第3話 雷鳴と爆音
その夜、俺は夢を見た
俺には、アキナと言う妹分が居て、任務があるごとによく組まされていた。それは、いつもの様にコンビを組んで、ある施設に潜入したときのことだった。
階段を登り目的の部屋の前まで来る。そうっとドアを開け、
しかし、屋上に出ようと階段を登るが終わりが見えない。登れど登れど出口が遠のいていく気がする。そうしてる間に、タイマーのカウントダウンが3,2,1,と進み、雷のような閃光と音を発しながら爆弾が爆発してしまう。
と、その爆発と同じくして現実世界でも近くに雷が落ちたようで飛び起きた。
案の定、外は雨で、時折雷がゴロゴロと鳴っている。
この夢が雷が落ちることを予測していたかのようにも感じた。
「ずいぶん近くに雷が落ちたみたいだな。シルチー起きてるか?」
俺は、石棺の中にガボルバーグの羽毛を引いてスヤスヤ寝ているだろうシルチーを見た。
あれ? 居ない。辺りを見回してみる。どこにも居ない。
「おーい! シルチー!」
もしかして勝手に帰りやがったか!?
外に出ようと祠の出口まで来たとき、ふとまた『何かの視線』を感じて固まった。
すぐさま
おかしい。そんなに広くない祠の中で視線を感じるわけはない。まさか探知外から観察されている!? そんなことは出来ないはずだ……。以前感じた視線もこんな感じだったことに気付く。
というか、石棺に何か反応が!?
「むにゃむにゃ。ん~? どうしたの?」
驚いて後ろを振り向くと、石棺の中から眠そうに起き上がるシルチーが見える。
「あれ? さっきは居なかったのになんでだ!?」
「……わたしはここで寝てたよ? あ、魔法で存在は消してたね」
「そういうことか。寝てる間も使えるとは随分と便利な魔法だな」
「祭壇の中とはいえジャングルのど真ん中で寝るのは怖いからね。万全の準備をするに越したことはない」
いつも見失うのは煩わしいのでシルチーの生体反応を
それにしても、治癒能力があって隠密性にも長けるってことは、こいつは実はなかなか優秀な人物なんじゃないか? 向こうの世界だったら、偵察もできる支援型衛生兵として重宝されるだろう。
ふと、さっきの視線も感じなくなった。
なんだったんだろう。特になにが起こるわけでもないが少し気持ち悪い。
「それにしてもまだ少し雨が降ってるねぇ」
「あ、あぁ……。荷物も結構あるしもう少し様子みるか。それにしても持っていける素材は限られるなぁ。価値が高いものを優先したほうがいいよな?」
「全部価値あるから全部持ってく」
「いやいやいや。俺が身体強化したって限界はあるぞ? 特にガボルバーグの頭とかかなり重たいし、実はお前、超怪力でしたなんてオチじゃないよな?」
「わたしは非力だよ。でもこんなものを持ってる!」
シルチーはなにやらゴソゴソと肩から提げていたポーチのようなものをはずして手に取る。
「パンパカパーン! お手軽収納カバーン!」
やけに自慢げに胸を張って俺に見せてくる。
「な、なんだよそれは?」
「これはね。わたしが地道に何年も溜めたお金で買った、汗と涙と努力の結晶なのだ!」
更に胸を張ってくる。
「だからその結晶とやらは何が出来るんだよ!」
「まぁ見てて」
そう言うとシルチーは、そばにあったガボルバーグの鍋をぐいっとポーチに押し込んだ。
不思議なことに鍋は物理法則を無視してすぅっとポーチの中に吸い込まれていった。
「おおお!? すげぇ! なんだそれ? 魔法か? それも魔法なのか?」
俺は興奮してシルチーに聞いた。
「うふふんっ。これは魔法具っていう高価なアイテムなのだ。このカバンは小さな部屋くらいの収納量があって……大体この祠の中くらいの大きさかな? ここに入るくらいの量がこのカバンにも入る」
それは凄い。10立方メートルくらいは入るってことか。
原始的な世界かと思ってたが、元の世界にもないハイレベルなものが出てきやがった。
「良かった。それなら沢山作った燻製肉とかも持っていけるな」
せっかく作った美味しいジャーキーを置いていかないで済むと思うとほっとした。
「え、なにそれ? わたしまだ食べてない!」
「あぁ。それは外の祭壇の裏にまとめて置いてあるんだよ。あそこなら雨も凌げてある程度風もあるから保存しやすいんだ」
シルチーが食わせろとうるさいので朝飯がてら何個か取ってくる。
「これもガボルバーグの肉なんだけどな。保存がきくように煙で炙って燻製にしてるんだよ。ほれ、そのままでも美味いから食ってみろ」
そういって燻製肉をシルチーに渡す。
「モグモグ……。モグモグ……」
なにやら考え込むように一心不乱に口に運んでいる。
「お、おい? どうした? 口に合わないか?」
「モグモグ……。モグモ……。なんだこれはー! 美味いっ! 美味すぎる!」
夢中で食べていたシルチーは突然大声で騒ぎ出した。
「なにこの風味!? 確かにガボルバーグの肉は美味しかったけど、これは何とも言えない不思議な味がする! それになんだかチカラが漲ってきた!」
「そんなに騒ぐことか? 確かにまぁ美味いけど、特別なことはしてないぞ。えぇと、ちょっと待ってろ」
そう言って俺は燻製を作っていたたき火のそばからハーブっぽい草を持ってきた。
「これだ。この草を燃やしてだな。その煙で燻すんだよ」
シルチーはその草を手にとってじっと見た。
「こ、これは……。イルーナ草!」
シルチーはその草を持ったままぷるぷる震えている。
「イルーナ草だー! これは回復薬にも解毒薬にも気付け薬にもなる万能薬草だよ! 一束で10銀貨はする! それを燃やして煙で燻すなんて! 超勿体無い! 超絶馬鹿だー!」
