第2話 決戦! 運命の時計台 (前編)

 翌朝、噂話は瞬く間にアムストル市中に拡がっていた。アムストル市民は、怪盗紳士Gの話題でしきりだ。

「へぇー。怪盗紳士G、意外とやるじゃない。」

「まるで、映画のヒーローみたいだわ。ステキ♪」

・・・などなど。怪盗紳士Gの評判は、悪くない。




 昼休みの時間、ルフィーの唯一の部下のギルバートが、ルフィーにコーヒーを淹れて持ってきた。

「あわわ、ルフィーさん、元気出してくださいよぉ。」

 ルフィーは、朝から、ぼーっと、考え事をしていた。

「ギルバート。コーヒーなら、そこに置いておいて。」

 ギルバートは、地味で、線が細く、気も弱そうな雰囲気の青年。だから、いつもおとり捜査官が務まっている。おとり捜査官の中で、彼だけは格別、単なる天然なのだ。

「ルフィーさん、一つ聞いていい?」

「だめ。それとね、わたしルフィーは、あなたの上司よ? 気安く名前で呼ばないでくれる?」

「ルフィーさん、怪盗紳士Gのことどう思う?」

 ギルバートの質問に、ルフィーはしばらく答えなかった。ルフィーの口が塞がれていたからである、コーヒーを啜っていて。

「そうね、また警察本部にちょっかいかけてくると思うわ。」

「えー? そうかなぁ? ルフィーさんって意外と鈍いね。」

「それ、どういうこと?」

「そういうことですよ、ルフィーさん。」

「ふぅ。」

「もぅ、ルフィーさん、今朝からため息ばかりですよ? 元気出してよぉ。」




 夜になったアムストル市警察本部。いつも通り、いくつかの部屋の明かりがついていた。そのうちの一室。ドン!と机をたたく鈍い音が重く響く。中年男性が不機嫌そうにしている。ルフィーの上司、エーベルトだ。表情も、声も、不機嫌極まりない。単に幹部会議が長引いたから、・・・ではない。

「何たるザマだ! 君は詰めが甘すぎる!」

 上司のエーベルトは続ける。

「怪盗紳士G、街では人気者になっている。これでは、警察のメンツが丸つぶれだ!」

 机には、アムストル新聞の夕刊。“ヘイゼル伯爵、汚職事件に関与か 警察は後手”との記事が、派手に書かれていた。ルフィーは、謝るほかない。

「も、申し訳ありません。」

 ルフィーの謝罪を聞いたエーベルトは深呼吸して、今度は静かに言う。

「そこでだ、いろいろ考えたんだが・・・」

 その時、ドアをノックする音がした。

「大変です! 怪盗紳士Gから新たな挑戦状です!」

「ダニィ!? 二晩連続じゃないか! 今度はなんだ!!」

 エーベルトは驚いた。

「読み上げます! “時計台で待っているよ。ルフィーひとりで来い。 -怪盗紳士Gより-”」

「ダニィ!?」

 エーベルトは再び驚く。ルフィーは、さっと椅子から立ち上がった。

「わたし、行きます! 命令があれば。」

「すまん。だが、援護班がしっかり後を追う。頼んだぞ!」

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