身体が軽くなった……?」
胸の奥に熱いモヤが小さく灯った。
「あ、起きた! 全くだらしないなぁ! 魔力を使い切って倒れるなんてなっさけなーい!」
こいつめ。
「お前が興奮して次から次に魔法の試し撃ちを煽ったんだろうが!」
「あははは。面白い特殊魔法だったからつい夢中になっちゃったー!」
実際、俺も楽しくて魔力残量とか気にせず色々試してたから強くは言えない。
「そうだ。助かったよ! あんたが魔法をかけてくれたんだよな? ありがとう!」
俺は近くでもじもじしている女の子に声をかけた。
「い、いえ、わ、私はシルチィちゃんに言われて……そんな……」
頬がさっと桜色に上気してきて目をそらす。
「この子はカミラばあちゃんの孫でプルティアって言うんだよ。さっきのはプルティアの特殊魔法で、なんだっけ? 神様から魔力をぶんどる魔法だったっけ?」
「い、いえ、違います。神に祈りを捧げて、その恩恵を少し頂く魔法です」
「へぇ。そういう魔法もあるのかー。シルチーの治癒魔法よりも凄いんじゃね?」
「むっきー! わたしは治癒魔法だけじゃなく特殊魔法も使えるから凄いのー!」
それにしても、魔力を取り戻す魔法とは恐れ入った。
「神に祈ってその恩恵を頂く……か、この世界には神とかそういう存在はあるのか?」
プルティアに聞く。
「い、いえ。私も神の存在は分かりません。じ、実は、正確に言うとさっきの魔法は、大気中に分散している微量な魔力を集める魔法なんです。祈りの言葉を呪文に組み込まないと発動しないので、一概に神様が居ないとも言い切れないのですが……」
「なるほどな。不思議な仕組みだな」
この魔力というものは未知のエネルギーみたいなものだ。
この世界には、このエネルギーが充満していて色々なものに影響を与えているようだ。
「あらぁ。起きれるようになったようねぇ」
パーシおばさんが部屋に入ってきた。
「ルートの実でスープを作ったからこれを飲むといいわよぅ。この実は魔力を溜め込む性質があって、多少なりとも魔力が回復するはずよ」
「あぁ、ありがとうパーシさん」
そう言って、パーシさんからスープを受け取った。
茶黒色ドロドロとしたスープで匂いもキツくてお世辞にも美味しそうとは思えない。
そうっとスプーンで口に運んでみる
「うげっ! まっずー! めちゃくちゃ苦い!」
「あははは! ルートの実は超苦いんだー! 今の顔! あはははは!」
くっ、これは……毒に耐性を持つ俺でもキツイぞ。
「そうだ、シルチー。イルーナ草持ってるよな? ちょっと出せ」
そう言って、シルチーからイルーナ草を奪い、小さくちぎってスープに入れた。
「い、イルーナ草を……そ、そんなに」
プルティアが目を丸くして見ている。
「うん。やっぱりな。大分飲みやすくなった」
ルートの実の凄まじい苦味がイルーナ草の不思議な風味で調和されてコーヒーのような味になった。
これにミルクと砂糖でも入れれば子供でも美味しく飲めるんじゃないか?
「今日は、ゆっくりと魔力を回復させるといいよ。あの秘密のお風呂に入ればもっと早く回復するしね」
ようやく体も動かせるようになったので、シルチーの言うとおりに木の上のお風呂に行くことにした。
シルチーはプルティアと一緒にどこかに行ったようだ。
「よいしょっと。んっあぁぁぁ。良い気持ちだぁ」
長時間入っていられるように温度の低めのお風呂を選び入った。
「そうだ。これこれ。ごくごく、くぅ~! 美味い!」
パーシおばさんに言ってエールの樽を貰ってきた。それにシルチーから奪ったガボルジャーキーもある。
「こりゃ、極楽、極楽っと、ふぅ~」
俺はゆっくりと湯治を楽しむ。小さかった魔力のモヤが、身体全体に広がり大きくなっていくのが分かる。気のせいか、以前より力強くなっている気すらする。
ポコタ・ゴ村から少し離れた場所――
昆虫の殻の様なカブトを被り、エッジスパイダーの足から作ったサーベルを持った武装集団が居た。
「親分。やっぱりポルタ・ゴ村にイルーナ草が沢山持ちこまれたみたいですぜ!」
「間違いない。炭焼屋のおやじを脅したら吐きやがった」
「他にも、なにやら珍しい魔物の素材なんかもあるらしい」
それは村々から追い出された半端者の集まりでハグレと呼ばれる者達だ。
徒党を組んで強盗まがいなことをする、犯罪者の集団であった。
「かっかっか! ちっこい村には過ぎた代物だなおいっ! 奪って街で売りゃあ良い金になる」
一際体の大きいボス格のカブトムシ男が答える。
「でも親分。ポルタ・ゴ村には、パーシの野郎が居るぜ」
「あぁ、ありゃちょっとやっかいだな。でも、俺に良い考えがある。バルの実を集めておけ。かっかっか」
『なにをするのかと見ていたが、くだらない――』
『こいつらでは弱すぎるな――』
『確認の為に少し手伝ってやるか――』
***
■
・プルティアの特殊魔法。大気中に霧散している僅かな魔力を集め、対象者の魔力を回復させることが出来る。準備魔法として神に祈りの言葉を捧げないと発動しない。
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