オーバーテクノロジー ~近未来から転移したS級戦闘兵がハイテク魔法で異世界無双~

ピクミンの子

1章 未知の視線

第1話 異世界ジャングル

 

「グギャアアアア!」


 その巨大なモンスターは、耳をつんざくような叫び声を上げ、かま首を持ち上げて辺りをキョロキョロと見渡している。

 よし。気付かれていない

 俺は気配を消し、木の上からそうっと下を覗いて、そいつの背中に刺さったお手製の木槍を確認した。

 そいつは全長7~8メートルはあろうかという恐竜のような鳥で、翼が退化している代わりに足が太く鋭い爪がついていた。その大きな頭には頑強なクチバシあり金属のようなウロコが頭全体を覆っていた。


「グロロロロ」


 突然の攻撃に警戒し、体中の羽を逆立てて見えない敵を威嚇しているようだ。

 今だ!

 そいつが真下に来たときを見計らって、高周波振動小剣ヴァイブブレードに全体重をかけ、首すじ目掛けて飛び降りた。


「グギャ!」


 ゴロリと頭が転がっていき、その大きな体はビクビクと痙攣しながら、首から真っ赤な血が辺り一面へ流れ落ちていく。


「よし! これで一週間は食料の心配はしなくていいな!」




 俺の名前はクロノ・サトシ、21歳。この世界に来たのは一ヶ月ほど前だ。


 気付いたら無機質な祠の中の石棺のようなモノの中で眠っていた。

 随分と古い建物の様で、奥の方まで植物のツルがびっしりと蔓延っており、人が生活していた形跡などは見当たらなかった。

 よく言うと祭壇の中にあるような祠である。


 俺が元々居た場所は、いわゆるデストピアとまではいかないが、文明が飛躍的に発達している代わりに、生物が生きていくには厳しい環境の世界だった。

 それは世界各地で起こっていた量子戦争のせいで、人類はシェルターの中に篭って隠れるような生活をしていた。


 俺は物心がついた頃から戦闘員として厳しい訓練や任務をこなしてきた。

 この世界ではごく当たり前のことで、遺伝子最適率から導き出された人口受精によって生まれ、勿論両親の顔なども知らない。

 その中でも俺は稀有な覚醒遺伝子を持っていたらしく、S級戦闘兵として生まれた時から軍の研究施設に預けられ特殊な訓練を受けてきた。


 最期に記憶しているのは、潜在意識増幅訓練とやらを行っていたところだったと思う。それは無意識の中で起こる無作為的なチカラを増幅させコントロールするというものである。極論を言えば、思ったことを実現させてしまえる能力で、例えば、体組織を強固にして弾丸をはじくことが出来るようになったり、遮蔽物の向こうにあるものを手を使わずに動かしたりするとかである。まだ実験段階で肉体への負担も大きいということから、無理な訓練はしないように命令されていて、出来ることといえば身体パフォーマンスの微強化程度だった。


 しかしその日の訓練中に普段とは違う違和感を身体に感じていた。

 胸の奥の方になにか熱いものがモヤのようにうごめいているのである。

 それは段々と膨れ上がっていき、その強力なエネルギーを体の中に押さえ込もうと必死に抗った。


「……………!?」

「……! ……!」


 研究員達がなにやら叫んでいるのは分かるが音が聞こえない。

 そして、そのままゆっくりと意識が無くなっていった――。



 ――気付いたときには異世界である。



 祠から外に出てみると、まるで熱帯雨林のジャングルのような森が、見渡す限りに広がっていた。

 ただ一つ違うのは、ここは何もかもが大きかった。

 木々の背丈はゆうに300メートルを超え、生息している生物はどれも見たことがなく巨大だった。確かに元の世界でもセコイアなどは120メートルとかまで成長する木であったが、ここの木々はそれをはるかに凌駕するほどの大きさだった。

