第24話 カイのレベリング
一息ついたシャインの元にオークロードが現れた。卑屈な笑みを浮かべている。
『お強いですね、さすが我らを率いるのに相応しいお方。初めて見た時から思っていました』
「そんなことはない。むしろお前の働きに期待しているぞ」
『は、はいっ』
オークロードが喜んだ。
『アニキー』
ゴブリンキングが現れた。
「なんだゴブキンか」
『ゴブキンッ』
オークロードがぶほっと噴き出して笑う。
『そんなっ――(トレカみたいな呼び方ひどいっす。はっ! ト、トレ? 今なんかものすごく懐かしい響きが頭に!?)――はあああっ!?』
「な、なんだよ」
シャインはゴブリンキングの驚愕したような形相にたじろいた。
『アニキー!』
「ぐあっ」
ゴブリンキングはシャインの胸に飛びついた。頭突きのようにシャインの顎に当たる。
『あ、汚ねぇぞゴブキン。露骨な媚び売ってんじゃねーぞ』
横でなぜかオークロードが地団駄を踏む。
――なんだこの嬉しくない絵面は。
「ふふふ楽しそうだね」
そこにネオスがやってきた。
ゴブキンがシャインから降りふざけるのをやめた。オークロードが背筋を伸ばした。二匹はネオスが相当怖い様子だ。
「シャイン君ちょっと話があるんだけどいい?」
「はい、いいですよ」
シャインはそう言って、名残惜しそうなゴブキンたちと別れた。
誰もいない廊下を二人で歩く。
ネオスが唐突に切り出した。
「シャインくんってもしかして転生者?」
シャインの心臓がドキンと跳ね上がった。
「転生者? なんのことでしょう?」
シャインは首を傾げて本当に分からない素振りでネオスに答えた。
「異世界との融合時は肉体と魂の繋がりが不安定になる。他人に転生してもおかしくはない」
シャインは、人の話聞いてます? と言いたげな面倒臭そうな目でネオスを見た。
しかし内心、そんな疑われる行動したかな? していたんだろうな、という思いでいっぱいだ。どう言い訳するか頭を巡らせる。
かといって焦りはない。もはやバレても問題ない立場にいると自分では思っている。
沈黙するシャインを見てネオスがさらに口を開く。
「安心して、君がどうこうなるなら聞きはしない。こう言っちゃなんだけど、中身が別人であっても魔王様は君を軍団長に据えるだろう。これは単純にぼく自身の興味の問題なんだ」
自分と同じ考えの言葉にシャインは納得した。魔王はそういうやつだ。
ネオスは懇願するような顔をしている。
その表情にシャインの心が揺らいだ。
「どうしてそんなことが知りたいのか分からないけど、異世界といっても大したことないよ?」
「え、じゃあ」
「その通り。俺の中身は異世界からきた地球人だ」
その日、ネオスが我が家(砦)に転がり込んできた。
夜、シャインは二階の南側の角部屋にある自室にネオスとカイを招いた。
洋風のソファーとベッドがあるだけのまだ家具が揃っていないシンプルな部屋。
シャインは意を決してカイに自分は異世界からきた鈴木ヒカルであると打ち明けたが、当の本人はあまりよく分かってないらしく、
「そうなんですか」という惚けた返事だった。
ソファーに座り異世界のことについてネオスに聞かれるまま話した。
ネオスは食い入るように話を聞いている。
逆にカイは聞き慣れない単語が飛び交うせいか、何度もこっくりして意識が落ちそうになっていたのでベッドにいかせた。
そんなに興味ないか?
カイはベッドの上でひとしきりゴロゴロした後、自分の尻尾を抱きながら寝てしまった。
その様子を見てシャインが微笑む。
★
まるで親友と語り明かすような長い夜。シャインは自分がこんな喋るとは思っていなかった。
知らないうちに溜まっていたものがあったのだろう。ネオスの聞き上手な姿勢もあって洪水のように喋った。
特にエターナルファンタジアの冒険譚を語るとネオスは真剣に目を光らせた。
ネオスは窓枠のところに三日月型に座り、遠い目をして外を眺めている。
月明かりに照らされる横顔は神々しかった。
――あれ、寝てないよね?
