第2話 ピンク色の幼女
お腹がいっぱいになり寝転んでいると、木の上の方からガサゴソと音がする。
「うわ! やめろー! 痛ーいっ!」
バキベキバキ、ドスン!
突然、ピンク色の髪の毛の幼女が木の上から落ちてきた。
同時に鎌のような手足を持った巨大
俺は
「グシャアア!」
その槍は蜘蛛の胴体に大きな穴を開け、後ろの木にめり込むように突き刺さった。
え? なんだこの威力!? まるでレーザーでも撃ったかのような破壊力だ。
「ひょえ~! すごい威力だ! 助かったよありがとう!」
その幼女はお尻をさすりながらこっちを見てお礼を言った。
しゃべった!?
よくよく見ると何かの毛皮を纏っている。
人間の子供?
いや違う、獣のような耳としっぽが見えている。
この世界に来てしゃべる生物に会うのは初めてだ。
「おにいさん強いね! こんな奥地で一人で何してるの?」
「いやお前こそ、木の上で何してたんだ? しばらくこっちを観察してただろ?」
「あははは! バレてたかっ!」
そいつはゆっくりと立ち上がって、蜘蛛に切られたであろう腕の傷に向かって呪文を唱えた。
「
光の粒子が集まったかと思うと一瞬で傷口が塞がっていく。
「な!? なんだ?
俺は驚き駆け寄って治った腕をまじまじと見る。
「めどけーちょん? なにそれ? 簡単な魔法だよ?」
「ま、魔法!?」
「え? 魔法知らないの? だってさっきの攻撃は魔法じゃないの!?」
「いや、槍を投げただけだけど……」
確かに想定外の威力ではあったが。
「えぇ!? 腕力だけでエッジスパイダーの胴体をぶち抜いたの!? いやいや、おかしいよ! 木の槍なんかじゃエッジスパイダーの体を傷つけることなんてできないはず!」
「そうなのか? でも実際に倒せてるぞ?」
「だからそれがおかしいって! なにかしらの魔法を木の槍に込めて強化して発射したとかじゃないの?」
なるほど。確かに投げるときに力を籠めた瞬間いつも身体を覆っていた熱いモヤのようなものが右手に集中してたような気がする。
この未知のエネルギーが尋常じゃない
「魔法も知らないであんな芸当ができるのなんてとんでもない力だね。ちょっと
意味が分からないが、俺は素直に言うことを聞いて屈んでみる。
「ふうむ。ふむふむふむ。やっぱりね」
「なんだ? なにか分かったのか?」
「瞳を良く見ると、その者が纏う魔力の揺らぎが見えるんだ」
「魔力の揺らぎ?」
「そう。おにいさんの瞳は金色っぽく見える時がある。このとき見える色によって魔力の属性も何となく分かるんだ」
ほう、なんだかファンタジックな話になってきたぞ。
この熱いモヤみたいなエネルギーは魔力だったということか?
そうなると元いた世界でも魔法があったということか?
それでもここより遥かに進んだ文明で最新の科学力をもって研究してきたのに、魔法なんて言葉は
でも確かにあの意識を失う瞬間に胸の奥の方で魔力のエネルギーが大きくなっていくのは感じた。
あの瞬間に生まれた魔力のチカラによって
それではこういった特殊な能力は覚醒遺伝子とやらが影響を与えているという――。
「ちょっとちょっと! 人の話聞いてる?」
「あぁ、すまん。ちょっとあまりにも色々な情報が入り込んできて混乱してた」
「別にそんな難しい話じゃないよ。でもまぁおにいさんの属性はちょっと珍しいかも」
「そうなのか? というかその属性ってのは何なんだ?」
「本当に何にも知らないんだねぇ。それじゃあまず、わたしの瞳を見て」
「ん? お前の? どれどれ」
そのマヌケそうな顔のつぶらな瞳を凝視する。
「ん~。オレンジ色っぽい瞳が見えるな」
「そうじゃない。わたしの瞳は元々赤色で、黄色の魔力の揺らぎによってオレンジ色っぽく見えるの」
「あ~。言われて見れば確かに黄色いモヤみたいなのが見えるな!」
「そう! それがわたしの魔力の揺らぎであり光属性の色ね」
「ほう、光属性? なにその正義の味方みたいな属性」
「これもちょっと珍しい属性なんだよ! 癒しの魔法が得意な属性なの」
「へぇ~便利だな。それはどの程度の傷を治すことができるんだ?」
「わたしはまだ初級魔法しか使えないから、ちょっとした傷やお腹を下したのを治すくらいしかできないけど、上級魔法にもなれば完全に切断された手足を元通りにしたり、重病にかかった患者を一瞬で治したりできるみたいよ。更に伝説の治癒魔法と言われているものは死んだ者を蘇らせることができるらしいし」
