勇者様は適当

2人はとりあえず森の中を歩き進んでいた


「私は、イグニシウム王国の国営騎士団7番隊っていうところに所属している騎士団員なの」


「騎士団?なんだそりゃ?

俺が戦ってたときにはなかった組織だな」


「あなたが魔王を倒したことで世界は平和になり、魔物達も魔王の支配から逃れたわ

人も魔物も協力する世界が広がっていったの

そして、大戦士バドは新たなる脅威に備えて騎士団を創立したわ」


「バドが?あいつ、街に戻ってそんなことしてたのかよ

真面目だなぁ、おい」


フレアは少し楽しそうに笑う

昔の仲間の動向が知れて嬉しいのだろう


「そう、あなたのかつての仲間バドよ

彼が作った騎士団はたちまち巨大な組織になったわ

一国をあっという間に占領できるくらいの戦力になったの

バドはその後、世界の各地に支部を作り、新たなる脅威に立ち向かうため、そして世界の治安維持のために尽力した

そして長い時間をかけて各支部は独立していき各国が管理する国営騎士団になっていったってわけ」


「ふーん、んでオークに追われてたってわけか」


「・・・面目ないわ」


ナノは少し肩を落とす

世界の平和を守る騎士団が、オークに遅れをとるようではいけない

その気持ちが心にどんとのしかかる


「大それた考えなんかなくていいのさ

自分にできることだけやればいい、それ以上のことは他の誰かに任せればいいさ

そのうちあんたにもできるようになるよ」


あくびしながら横を歩く勇者にナノは少し眉をひそめる


(勇者様ってこんな人だったのね

もっとこう、正義感に溢れたしっかりした感じの人だと思ってたんだけどなぁ・・・)


「悪かったな、適当な人間でよ」


フレアはいたずらっぽくナノを見て笑った


「えっ!?なんでわかったの!?」


「やっぱ思ってたか」


「あ・・・ごめんなさい

失礼なことを」


「ははは、今までたくさん言われ続けてきたからな

聞くまでもなくわかっちまうのさ

気にしなくていいぜ

そんなことより、さっき言ってた魔王の話だ」


打って変わって真面目な顔になり、尋ねる

やはり、勇者

自分が倒したはずの魔王が蘇るかも知れないと聞けば、居ても立っても居られない気分になるのだろう


「最近、世界各地でおとなかったはずの魔物が暴れ出す事件が多発しているの

闇の瘴気が濃くなっている場所も何箇所か発見されているわ、ここもその1つだったの

魔王が千年間、ほんの少しずつ体を再生させて復活の兆しを見せているのだとしたら早めにその芽は摘まなきゃいけない

私ともう1人の隊員と一緒に来てたから、とりあえず合流しましょう」


「おっけ、だいたいわかった

とりあえず、そのお仲間と合流だな」


「きゃあああああああ!!」


突如として甲高い悲鳴が森に響く


「っ!?今のは!?」


「女の声だったな、あっちからだ」


フレアが指をさした方向は、かなり高さのある崖のようになっていた


「くそ、崖になってる!迂回するしかない!

もしかしたら私の同僚かもしれない、急ごう!」


「いや、問題ないだろう

迂回する必要はない」


言うが早いか、フレアはナノを小脇に抱えるように持ち上げた


「えっ!?え!!えぇぇぇぇ!!」


フレアは180センチあるかないかという長身なのに対して、ナノは158センチしかない

あっさりと抱きかかえられた上に、凄まじい勢いで走り始める


「あんま喋んなよ!舌噛むぞ!

歯ぁくいしばれぇ!!」


勢いよく、崖から飛び出しそのまま猛スピードで下に落ちていく


「うぁぁぁぁぁぁ!!?」


涙目になりながら、目線の先に小さなゴマのようなものがたくさんいるのをナノは見逃さなかった



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