「ネオス聞いてる?」
「――聞いているよ。まるで見てきたかのように想像できたよ。ぼくもいつか行ってみたいな、エターナルファンタジア」
「ははは、それは無理だけどな。ゲームだから」
「ふふ、そうか。でもすごく面白かったよ。そのゲームの世界はこの世界と似ているね。興味深い」
「逆にこっちの世界の情報は知らないから気をつけることがあれば聞きたい」
「ではぼくのほうからも情報を提供するとだね、嬉しい情報からひとつ。ダークエルフの寿命は300年以上だ」
「え、そんな長いの?」
「シャインのいう地球の人よりは長いね。ヒューマンでも平均150年以上だから。エルフはもっと遥かに長い」
「まじか。300年……」
300年といったら相当長い。シャインは喜びと同時に戸惑いにも似た驚きを覚えた。
「あとは、君の世界は色々と危なっかしいね。この世界で同じことをやろうとすると間違いなくダンジョンやドラゴンを刺激することになるだろう。それで滅んだ文明はいくつもある、この世界では自然との調和して生きてゆくしかないんだ」
ゲームではダンジョンは生きているとされていたし、ドラゴンは何百人がかりで討伐する生物だった。そういう天災級のものを呼び込むと言いたいのだろう。
「なるほど」
「あと注意すべき点は禁忌能力かな。禁忌スキルや魔法は覚えてはいけない。まあ、ほとんど存在しないから気にしなくていいけど」
「え、なぜ?」
ネオスが思ったより食いついたシャインをじっと見たあと口を開いた。
「禁忌持ちは必ず破滅する。だから禁忌になっているんだ。どの国でも発覚したら死刑だよ」
「ほうほう、それだけ凶悪な魔法なんだな」
「強いというわけではない。最終的に本人や周りを破滅させる魔法をいう。この手の魔法やスキルは削除もできない」
「破滅……」
その言葉がシャインの心に刺さる。
フェイク・リザレクションは人助けで使っていればすぐ自滅してしまう技だ。そして人は死ぬのだから持っていたら否応なしに使いたくなる場面に遭遇する魔法。
自分のためだけに使おう、シャインは改めて決心した。
「……持っていなければいいんだけどね。君は禁忌持ちじゃないかってサキュバスたちの間で疑われているので少し気になってね。知らない人からしたら君の代わり映えは異常らしい」
「そ、そうなんだ。情報ありがとう」
「まあ分からないことがあったら何でも聞いて。その代わりまた異世界の話聞かせてよ」
「ありがとう」
こうして濃密な夜が終わった。
シャインは喋れたこと以上に同性の友達ができたことが嬉しかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
翌日――
ダンジョンに出かけようとするシャインを見かけて、カイは同行を強く希望した。
強くなってお母さんに会いに行きたい、シャインの役に立ちたいという思いからだ。
「ダンジョンは遊びじゃないぞ? 死ぬかもしれないよ」
「はい」
脅し気味の言葉にカイは迷いなく返事をした。
シャインも自分の身は自分で守れるようになっていた方がいいと考えている。
「適性を見る、できるだけ一人で戦ってみてくれないか。無理そうなら手伝うから」
「はいっ」
カイが真剣な面持ちで答えた。
ダンジョンで手に入れたドロップアイテムの中からだぶっているオリハルコンダガーと高級レザーアーマーとブラックボーンシールドを渡しダンジョンへ向かう。
☆
闇の聖女のダンジョンに入るとさっそくゾンビがお出迎え。シャインにとっては見慣れたやつだ。
「一人で戦えるか」
「はい」
カイは勇気を振り絞り剣を構え、飛びかかった。
危なげなく倒す。
「筋がいい」
その言葉にカイの胸が踊った。
「暗視や気配遮断、感知系のスキルがあるなら覚えた方がいい」
「暗視と気配遮断は持っています」
「そうなの!?」
シャインが目を丸くして驚いた。親が冒険者だったという話を聞いたことがある、そのせいかもしれない。
その後も相談をしながら慎重に進んでいく。
基本的にカイのためにならないのでパワーレベリングはしない。複数に囲まれた時に手伝うぐらいだ。
カイが錆びた剣を持ったスケルトンと向き合う。
スケルトンの攻撃は空振り、カイの連撃が当たりまくる。
すぐに倒した。
攻撃の鋭さにシャインは目を見張った。
「いい動きだ」
「ありがとうございます」
「ちなみに力、体力、敏捷は20以上で高いほうだ。参考にまでに教えておく」
「その3つは25を越えています」
「なに!?」
――獣人の長所特化型か。なら他が弱いな。
「それはどうなんですか?」
「かなりいい。魔法などには弱いが無理に短所を埋めずに長所を伸ばすスキルを獲得したほうがいいかもしれない。俺ならそうする」
シャインがそういうとカイは目を輝かせた。
そこからは水を得た魚のようにカイは魔物を倒していった。
楽しそうなカイを見て、シャインは合格を言い渡す。
一日目を終了した。
シャインたちは帰ってクルが用意した風呂に入った。カイに背中を流してもらった。
夜、二人で寝る。
布団の中で充満するカイの匂い、シャインはドキドキして眠れなかった。
「カイ」
「シャイン様」
シャインがカイの体を引き寄せた。
見つめあう二人が唇を重ねるまでに時間はかからない。
二人は何度もキスを交わした。
翌日からは寝る前はそれが日課になる。
☆
10日が過ぎ、カイはレベル13になったいた。スケルトンの上位であるスケルトンソードマンや厄介なスケルトンアーチャーがいる三階層まででは敵なしである。
しかしレベル10前後から極端にレベルが上がりにくくなり成長にブレーキが掛かった。
この段階になって最下層にいた魔物が極上のはぐれメ◯ルだったとシャインは分かった。いやシャインは知らないが最下層でなくてもこのダンジョンは非常にレベリングに向いているのだ。
ついに王国行きの馬車で出発する日も翌日に迫った朝、クル・ハープがシャインの元にやってきた。掃除中だったらしくメイドエプロンにハタキを持っている。
「ロマ法国が攻めてきた。魔王様が呼んでいるのだ」
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