第9話 墓所の守護者

 真っ白な花が咲くモノクロの花畑を歩く。


 ――いた。


 50メートル先、古びたローブに身を包み、フードからは邪悪な骸骨の相貌を覗かせる魔物。


【ブラックエルダーロード】

エルダーリッチが1000年の間、濃い魔素に浸かって変質した存在。高度な魔法を操り、人より高い知能を持つ。


 眼窩に灯る赤い目がシャインを捉えていた。このところの異変で警戒水準を上げていたブラックエルダーロードは、それでも偶然ながら気配を感知させないシャインを発見した。両者が気付いたのはほぼ同時である。


 ブラックエルダーロードは久しぶりの獲物に歓喜する。

 しかしその余韻に浸る間もなく出会って2秒で駆けてくる相手に――元より生者を憎むアンデッドの性に、一瞬で憤怒に変わった。


『愚カ者ニ死ヲ!』 


 しわがれた老人の声で叫ぶ。捻れた杖を掲げた、先端に作られた頭ほどの火の球〈ファイヤーボール〉が、シャインに向かって一直線に飛ぶ。


 走り込むシャインの表情に迷いはない。何をすべきか分かっているという顔だ。いつの時代も魔法使いを倒す方法は決まっている。


 ブラックエルダーロードには〈ファイヤーボール〉にわざわざぶつかりに来ているように感じられた。

 着弾する直前、盾で受け止める。

 爆炎がシャインを包む。目が乾燥し熱せられた空気が肺に入りこみ炎が身体を嘗め回す。全身に激痛が走る。

 ダメージ軽減を超過する想像以上のダメージに内心焦るが足は止めない。


《マジックアロー》


 牽制をおいてさらに距離を詰める。


 ブラックエルダーロードは足を止めるため麻痺効果のある魔法を詠唱する。

 杖の先端に今度は雷球〈ライトニング〉が作られる。次の瞬間、放射状に走る数本の稲妻がシャインを貫いた。激痛と痺れを伴うショック。


 ここで足を止めては、接近するまでにもう一回魔法を撃たれる。シャインは歯を食いしばりながら前に足を出した。

 

 ブラックエルダーロードは既に新たな手を打っていた、詠唱に入る。同時にシャインも間合いに入り攻撃体勢に入る。

 

『《コール・オブ・ザ・カオス/混沌の呼び声》』


 耳をつんざくような高周波音が辺りに響き渡る。

 

シャインはよろめいたが、すぐに復帰しオリハルコンダガーで攻勢をかける。


 その攻撃を受けながら、ブラックエルダーロードの眼窩に灯る赤い光が初めて困惑に揺らめく。周囲のアンデッドを呼んだが反応がない。

 しかし並行して物事を考えられるブラックエルダーロードは同時に次なる呪文の選択もしていた。


『ニンゲンメ! 《デス》』


 杖にどす黒いエネルギーが集まる。

 ブラックエルダーロードの最も得意とする即死魔法。

 闇魔法は耐性十分。しかし嫌な感じも覚える。シャインは逡巡して決断する。


「それはカウンタ――」


 背後に死神が出て心臓が抜き取られるようなエフェクトが現れる。シャインは意識が引き剥がされそうな感覚に襲われた。


 ――え!? 

 うそうそ。ちょ、待って!


 ブラックエルダーロードの放つ〈デス〉は高位の魔法でありながらコンパクトで速く、シャインの対抗呪文は間に合わなかった。


 ――ぐおおおおっ。


 気付けば死んでいない。危機一髪耐えた。

 ブラックエルダーロードはレベル50を超える。レベル差による補正で死んでもおかしくない確率であったのだが、元から闇の種族、さらに闇属性防御に特化した装備が功を奏し抵抗に成功する。


 ――あっぶなかった~! 

 昇天しかけた~。


「この野郎!」

『……!?』


 シャインの怒りの猛反撃にブラックエルダーロードは面を喰らう。


『オノレ……!』


 ブラックエルダーロードは無詠唱の魔力弾、杖による殴打、ドレインタッチで応戦するも、形勢は圧倒的にシャインに傾いていた。

 しかし、先に終わりまでのルートを計算し終えたのはブラックエルダーロードの方だった。


 反撃を放棄し次の呪文を増強するバフ〈能力向上付加〉を自身に複数かける。


 ブラックエルダーロードが纏う禍々しいオーラが天井まで立ちのぼった。

 自身の持つ最高峰の呪文を唱える。


『《アースクエイク/地震》』


 この場で大地震を起こせばダンジョンは崩壊する。ダンジョンの自己修復力をもってしても修復に一ヶ月以上はかかってしまうだろう。

 それでもこの相手にはこれが最も適切だと判断した。


 ブラックエルダーロードの足元に極大の魔方陣が浮かび上がる。


「そこだ! 《カウンターマジック/対抗呪文》」


 使えなかったからこそ温存されたカウンターが炸裂し、即座に魔方陣が崩れ去った。

 