「なんだと! 知らなかったからしょうがないだろ! それにそのイルーナ草とやらは向こうの川辺にいっぱい生えてるぞ」
「え! 幻の薬草がそんな雑草みたいにいっぱい生えてるわけないじゃん!」
どうやら信じてないみたいだ。
「本当だって。もう雨もあがったみたいだし見に行ってみるか?」
そういって疑い深いシルチーを連れて川辺にやってきた。
そこにはイルーナ草とやらがいっぱい生えている。
「ひぃぎゃあー! 本当だ! いっぱいある! これは凄い! うははははは! 根こそぎ持ってってやるー!」
「こ、こら! 俺が言うのもなんだが全部取るのは良くないだろ! 少し残しておけ! あ、ちょ、おま、聞いてんのかー!」
そうして暴走する妖精をなんとか制し、荷物をまとめて村に向けて出発することにした。
「ふぅ。いやぁ、良い収穫があったなぁ。レアな魔物の素材もあって燻製肉もあってイルーナ草まで手に入れられるなんて、こんなこと生まれて初めてだ!」
シルチーはそう言いながらほくほく顔で隣を歩いている。
「おい。タダで渡すんじゃないからな。魔物の素材と燻製肉は俺のだぞ」
貴重な現金収入をのがすわけにはいかない。しっかり釘を刺しておく。
「分かってるよ。これも全部サトシのおかげ。村に戻って清算したらお金は渡すよ!」
分かってるならよし。
「そうだ。なぁ、村には宿屋とかあるのか? 暫く泊まって今後のこととか考えたいんだが」
特に目的があるわけではないが、まずは衣食住の安定化とこの世界の情報収集もしないといけない。なにより魔法という謎めいた魅力的な事象もいち早く解明せねば。そして人間以外の多種族にも会ってみたい。
「一応、ボロい宿屋はあるよ。パーシおばさんの店。あ、ボロいって言ったのは内緒ね。パーシおばさんは獣人族でミノタウロスだから怒るとむちゃくちゃ怖いんだ」
ミノタウロスと言えば神話に出てくる牛みたいな怪力のモンスターだったよな? それが宿屋の主人とか大丈夫なのか。
「それに、パーシおばさんは冒険者で戦士として慣らしていたから普通に強い。わたしも昔いたずらしてよく追いかけられたなぁ」
「冒険者? なんだそれ?」
「本当に何にも知らないんだねー。冒険者っていうのは、ギルドから頼まれて魔物を倒したり、魔境を探索したり、時には国家のために戦ったりする人達だよ。冒険者にはランクがあって、強さや業績によってブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ダイヤモンドといったように分けられてるんだ」
なるほど。軍には所属していないフリーの傭兵みたいなものか。
「わたしもこれでも冒険者なのだ」
「え?なんて?」
「わたしも冒険者なの! 今回のジャングルの調査もギルドから頼まれてやってるの!」
シルチーはそう言って自慢げに胸を張る。
こんなちんちくりんでも出来るのか。案外自称すれば誰でも冒険者になれるのかもな。
「その顔は冒険者なんて大したこと無いって思ってるね」
「なんで分かった!?」
「わたしは珍しい光属性を持った治癒魔法の使い手で、特殊魔法まで使える優秀な冒険者なのー!」
治癒魔法の使い手って初級しか使えないとか言ってた割りに随分と威張ってやがるな。
「それでその優秀な冒険者様はどのくらいのランクなんだよ」
そうするとシルチーは首にかけてあるペンダントを見せてきた。
「シルバー! これでも16歳でシルバーというのは凄いのだ!」
「え? 16歳なのか? 5歳位だと思ってた」
まぁ妖精の年齢なんて分かるわけが無い。
「むきー! それよく言われる! わたしは妖精だから生まれるというより、あるとき突然出現するといった感じなの! だからそのときから見た目は変わらないし、森羅万象からの記憶を受け継いでて歳の割りに色々知識もあるんだよ!」
「それはなんか分からんが凄いっぽいな」
「凄いっぽいんじゃなくて凄いの!」
「突然生まれるって言ってたけど、どういうことなんだ? 妖精っていうと花の妖精とか風の妖精とかそういうのか?」
「花の妖精は、綺麗な花が一定以上の魔力を持つと生まれる。でも……わたしは実はなんの妖精か分からない」
「ぶっ! え? どういうこと?」
俺は噴き出しそうになるのを我慢する。
「わたしが生まれた時は、周りには何もなかったんだ。大抵、妖精というのは、そのきっかけとなったモノに由来して使命を全うするんだけど、わたしにはその使命とやらが分からなかった。それで、今もその使命を探して孤高の冒険を続けているのだ!」
なんかカッコいいこと言ってるけど、謎の生命体じゃねぇか。
「それで、なんで妖精だってのは分かるんだ? 魔物かもしれないじゃん」
「それはね。村のみんながシルチーは妖精みたいにかわいいねぇって言ってるからだよ!」
「なんだそれー!」
思えば、俗に言うピクシーとかみたいな妖精にしてはでかいし、変な耳としっぽも付いてるしおかしいと思ったんだよな。
獣人の子供じゃないのか?
でも成長してないって言うし、まぁ本人も分からないっていうからこれはどうしょうもない。
そんなこんなで歩いていると、村が見えてきた。
***
■
・未来で使われていた範囲指定型爆弾。小型で破壊する範囲を細かく指定できる為使い勝手が良い。指定された範囲は一瞬にしてプラズマ化し蒸発する。
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