第4話 ポルタ・ゴ村
俺は思わず立ち止まって、上下にとゆっくりその村を見渡した。
「これはまた面白い居住区だな!」
それはジャングルの一角に作られた村で、大きな木の幹をくりぬいて家にしてある。
木の上にも家があるようで、それぞれ大きな木同士がツルの橋や枝で繋がっていて、移動もしやすいようになっているようだ。
「ポルタ・ゴ村だよ。ここは少なからず魔物が出るから、なるべく安全な様にみんな木の上に住んでいるの。木の幹にあるドアは上に行く階段があるだけ」
確かにこれだけ木が大きいと枝も太くて丈夫だ。
その枝が道路のように拡がっていて、頭上にちょっとした町のようなものが出来ている。
「じゃあまず魔物の素材を売りにギルドに行こう。換金しないと宿屋にも泊まれないからね」
「おう。そうだな。助かる」
そう言うとシルチーは一つの木の幹のドアに入り、その中にある階段を螺旋状に上がっていき外に出た。
それから太い木の枝の道を渡って隣の一際大きい木に行き、そこに付いてる立派なドアを開けて入った。
「ここが村長の家!」
「ギルドじゃないのかよ! しかも勝手に入って」
「いいんだよ! 鍵とか掛かってないしー」
シルチーはそう言ってずかずかと奥に入っていく。
「じいちゃーん! 居るかー? じいちゃーん!」
大きな声で奥にある部屋のドアをドンドンと叩く。
「ふぉふぉ。シルチーかい。もう戻ったのかい? 早かったのう」
ドアの向こうからつるつる頭のひげもじゃの小さなおじいさんがゆっくりと出てくる。
「見て見て! こんなにいっぱいイルーナ草採ってきた!」
シルチーはポーチからイルーナ草を何束か出して机に並べる。
「ふぉふぉ。依頼内容と違うようじゃが、こりゃまた凄いのう。どこでこんなに採ってきたのじゃ」
「原初の祭壇の近く。そこに住んでた人間も連れて来たよ。こっちに来てー」
そう言ってシルチーは入り口にいた俺を手招きした。
「原初の祭壇に住んでた? そりゃまた大儀じゃのう。どうしてまたそんなところに?」
俺はそこまでの経緯を村長のじいさんに話した。
「ふうむ。転移とな。不思議なこともあるもんじゃなぁ。まぁゆっくりしていきなされ。なんにもない村じゃけどな。ふぉふぉふぉ」
この世界の住人はどこか楽観的なとこがある気がした。まぁまだシルチーと村長にしか会ってないが。
「それでね。倒した魔物の素材が色々あるから、じいちゃん買い取って欲しい!」
あれ? ここがギルドなのか? 村長はあれか、ギルド長も兼任してるってことか。てか、従業員も居ないし一人でやってるのか。
「ほう。魔物の素材とは珍しいのう。それよりジャングルの調査はどうだったんじゃ? たしかそれが依頼内容じゃろ」
「あぁ、忘れてた! 調査は完了! 魔物が出現した原因はガボルバーグが数匹暴れてたからだった」
「なんと! ガボルバーグとな! それは危険じゃったな。よく無事に帰ってきた。でもガボルバーグが暴れてるとなると、今度は更に困ったことになったのう」
「大丈夫。わたしとサトシが全部倒した。うははは」
あれ? お前は倒してないだろ。こいつ息を吐くように嘘ついたぞ。
「それでガボルバーグの素材が3匹分もあるんだよ。あ、あとエッジスパイダーの鎌足も8本ある。このエッジスパイダーの攻撃には苦労したなぁ」
実は嘘つきの妖精なんじゃないの
「それで、そのあと祭壇の近くにイルーナ草の群集地があるのを発見した!」
俺がな! 俺が教えたんだなそれ!
「あ、勿論全部は採ってないよ。また行った時に採取できるよう少し残しておいた」
ここまでくると清々しいほどの嘘つきやろうだ。
まぁいい。お金を貰えれば良いとしよう。こいつも冒険者としての生活もあるだろうし、業績もランクの査定に入るとか言ってたしな。
「なんとまぁ。それはそれは。いやはやサトシくんと言ったな。本当に有難う。ガボルバーグが複数出たとなると一大事でな。ここは辺境も辺境、ロマンシア王国の領土ではあるが、この辺りを統治する領主はおらんのじゃよ。それで討伐を頼むにしても大きな街に行って強い冒険者を募らないといかんのじゃ。それにはお金も時間もかかる。本当に有難う」
お!? このじいさんのほほんとしてるわりに、分かってる感じか?