『……。《浮遊/フライ》』


 理解が追い付かない事態に遭遇し硬直するも、失われる自身の体力に気づき慌てて退避行動に移る。しかし、時すでに遅し。

 シャインは左手でがっしりと首根っこを掴まえ、右手で猛ラッシュをかける。逃がすことなくHPを0にした。

 ブラックエルダーロードが砕け散る。


「た、倒せた」


 もう一回やれと言われたら勝てるが気しない。お互い手の内を把握してやれば負けていただろう。

 ものすごいことをしちゃった達成感がシャインの心に湧きあがる。


 消滅した後には魔法書が二冊落ちた。

 拾う。


【魔力分解】レア度:SR+。

レベル9の無属性魔法。対象の魔法を分解して打ち消す。


――これはカウンターマジック系か。レア度高いな。

一般魔法の最高レベルは10だからかなり高位の魔法だ。

これはさすがに覚えるの無理だろう。

一応試してみるけど。


魔法書がまばゆく発光したあと崩れ去った。


『〈魔力分解〉を覚えた』


 ――覚えちゃったよ!

 なんか無属性は規制が緩いっぽいな、この世界では。


 もう一冊。


【フェイク・リザレクション/仮初めの魂】レア度:SSR+。

レベル10の闇属性・禁忌魔法。死体に仮初めの魂を与え復活させる。使用するとMPの最大値が3減る。



 ――完全に悪者が使いそうな魔法だ。


 レベル10……闇属性だけどこれこそ無理だろう。魔術師でもないし。

 一応試しに念じてみる。


 魔法書が、どす黒い靄に覆われたかと思うと霧散してなくなった。


『〈フェイク・リザレクション/仮初めの魂〉を覚えた』


 ――覚えるんかい!

魔術師でもないのにレベル10の魔法を覚えられるなんて。

ヒール覚えられないくせに、闇魔法はゆるゆるだなほんと。


ステータスの確認をする。

 

【レベル:29】

HP:205/325

MP:272/312


力:28

体力:12

敏捷:32

魔力:29

精神:22

運:25



 ――レベルが2上がっている。


『スキルを2つ獲得できます』


ピックアップしたニンジャ固有スキル


【サイレントムーヴ】R。無音で動ける。

【装飾】R+。幻影シリーズ。肌や外装を装飾できる幻術。幻影シリーズは同時発動できない。

【偽装】R。幻影シリーズ。ステータスに偽りの情報を貼り付ける。幻影シリーズは同時発動できない。

【瞑想】SR。永続的に精神が4上がる、このスキルはステータス欄には表示されない。

【スキルキャンセラー】SR。対象のパッシブ以外のスキルを一つ打ち消す。


ピックアップしたアサシンナイトウォーカー固有スキル


【ダークネス・キングダム】SSR。魔法〈ダークネス〉を覚えている場合に獲得可能。最大半径50メートルを暗視不可の闇で包む。このスキルを獲得した場合、魔法〈ダークネス〉は削除される。

【MP自然回復量(中)アップ】R。このスキルはステータス欄には表示されない。

【冥王の一撃】SR。技スキル。攻撃ヒット時、50%で強制死。3回成功でこのスキルは消滅する。

【ソウルブレイク】SR+。技スキル。この攻撃で死んだ対象は復活できない。10回使用するとこのスキルは消滅する。



 ――どうしよう。ダークネス・キングダムを取ってみたいけどアンデッドに通用するのか怪しい。


考えた末に【瞑想】と【スキルキャンセラー】を獲得した。


【スキルキャンセラー】

・〈スキルキャンセラー〉+〈カウンターマジック/対抗呪文〉+〈魔力分解〉と合成可能。合成先、

【アルティメットカウンター】UR(アルティメットレア)。

レベル10オーバーの無属性魔法。あらゆる魔法やスキルを1つ打ち消す。打ち消された能力は10時間再使用不可。


 ――アルティメットレア!? レベル10オーバー!?

 すごいのきたー!! 


 しかし強そうだけど、コスパ社会で長年生きてきたせいか犠牲にする3つのスキルがもったいなく感じる。


 ――これは地雷かもしれない、やめておこう。

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