怪盗紳士G vs 王都警察

まろうソフトウェア工房

第1話 ご対面

 ナイセン王国アムストル市、某貴族邸──。

 初老の男性と若い女性が、貴族邸の応接室で話始めた。初老の男性は明らかにそわそわしている。対照的に、若い女性は、落ち着いた様子である。

 若い女性は、その態度と一致した落ち着いた声で、

「ヘイゼル伯爵さま、わたくしにお任せください。」

 と、初老の男性に話しかけた。初老の男性は、そわそわしながら、

「ほう、信用していいのだね? 確か君は・・・」

 と、速くて細い声を落ち着かせるのに失敗しながら、質問した。若い女性は、

「王都警察の特殊防犯課のルフィーです。お見知りおきを。」

 とだけ、簡潔に答えた。

 初老のヘイゼル伯爵は、上ずった声で、

「そうか、とうとう王都警察まで動いてくれたか。」

 と、喜んで見せた。到底、喜んでいるようには、見えないが。そして、早口に話し続けた。

「怪盗紳士G、やつが国中の話題になったのも、かれこれ・・・」

 その時である。

 ガッシャーン!と、ガラスの割れる音が、邸宅中に響き渡った。




 それとほぼ同時に若い女性ルフィーの声が響き渡る。

「来たわ!」

 ルフィーが、音のした方向を向くと、方向とは逆に、その反対側から、若い男性の低い声がした。

「初めまして。ほう、君が特殊防犯課のルフィーだね?」

 ルフィーは、意表を突かれた。

「え?・・・って、なんで知ってるのよ?」

「挨拶が遅れてごめんね。俺、怪盗紳士G。ソファーの陰で、最初っから会話を聞いていたんだよ。」

 声優さんのような声だ。しかし、悪趣味な仮面をかぶっている。

「この変態! まずはそのマスクを取りなさい!」

 もはや全然冷静ではないルフィーは、叫ぶように命令した。

「ほうほう、いいね。とても気に入ったよ。」

 怪盗紳士Gは、3人のうちでは唯一平然としていたと言ってよいだろう。ヘイゼル伯爵が、話に割り込む。

「それはどうでもいい。そんなことより、怪盗紳士G! 貴様の望みはなんだ!」

「アムストル市 行政文書5255-4612-Eを頂戴する。」

「なっ・・・。ごほん。何のことだね?」

 ヘイゼル伯爵の余裕のなさを見て、怪盗紳士Gの仮面が少しずれた。このずれ方は、不敵な笑みを浮かべたというずれ方である。

「伯爵。今回のアムストル市の市役所修繕事業の入札金額、ちょっと不整合があってね。」

「知らん。わしは知らんぞ。何のことだ?」

 ガッシャーン! 再びガラスの割れる音がした。怪盗紳士Gは、

「ふふ、行政文書5255-4612-Eは頂いた。伯爵、あなたは明日の朝の新聞では容疑者になってるよ。」

 と捨て台詞を残し、逃走し始めた。

 ルフィーは、果敢にも、警棒を手に、怪盗紳士Gに向かって、突進した。

「怪盗紳士G、待ちなさい! あなたも、立派な犯罪者よ!!」




 鳴るはずのない深夜2時の鐘が高らかに鳴ると、怪盗紳士Gの声だけがこだました。

「ハッハッハッハ、アデュー!」

 こだまする鐘と不敵な笑い声の中を、赤と白のバラの花がつむじ風とともに舞い、雪のように降ってくる。

「バカだろ、コイツ」

 ルフィーの声が混じった。

「わしの、わしの人生がぁぁぁぁーーーー!!」

 ヘイゼル伯爵の絶叫も混入している。

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