第23話 ★人狩り

 アレクサンドリア王国南部。拓けた平地にいくつも白い天幕があった。それを囲うように簡単な柵が設けられている。地球の転生者を保護する目的で行われている活動である。

 天幕の一つ、中では王国兵が上官に報告していた。


「――異邦人の誘導、順調に進んでおります」

「そうかご苦労」

「あの……あれ、本当にやるのですか?」

「フェルナンデ卿の命令だからな」

「しかしバレたら大ごとですよ」

「構わん、適当に盗賊の仕業にみせかけるのだ。ぬかるなよ」

「はっ」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「うひゃ〜、すごい人。これ皆転生してきた人かな」

「1000人以上はいるね」


 ノエルが丘から王国軍の野営地を指さしながら言った。

 ノエルたちがマンションを根城に生活していると、王国に行けるという噂が流れてきたのだ。


 レベルは二人とも8になっていたが、日増しに強くなっていくゴブリンの討伐隊との戦闘を避けるために森を脱出し王国に行くことにした。

 

 空からはポツポツと冷たい雨が降ってきた。


「あ、雨が降ってきた私たちも急ぎましょ」



 野営地に入ると長蛇の列ができていた。

 雨が次第に強くなり、服が濡れる。


「早く順番こないかな~」


 大きな鉄格子がついた荷台に人がすし詰めにされて馬車が出発する。


「でもあれに乗るの嫌だわ〜、なんか家畜みたい」

「まあまあ、これだけの人数だし仕方ないんじゃない」


 不機嫌になるノエルをなだめるヒカル。


「おらっ、お前はこっちだ」

「あ、おい。エリーをどこに連れていく気だ。俺たちは夫婦だぞ!」


 近くで王国の兵士と若い茶髪の男が口論を始めた。


「うるさい! お前はあっちの馬車だ!」


 男が兵士に突き飛ばされる。

 男は顔を紅潮させた。


「ふざけんなよ! なら帰る、エリーいくぞ」

「貴様抵抗する気か! こっちにこい!」


 男が兵士たちに引きずられて遠くの天幕に消えた。妻らしき女性も遠くの荷台に連れられていった。


 その時、天幕から微かに、しかしはっきりと鶏が絞められたような嫌な声が聞こえた。

 天幕から先ほどの兵士たちが出てくるのに、男は戻ってこない。


「え」


 ノエルが唖然とする。周りの人はほとんど気づいていないが、それでも何人かがざわめいた。


「ちっ、人狩りか」


 ノエルの近くにいた金髪の美女がそう言った。

 その美女はすぐに踵を返し列を離れた。


 ノエルとヒカルが顔を合わせて頷いた。二人は美女の後を追った。

 美女は柵を潜って脱出した。ノエルたちも同じように脱出する。その時、


『あ、女が逃げたぞー!』


 王国兵が叫んだ。


「げ」


 金髪美女が振り返り、顔を青ざめさせた後すぐに走り出した。


「僕たちも、森まで走ろう」

「うん」


 数人の兵士がすぐさま追いかけてきた。


「お、お前ら何でついてくるんだよ! 見つかっちまっただろうが!」


 走りながら金髪美女がノエルたちを見て吠える。


「ごめんなさい! 逃げ切れたらお礼はします!」

「ふざけるな、あっちいけ!」


 ノエルの言葉に金髪美女が吠える。


 その言葉通り、敏捷特化のノエルとヒカルはぐんぐんと金髪美女を追い越し離していく。


「ちょ、おい!」


 必然的に王国兵の目標が金髪美女になった。


 金髪美女に騎兵が2騎が迫ってきた。


「ヒカル!」

「ああ!」


 ノエルがくるりと振り向く。


《ダブルショット》


 魔法の矢が刺さり騎乗の兵士を落とした。

 ヒカルがもう1騎にジャンプ攻撃をしかける。

 思わぬ反撃に対処できず、兵士が落ちた。


「今のうち!」


 金髪美女に声をかけノエルたちがまた走り出す。

 追いつかれることなく森に逃げ込んだ。



 土砂降りの雨の中、小一時間走り続けた。

 三人は足がもつれるほどふらふらになっていた。


「ここまで来たら大丈夫かな」


 息を切らせてノエルが言った。


「た、助かったぜ」


 金髪美女が息もたえだえで言う。


 三人は10分ほど息を整えた。

 落ち着いた頃、改めてノエルが美女を見た。黄金を溶かしたような美しい金色の髪に、ピンと立った耳、芸術的な輪郭、絶世の美女エルフであるとノエルは思った、


「迷惑をかけてごめんなさい」

「ああ、結果助かったからもういい」


 ノエルの謝罪を美女は受け入れた。


「しかし人狩りとはなんだったの?」

「悪質な貴族が自分とこの領地内の女を攫うのはたまにある。異邦人に目をつけたようだ」


 ノエルの質問に美女が答える。


「なるほど。でもあなたは地球人には見えないけど、何であそこにいたの?」

「王都に用があってな、楽に潜り込めるかと思って並んでたんだ。振り出しに戻っちまったぜ」

「なら、改めて地力で私たちと王都にいかない?」


 女エルフが二人を見た。


「逃走の時、助けられたしな。お前たちなら信用できそうだ」

「決まりね、わたしの名前はノエル、よろしくね」

「ぼくはヒカル、よろしく」

「おれは、ネオンだ。よろしくな」


 こうして森の中、三人のパーティが結成された。

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