 このような大自然を間近で見るのは初めてで、なにより空気が新鮮で美味いと感じたのも驚いた。

 俺は未知の世界に対する不安よりも、高鳴る期待と興奮の方が大きく感動し打ち震えていた。


 ふと、何故だかこの世界では力が普段より強くなっているように感じた。

 何故か身体が動かしやすい。

 胸の奥にあった熱いモヤが、今では体全体に広がり身体を覆っているような感じだ。

 そのおかげか分からないが、集中しなくとも身体強化がなされているような感覚で、突然未知のジャングルに放り込まれた割には、そこまで苦労することもなく生活できている。

 しかし、これが強化兵士ではなく知識層の人間だったら1日と持たずにさっきの巨大鳥なんかに食われていただろう。


 血抜きも終わったようだし、とりあえずこの巨大鳥を捌いて食料を確保する。

 この巨大鳥は、羽を毟ればベッドや防寒具になり、金属の様なくちばしはちょっと加工するだけで良い感じの鍋になり、するどい爪は槍の切っ先などの武器になり、お肉は極上の味と言う、余すところも無い美味しい獲物なのである。

 ただ、このあたりには動物の腐肉などを漁る六本足の巨大トカゲや巨大なムカデみたいな昆虫もいるので、血を抜いたあとは強い臭いを発する草をいぶしてニオイを隠して獣や虫がよりつかないようにしないといけない。


 ふと、『何かの視線』を感じたような気がして辺りを見渡す。


「なんだ? 気のせいか……?」


 俺が着ている特殊戦闘強化服バトルスーツには、周辺探索装置アラウンドサーチシステムというものが付いており、半径100メートル以内の、地形やそこに存在するモノ全てが直接脳内に送信される。

 勿論外敵等も事前に察知することが出来る……が今は特に反応はない。

 それでもここは未知の異世界で油断は出来ない。


「早めに解体して拠点に戻ろう」


 何回か往復し拠点へと素材を運んだ。

 俺が現在寝泊りしている拠点は、この世界で最初に目が覚めた祠だ。

 当初は、ほかに人が住んでいる村などないか少し探し回ったこともあったが、なにせ巨大なジャングルの中だ。慣れない世界での生活で、まずは生き残らないといけない。

 装備はあのとき身に着けていた高周波振動小剣ヴァイブブレード特殊戦闘強化服バトルスーツだけだ。

 訓練の中には勿論サバイバル訓練もあり、兵士として育てられた俺には特に難しいことではなかったが、それでも昼夜休まずに外敵を警戒していたのでは身が持たない。

 そのうち何故かこの祠には猛獣はおろか昆虫ですら寄ってこないことが分かった。理由は分からないが、周りに毒物があるわけでもなく、ただ生きていくぶんには快適な場所であった。


 肉は適当な大きさに切って、木の枝で作った大きな物干し竿にかけていく。それを重ねてたき火の回りに立てかけていき、ハーブのような草を火にかけて煙でいぶしていく。こうすると日持ちもする美味しい燻製ジャーキーができるのだ。

 今日は獲れたてだからキモを串焼きにして食べよう。つい先日、翼がある鹿のような動物を見つけた時、そいつらが舐めていた岩が岩塩だったことがここ最近で一番嬉しいことだ。


「ん~。美味い!」


 やっぱりこの辺りじゃあの巨大鳥が一番美味しい。

 人口肉と違って、コクがあって深い味わいだ。

 俺は訓練によって様々な毒に耐性があり、尚且つ特殊戦闘強化服バトルスーツによって食物に含まれる成分なども分かるので、未知の食物でも安全に摂取することができる。 

 


 他にも見たことない色んな植物もあり、初めて口にするその新鮮な味覚に感動し、俺は喜びを噛みしめていた。

 

 

***


高周波振動小剣ヴァイブブレード 

・刃渡り50センチほどのソードで、超高速の振動によって通常の刃物を遥かに越える威力を持つ。刀身の素材はマキシム超合金と言い、最新科学の粋を集めた非常に硬い金属である。


特殊戦闘強化服バトルスーツ

・様々な機能を有する戦闘補助服で、S級戦闘員のみ使用可能である。通常の身体能力を何倍にも伸ばすことができ、マキシム超合金の繊維を使っている為、非常に強固である。


周辺探索装置アラウンドサーチシステム

特殊戦闘強化服バトルスーツの機能の一つ。半径100メートルであれば、地形や生体反応などを直接脳内に送信され詳しく知ることができる。地形だけであれば半径2キロメートルまでマッピングすることが出来る。個別に生体反応を登録しておけば、その者の位置が常に分かる。


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