第2話 もしかして成長チートボディ?

 20分後、すっかり綺麗になったカイと自宅へ向かう。

 長年踏みならされてできたような草原を走る道を歩く。街は見えなくなった。


「くぅ~」


 肩甲骨をくっつけるぐらい胸をひろげ伸びをする。

 この期待と不安が入り交じる――広い世界に投げ出された感じ。悪くない。

 ふと空を見上げる。吸い込まれそうな青い空にかつての親しい人物の顔が浮かぶ。

 と言ってもリアル友達は少ない。親やエターナルファンタジアで所属していたギルド〈赤毛〉の仲間と、従妹のノエルくらいだ。こっちの世界に来ている可能性は十分にある。魔王城でもそういうことを言っていた。


 ――友よ。

 この大地にあいつらも立っているだろうか?

 この大空をあいつらも見上げているだろうか?


 そう思うと繋がっている気がした。勇気が湧いてくる。


 ――これより俺は冒険の旅出るんだ!

 この世界なら、手が届きそうだった手前で潰えた、そう思った夢の続きが見れるかもしれない。


 血が騒ぐような――胸の奥がはやし立てられるような感じがたまらない。

 そして覚悟も決めた。

 この体で生きていくと。


 ――今日から俺は鈴木ヒカル改め、シャイン・インダークだ!


 視線を前に戻し、力強く大きな一歩を踏み出した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 東に歩いて数時間、林に囲まれた小城と見まごうほど美しい砦が眼前にあった。

 自宅に着いたのだ。


「……意外と治安いいんだね」

「そうですか?」


 魔王国というくらいだから、ヒャッハーな人たちに襲われるかと思っていた。


「しっかし綺麗な自宅だな~、庭に池もある」

「でもここは魔王国でも有名なダンジョンのそばです」

「そうなんだ?」


 よく見ると、北側にはおどろおどろしい湿地帯があり、あちらこちらから黒い瘴気が噴き出し危険な雰囲気を醸し出していた。

 シャインが命名するならさしずめ毒の沼である。


「シャイン様、おかしいです、前は黒い煙なんて出てなかったのに――」

「ふむ、融合というやつの影響だろうな。気をつけて歩こう」


 砦に入る。当然初めて来るので室内を探し回った。

 カイにも武器を持たせ、二人で鉄の胸当て装備する。部屋数は多かったが砦にあったのはこれぐらいだった。食事を済ませて外に出る。


 毒の沼をおそるおそる覗く。黒い瘴気は亀裂や巨大な蟻地獄みたいな穴から噴き出していた。


 ――地盤沈下?


 この辺り一帯は危険かもしれない。そう考えカイに声をかけようとした時、

 湿地帯より一つの影が出てきた。


【ゾンビ】


 腐乱した死体が体を揺らしながら寄ってくる。走るタイプのゾンビではないが結構足は早い。


「ゾンビだ! 気をつけろ!」

「は、はい」

「戦う。怖かったら下がってて」

「ぼ、ぼくも戦います」

「分かった。無理はしなくていいから、俺が攻撃したあとに余裕があれば追撃してくれたらいい」

「は、はい!」


 とは言ったものの初めての敵、ゲームと全く同じと考えるのはあまりにも危険だ。もの凄く強いかもしれない。じっくり攻める。


《エナジーボルト》


 瞬時にシャインの頭の中で組み上がる幾何学模様の魔法陣――シャインにはただ集中した時の疲労感が感じられる――


 すぐに発動した魔法は青白いソフトボール大の球となり高速でゾンビに当たる。

 ズバンと顔面にめり込みゾンビがたたらを踏んだものの、両腕を突き出しながら勢いを増してシャインに迫る。


 カイは固まっていた、手に持つレイピアがガタガタ震えている。直前までの決心も恐怖であっさり吹き飛んだのだ。


《エナジーボルト》


 シャインはヒットアンドアウェイで攻撃しつつ魔法を放つ。2発目がゾンビの胸に当たった瞬間、ゾンビが崩れるように潰れた。

 シャインの身体が淡く光り、力が湧くのを感じた。


「よし! そんなに強くない」


 ステータスを確認する。


【レベル:2】

HP:12/24

MP:10/18


力:18

体力:9

敏捷:19

魔力:24

精神:16

運:30



 ――きたー! さっきの感覚はレベルアップか。エターナルファンタジアと同じ経験値方式で間違いないなさそうだ。

 HPとMPは上がったけど他は変化なし。



『スキルを1つ獲得できます』


【HP+20】Cコモン。

【MP+10】C。

【光のプロテクション(小)】C。永続的に光属性の耐性が10上がる。このスキルはステータス欄に表示されない。

【火のプロテクション(小)】C。(略

【木のプロテクション(小)】C。

【水のプロテクション(小)】C。

【闇のプロテクション(小)】C。

【運試し(力)】C。10%の確率で永続的に力が1上がる。このスキルはステータス欄に表示されない

【毒耐性(小)アップ】C。永続的に毒属性の耐性が10上がる。このスキルはステータス欄に表示されない

【麻痺耐性(小)アップ】C。(略

【石化耐性(小)アップ】C。



 視界にスキル候補がずらーっと浮かんで表示された。


 ――おおおおおおおおおお! すっげーーー!!


