手紙
内容は実にシンプルで、不可解だった。
ー 東雲君へ -
ついさっき外で、知り合いの住人さんの家へ遊びに行ってたの。
帰る最中に、スクラップ広場には似合わないくらい大きな錨があってね、人と同じくらいのサイズで驚いちゃった。
変だなって思いながら、おつかいで街の端の方まで行ったんだけど、そこでも二つ目撃しちゃったのよ。
何か心当たりはない?一応信頼できる人に手紙を出したの。
知ってたら返事を頂戴ね。 -
急に話がややこしくなりすぎだ。
おかしい。何がおかしいと言われても、上手く答えられない。あまりに非現実な世界で、非現実が次々に姿を現している。
耕されていない田んぼのような場所が、海から真っ直ぐ、街を更に通り越したその先に存在している。僕らはそこを勝手に「街の端」と呼んでいる。なんとなくイメージづいたのが、その言葉だった。
まだ僕らが見つけたような、人目につきやすい場所で、一点に住民の意識を引くというのが目的なら理解できる。
だが手紙に書かれた情報では、端にある、存在さえしられていないかもしれないエリアに設置されたらしい。おまけにそれがいつ設置されたのかもわからない。もしかしたら、それは今日かもしれないし、気づいていなかっただけで、もっと前からあったのかのしれない。
推測だけならいくらだって出来る。だが意図はどうしても読めないでいた。
上田が帰ったあと、僕は何度もその手紙を読み返した。気づけば文章を暗記してしまっていたほどに。差出人は曖昧だが見えてきた。
何故その人がこんな手紙を…。
考えれば考えるほど、内容が難しくなっていく。
目を通していて、一番理解できなかったことがある。それは一番最後に書かれていた短い一文。
「時谷夕花、彼女は危険だ」
何度見てもわからない。僕は彼女に対して危険だという感情を持っていたが、この文章では僕とは違った目線の危険が潜んでいるのかもしれない。
ふと外を見ると、残酷な海から嫌がらせのような太陽が、顔を出した。
「もう寝よう」
そう言って、僕の夜が幕を閉じた。
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