「死者の蘇生!? それは本当に凄いな!」
「でもそれは伝承に出てくる魔法で今使える者は聞いたこと無いんだ」
「そうなのか。それでもロマンがあるな。そうだ! 俺は? 俺の属性はどういうのなんだ?」
そう言うと、ピンク色の幼女はまたジっと俺の瞳を見た。
「おにいさんの属性は……結論から言うとよく分からないや」
「え? なんだよそれ! さっき珍しいって言ったじゃん」
「確かに珍しいのは分かる。もしかしておにいさんの元々の瞳の色は黒かな?」
「あぁそうだよ」
「まずそれが珍しいんだよ。黒い瞳というのはこの世界では<闇に生きるモノ>の象徴なの。人間族は茶色とか青とか緑とかが普通」
「闇に生きるモノ?」
「そう。そいつらはバケモノなの。でもおにいさんは人間族でしょ? これはわたしのような目の良い者にしか分からないけど、元々の漆黒の瞳が分からなくなるくらい強い魔力と複数の属性が入り乱れた色で、普段は金色っぽく見えてる」
「それは良いものなのか?」
「まぁ悪くはないと思うよ。さっきの蜘蛛を攻撃したチカラをみると、意識せずにその強力な魔力を使っているように思えるからね」
「ふ~ん。まぁなんだか分からない未知のチカラってのもまたロマンがあるよな!」
魔法か……。
確かに身体強化などは魔法といえば魔法のようなものだな。
身体が動かしやすく身体能力がアップしているのもこの魔力のおかげなのかもしれないな。
「そういえば、お前は何をしてたんだ? 食料でも盗もうと様子見してたのか?」
「ギクッ! え!? ちっ違うよ! こんな森の奥地で人間が一人で生活してるのが珍しくて見てただけだよ!」
グゥっと幼女のお腹が鳴った。
「……。まぁいい、串焼きでも食うか?」
「えっ、えっ、良いの~。いや悪いな~。わたしはシルチーナ・ルー・ルーガ。種族は妖精。シルチーって呼んでいいよ!」
「ん、あぁ。俺はクロノ、名前はサトシだ」
なんだかやけに慣れなれしくなったシルチーに串焼きをあげて、さっき蒸し焼きにしていた燻製肉を裏返しにいく。
「美味しいっ! 初めて食べた! ジューシーでいて味が濃い! それにしても、サトシは凄いね。この辺りのジャングルではこのガボルバーグが食物連鎖の頂点なんだよ」
「ガボる? なんだって?」
「ガボルバーグ。この地走りドラゴンの名前。こいつはさっきの蜘蛛すら捕食するこのジャングルの覇者なんだ」
「え!? ドラゴンなのこれ!?」
「そうだよ。なんだと思ったのさ。こんなの食べるのはサトシくらいしか居ないよ。でもまぁ初めて食べたけどこれは美味しいね!」
でかいダチョウかとおもってたらドラゴンだったか……。
「そういえば妖精とか言ってたけどこの世界には人間以外にもそういう種族が居るのか? 例えばお前みたいにしゃべれる種族は」
「そりゃいっぱいいるよ。人間やエルフ、ドワーフや獣人、魚人や翼人とか色々あるよ。そういった、人間が元になる亜人族や、わたしみたいな妖精や精霊みたいなスピリチュアル系の種族もあるね。あとはなかなか見ることはないけど知性のあるドラゴンとかの古竜族とかもいるみたい。でもまぁ一番数が多いのは人間じゃないかなぁ」
なんだか面白いな。ワクワクしてきた。
「そうだ! この辺りには人間が住んでる村とかはないのか?」
「人間の村? 人間だけが住んでるわけじゃないけど村はあるよ。わたしもそこに住んでるしね」
「え? このあたりなのか? 2キロメートル四方は探索したんだけどな」
「このあたりではないね。向こうに半日歩いたところにある」
そう言ってシルチーは東の方角を指差した。
「半日って言うとまぁそれなりの距離だな。お前はその距離をこんなところまで何しにきてたんだ? 見たところ戦闘能力はなさそうだし、一人じゃ危険だろう?」
「別にそんなに危険でもないよ。わたしは特殊魔法で回りの風景に溶け込むことで存在を消すことが出来るんだよ」
「特殊魔法? それは普通の魔法と違うのか?」
「うん違う。わたしにしか使うことができない魔法。でも存在を認識されなくなるだけで、実際にそこに居るし触ることもできる。それでさっきは木の上で隠れてたら、わたしの上にエッジスパイダーが知らずに乗っかってきたの。あいつの手足は触るだけで痛いからね。それでびっくりして木の枝から落っこちたんだよ」