 エターナルファンタジアと似ているけど違う。

 ゲームでは3つの候補の中から選ぶというものだった。これは軽く100以上ある。


「少し待ってもらえるか」

「はい」


 一つ一つ確認していく。

 レア度は大半がC(コモン)だった。

 必ずしも強さとレア度は比例しないだろうけど、使えそうなUCアンコモン以上のスキルをピックアップしていくことにする。


【スティング/蜂の一刺し】UC。技スキル。攻撃力が一瞬上がる。貫通効果あり。

【毒撃】UC。技スキル。

【強撃】UC。技スキル。

一瞬、物理攻撃力が3倍になる。

【豪腕(上)】UC。豪腕(上)(中)(下)を取得すると永続的に力が1上がる。このスキルはステータス欄には表示されない。

【豪腕(中)】UC。

【豪腕(下)】UC。

【即死耐性(小)アップ】UC。

【鷹の目】UC。遠くを見通せる。

【サイレントウォーク/無音歩行】UC+(アンコモンプラス)。

【聴覚強化】Rレア。

【気配遮断】R+(レアプラス)。

【気配察知】R+。

【魔力感知】R+。

【看破】SRスーパーレア。対象を探る。

【オープン・ザ・ボックス】SR。物を収納できる空間。生物は入らない。

【ダメージ軽減:50】SSR(ダブルスーパーレア)。このスキルを5回選択すると獲得できる。残り5回。



 結構あった。

 長らくエターナルファンタジアをやっていたシャインの心境としては、初めから全部表示されているようなお得な感覚だ。


 見ていくと、能力は豪華でレア度が飛び抜けて高い【ダメージ軽減:50】に目が留まる。

 ゲームではレベルアップ毎に候補がリセットされてしまう。もしリセットされてこれが後々強いスキルと分かったら後悔しそうだ。


 ――よし、これを取ろう。


〈ダメージ軽減:50〉を選択し決定!

 とくに何も起きない、残り4回となっていた。


「シャイン様!」


 カイの警戒を含んだ声。

 目をやると湿地帯の中から、ゾンビが五体現れた。


「ちょっと多いけどあのスピードならやれる、いくよ」


 シャインはエナジーボルトを打ち込んで剣で斬りつけ離脱する。ゲーム感覚で楽しくなってきた。ちらっとカイを見るとまだ固まっている。


 カイも分かっていた。自分が動かないと迷惑をかけることになる。しかし足に根が生えたように動けない。

 思えば人生で一度も戦ったことがない。いつも虐げられてきた自分に戦いなんて無理だったのだ――


 ――お母さん!


 思考が闇に囚われそうになる中、ぱっと母の顔が浮かんだ。それは朝日のように一瞬でカイの心を照らす。


「やぁっ!」


 カイが振り絞るような掛け声とともにシャインの攻撃したゾンビに追撃をかけた。

 ゾンビが崩れ去る。

 シャインは振り返らずにニヤリと笑った。


「次くるぞ!」


 二人の時間をかけた一撃離脱戦法で確実に一体ずつ倒していく。

 30分後、ゾンビが全て倒れた。

 ステータスを確認する。


【レベル:3】

 HP:34/34

 MP:11/28


 HPとMP以外に変化はない。


『スキルを1つ獲得できます』



 ――やはり概念はゲームと似ている。


 エターナルファンタジアではレベルアップとスキル獲得は必ずワンセットだった。

 一説にはレベルアップするごとにスキル(己の奥底に眠る潜在能力)の解放をしているという話である。


 似ているけど、違う。なにか心に引っ掛かるものがあるものの、今は考えても仕方がないと気を取りなおして選ぶことにする。

 リセットされないなら今回は違うものを獲得しようと考える。


 サバイバル能力を少しでも上げるために気配遮断から取っておくことにした。


【気配遮断】を獲得した。


「レベルが上がっています!」


 カイが感動に打ち震えた声で言った。


「そうか、おめでとう。これから二人で頑張ろう」

「はい!」


 ぽんぽんとカイの頭をたたくと無邪気に笑顔を咲かせた。


「ところでレベルアップしたらスキルって選べる?」

「はい、選べます。5つから選べます」

「え、そうなの。スキル候補が5つあるということ?」

「はい」


 シャインは顎に手をやって考え込んだ。

 こんな大量の中から選べるの俺だけ? もしかして運の影響?

 サンプルが少ないから断言はできないけどそんな考えが浮かぶ。


 その後は、スキル獲得の相談に乗り最終的にはカイ自身で決めた。スピードを1.02倍にする渋いスキルを取っていた。

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