ウィスダム
「おや・・・懐かしい顔が来たものだ・・・」
木の幹に刻まれた模様は顔の形を作り出し、言葉を発した
「木が、喋った!!?」
「おやおや・・・見知らぬ顔も、いるようだね」
ゆっくりとしたその喋り方は落ち着いた老紳士のようだ
「やぁウィスダム、久しぶりだな」
「久しぶりだね、フレア・・・
随分変わった魔力を持つようになったものだ」
「わかっちゃうんだね、さっすが」
フレアは茶化すように、巨木を指差す
「ね、ねぇ、この木は一体なんなの?」
ナノが恐る恐るフレアに尋ねる
「彼はウィスダム、知性を持つ巨木だ
彼は森中に根を張り、この森を見守り続けている
この森にやってくる虫や鳥なんかの様々な生物が持ってくる世界中の情報も集めているんだ
彼は俺らが知らないことをなんでも知っている」
「なんでもは言い過ぎさ・・・
わしにも知らぬことはあるよ」
「う、ウィスダムさん
お尋ねしたいことが
彼は誰ですか」
アリアがフレアを指差す
「おかしなことを聞くねぇ・・・
彼はフレアだ、フレア・アイテール
君らの世界を救った英雄じゃあないかね?」
にこやかにウィスダムは答える
「これで、俺のことは証明できたってことでいいかな?」
「まぁ、信じても大丈夫だろう
元々、疑ってはいたがそこまで強い疑いでもなかった
危険な要因は確実に減らさなければならないからな
わざわざこんな場所まで来させて申し訳ないことをした」
アリアは深く頭を下げる、ナノもつられて頭を下げた
「いいっていいって
ここに来たのは別のことを聞きたくて来たしな」
フレアはへらへらしながら手を振る
「別のこと?」
「そ、別のことさ
なぁウィスダム、俺の体少し見てくれないか?」
そう言うと両手を広げてウィスダムを見上げる
「あぁ、勿論いいとも
今の君はどうなってるのか、わしも気になっていたよ」
木がバサバサと音を立てながら木の枝が動き出し、フレアの体をぐるぐると巻き始めた
「ふ、フレアさん!?
それは、大丈夫なの!?」
たまらずナノが不安げに口を挟む
しかし、当の本人は表情を崩すこともない
「大丈夫だよ
ウィスダムは誰かに危害を加えたりはしないさ」
その言葉通り、しばらくすると巻き付いた枝は離れていった
「あぁ、わかったよ
フレア、君の体はアンデッドに似た状態になっているようだね・・・」
「あぁそうなんだ
どうしてこうなっちまったかわかるかい?」
フレアの目的はこれだった
自分がいかにしてアンデッドになったのか聞きに来たのである
「君は、魔王と戦った後どこにいたのかね?」
「魔王城の跡地だった場所だ
そこの地中でずっと眠ってたみたいなんだ」
「なるほど・・・
君が魔王もろとも自爆した際、君の体はかろうじて原型をとどめたのだろう・・・
だが、ボロボロだったその体は吹き飛んだ魔王の肉体に留まっていた魔力が放出され、残留したものを吸収してしまったようだね
強力な闇の魔力が人間を魔物に変えることは珍しい話じゃあない」
「しかし、ウィスダムさん
彼は自我を保っているし、体のパーツが取れたりしても問題ないこと以外は人間に近いのではないのか?
彼はアンデッドが苦手とする火炎の魔法を自ら放ったし」
アリアが首をかしげる
「闇の残留魔力を取り込み、驚異的なスピードで回復した彼の肉体は元来持つ光の魔力を大量に作ったのだろうよ・・・
闇と光の力が打ち消し合い、結果半人半魔のような形に収まったのだ
アンデッドと化した肉体は千年経っても、朽ちることはなく君は眠り続けた、というわけだろう」
「なるほどね・・・
元に戻る方法はわかるかい?」
「残念だが、わしには確実な方法はわからない・・・
しかし、体内に流れる光と闇の混合魔力を元の光の魔力に戻すことができれば、肉体は浄化され元に戻るやも知れんよ
光の魔力は闇を浄化する力だからね
だが・・・」
ウィスダムは少しためらうように間を置いた
「なんだ、ウィスダム」
「光の魔力によって闇の浄化が行われれば、半魔となっている君の肉体が滅びる可能性もある・・・
気をつけなさい・・・」
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