「あぁ。そういうことね。でもまたすぐ存在を消せば大丈夫だったんじゃないのか?」
「それは無理。この魔法は発動するのにちょっと時間がかかるし集中しないといけないから、びっくりしてたらすぐ使うことはできない」
ふ~ん。そういうものなのか。
「それで、なんでこの<原初の祭壇>に来たかというとね。ここはこのジャングルの中心地で、誰が作ったかは知らないけど、太古の昔からある神殿のようなものなので、何故かこの辺りには獣が寄り付かないの」
あぁ、それは知ってる。だからここを拠点にしたんだしな。
「最近、村の周りにジャングルの方からよく魔物が出現するようになったのね。魔物と言うのはさっきの蜘蛛とかの巨大生物」
ふむふむ。そりゃ大変だな。
「普段は、村の周辺に魔物がくることは滅多にないんだけど、ジャングルの中で何か異変があるとそういったことが起こることもあるんだ」
なるほど。なにかジャングルの中に生態系を乱す存在が……。
「それでわたしが頼まれて代表して様子を見に来たってわけ。それでこの原初の祭壇でキャンプをしつつ辺りを調査しようと思ったところでサトシを見つけた」
「そ、そうか」
なんか分かってきちゃったぞ……。
「流石にガボルバーグを串焼きにして食べてるときはどんな魔人がいるのかガクブルだったけど、普通の人間族みたいで良かった。いやぁ、それにしてもなんで急にジャングルの魔物たちが村の方まで来るようになったんだろね。サトシは何か気付いたこととか不審なモノとか見なかった?」
こいつ……気付いて無いのか?
「い、いや。一ヶ月くらいここにいるけど特に変わった生物とかは見なかったかな」
十中八九……俺が森の中で暴れまわってたせいだ。
「そうか。それにしても一ヶ月もこんなところに居るなんて本当凄いというか変人というか」
「あ、あぁ、自然が好きなんだよ。そ、そういえば最近ガボルバーグが何頭か暴れまわってた気がするな。俺がほとんど倒したからもう大丈夫だと思うけど、それが原因で魔物が森林の外にでていたのかもしれないなぁ」
「ほとんど倒したの!? 本当凄いね。確かにガボルバーグみたいな頂点捕食者が活性化したら他の魔物は外に逃げるしかないね。それが原因っぽいな」
よし。アホで良かった。
「サトシはずっとこの辺りで生活するの? 良かったらこのガボルバーグとエッジスパイダーの素材を売って欲しい」
「素材? この爪とか鎌足等か?」
「そう。あと羽根も欲しいね。ガボルバーグの羽根は不燃性で軽くて装備の素材としては高級素材になる。それとクチバシ付きの頭蓋骨も良い素材になるね」
「へぇ~そうなのか。丁度良かった! 俺も村が見つかったらここを離れようと思ってたんだ。シルチーの村に案内してくれよ」
「そっか。いいよ案内する。それにしてもサトシはどこから来たの? 魔法も知らないのにこんな危険なジャングルの中で一人で生活してるなんて、百歩譲っても頭のおかしい人にしか見えないよ」
「うるさい! これには色々訳があるんだよ」
俺は、魔力によって違う世界から転移してきたことや、ここに住み着いたまでの経緯などをシルチーに話した。
シルチー曰く、こっちの世界には精霊界や闇の深淵とかいう別次元の世界が存在するらしく、それらと似たような所から来たモノなんだなという認識だった。
空の雲行きも悪くなってきて一雨降りそうな雰囲気だったので、今日は祠で一泊し、明朝準備をして天気が良ければ荷物をまとめて出発することになった。
***
■
・簡単な治癒魔法で光属性を持つ者しか使えない。主に軽い外傷を治せる。使える者は少ない。
■
・未来の治療施設などで使われる高度な治癒装置で、ナノ光技術によって生体組織の再生を促す。損傷の具合にもよるが、基本的には外的損傷は完全に治すことが出来る。
■シルチーの特殊魔法(特に名前は無い)
・準備に少し時間が掛かるが、周囲に溶け込み存在を認識されなくなる魔法。ただ、認識されなくなるだけで、実際にはそこに存在する。その為、広範囲の攻撃等は当たってしまう。
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