「じいちゃん。じいちゃ~ん! わたしも頑張ったんだよ!」
「そうじゃな。シルチーもよく無事で帰ってきた。偉いぞう」
「あはははは。全然余裕だったー!」
その後、素材の確認をしようとしたが、村長の家で全部出して見ることはできないので、集会所があるという広場にやってきた。
道中シルチーが騒いでたのもあるが、新しい人間というのも珍しいみたいで村中の住人がぞろぞろと集まってきていた。
「ここに並べればいいかな? じゃあまずエッジスパイダーの鎌足8本ね!」
シルチーが広場に素材をどーんと並べていく。
「おぉ~。これは立派な鎌足だな。このサイズは珍しい」
「これだけあれば枝打ちもしやすそうだ」
「これは村長さんあとで貸してもらえるのかのう?」
村人たちが各々驚嘆の言葉を漏らしている。
「次はガボルバーグね。くちばし付き頭が2個に鍋になったくちばしが1個、それと爪が10個、羽根がいっぱい」
更にどかどかと素材を並べていく。
「おぉ! ガボルバーグだと!?」
「傷がない素材なんて初めて見たぞ! どうやって倒したんだ?」
「あの人間が倒したのか!? 凄いな。名のある冒険者か」
誰もシルチーが倒したと思ってないところが笑える。
俺はニヤニヤしながらシルチーを見ると、少し不満そうな顔で周りの人達を睨んでいた。
「んも~! わたしだって頑張ったんだからね!」
運ぶの頑張ったな、うん。
「最後にこれを見るんだ! イルーナ草いっぱい!」
そう言って、山盛りのイルーナ草を出して置いた。
「こ、こんなに沢山のイルーナ草じゃと!?」
「これは凄い! これだけあればかなり助かる!」
「薬の少ない辺境の村で、これは神様の思し召しじゃ。なむなむ」
これには村人全員驚いていた。村長も流石にこんなにあるとは思ってなかったようで目を白黒させていた。
「これで終わり。じいちゃんいくら貰える?」
節操のない嘘つきの妖精はみんなの前で村長に尋ねた。
「そうじゃのう。ここじゃなんだからまたウチで相談しよう。それとカミラばあさんもちょっと来てくれ」
そう言って、村長は魔女のようなおばあさんに声をかけた。
そうしてまた素材を仕舞って、村長の家まで戻ってきた一同は、それぞれテーブルについた。
「このカミラばあさんはな。この村の薬剤師なんじゃ。それであのイルーナ草がこの村でどれほど必要になるか見解を聞きたいのじゃ」
なるほど辺境の村で薬剤師ともなれば医者も同然だ。
備蓄されている薬草等の管理も任されてるんだろう。
「ヒヒヒ。そうじゃの。あの半分もあれば当分の間十分だぞい。見たところ月の光をたっぷりと吸い込んでいて質も良さそうだったからのう」
「えぇ~。半分か~。全部買ってよ~」
シルチーが不満そうにごねる。
「これこれ。この村には全部買い取れるほどのお金はないんじゃ。他の素材もあることだしイルーナ草は半分で10金貨じゃ。それから鎌足は8本で80銀貨。ガボルバーグは残念じゃが買い取りはできん。それにこれはレトロスの街に持っていったほうが高く売れるじゃろ」
レトロスの街? 近くに大きな街でもあるのだろうか?
「まぁしょうがないね。それでも上々の儲けだ。じゃあイルーナ草のお金の半分の5金貨はわたしが貰う。残りはサトシに渡して」
あ、こいつ勝手に折半にしやがった。
まぁここまで運んだのはシルチーだし大目に見よう。
「こう言っとるが大丈夫かのう。サトシくん?」
「あ、あぁ。いいですよ。それよりそのレトロスの街というのはここから近いんですか?」
「そうじゃのう。徒歩だと1日はかかるかな? なぁカミラばあさん?」
「ヒヒヒ。今はあまりあの街とは交易はないからの。商人馬車も出てないしそれくらいじゃろうな」
なるほど。行けない距離ではないな。ただ素材を運ぶには……。
「そういえば収納の魔法具はないですか? 1つ買いたいのですが」
村長がうつむいて首を振った。
「残念じゃが、魔法具のカバンはかなり貴重でな。大きな街の魔法具店に行かないとないんじゃ。勿論レトロスの街にはあると思うがのう」
ちらりとシルチーを見てみる。
これでもかという満面の笑みでこちらを見ている。
「はぁ~。シルチー頼まれてくれるか?」
俺は溜息をついてシルチーに聞いた。
「ふはは。しょうがないなぁ。一緒に行ってあげるよ。お金も入ったしわたしもお買い物する。とりあえず帰ってきたばかりだし、2~3日休んでから行こう」
「あぁ。そうするか。んじゃ次は宿屋だな」
俺とシルチーは村長とカミラばあさんに別れを告げ外に出た。
そしてまたシルチーの後を付いて歩いていく。
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