私の右腕

鬱蒼とした森の中を少女が1人走っていた

ガサガサと激しい音がする


「こんな場所でオークなんかに捕まるわけにはいかない!」


後ろを振り返ると斧を持つ人型のイノシシが2人少女を追いかけていた


「ぐへへへへ!待てよ嬢ちゃんよぉ!」


「俺らと遊ぼうぜえ!」


「[俊敏アージル]!」


呪文の詠唱と共に体をエメラルドブルーのオーラがまとい、スピードが上がる


「ほう、あの嬢ちゃんは俺らから本気で逃げる気らしいぜえ!」


「身の程ってやつを教えてやるよ!!」


オーク達はその場で中腰になると、一気に跳ねた

速度を上げた少女の頭を軽く越し、その目の前に立ちはだかった


「っ!?くそっ!!」


少女は腰につけた短剣を抜く


「おいおい、そんなもんでなにができんのさ・・・

大人しく俺らと一緒に来いよぉ!!

ぐへへへへ!!」


「うるさい!!くらえ!

電撃剣サンダースラッシュ]!」


短剣が電気をまとい、オークの1人を切りつける


「うおら!!」


「ああっ!」


しかしオークの片割れは、少女のナイフを弾き飛ばした

少女のナイフは少し離れた場所まで飛んでいき、地面に深々と突き刺さった


「無駄無駄、お前みたいな可愛らしい嬢ちゃんが俺らに勝てるわけがねえだろ?」


「ぶひひひひ、遊びに遊びに遊びつくして飽きたら美味しく食べてやるよぉ」


オークは若い女性をさらい、性奴隷として数日飼った後に肥え太らせ食べるのだ


「・・・あんたらなんかに

捕まってたまるか!」


少女はまだ諦めないとばかりに目の前に手を構える


「嬢ちゃん!お前さんのしょぼくれた魔法でなにができんだよ!!

あぁ、もうめんどくせえし殺しちまうかぁ!?」


オークが斧を振り上げると同時に、少女は反射的に目を閉じた

しかし


「うぎゃああああああああ!!?」


オークが悲鳴を上げた、よく見ると肩のところに剣が突き刺さっている

それは蒼と金の美しい模様の入った柄と鍔に黄金の刀身を持つ剣だった


「こ、これは!?」


まさしく、名だたる騎士が持つであろう美しい剣


助けが、助けが来たんだ!


そう思い振り返った瞬間少女は言葉を失った


「・・・う、腕?」


そこには筋骨隆々な腕が一本落ちていた


「く、くそがぁ!

なにが起こりやがった!!」


「抜けねえ・・・!なんだこの剣は!!」


オーク2人は突然の出来事に事態を把握できておらず、腕の存在にも気づいていない


次の瞬間、腕がいきなり飛び上がった


「ひいっ!?」


「な、なんだこり・・・がぁぁあぐぎゃああ!!!」


飛んで来た腕はオークの巨大な顔面を鷲掴みにするとすさまじい力で握り潰す


「うごごぉかっおぎゃぐきゅううぅ!!?」


メキメキと音を立てる

血しぶきが顔のいたるところから吹き出し、目も収まりきれず飛び出した


「うぇっ・・・!」


そのあまりのグロテスクさに少女は目をそらす


「なんだこの腕は!!離れやがれ!!」


もう1匹のオークが腕を引き剝がさそうと手をかける


「・・・おい、そりゃあ俺の右腕だ

汚い手で触んな、豚っころ」


「あ、なんだてめっ」


言うが早いか、オークの顔には固く握られた拳がめり込んでいた

瞬間的に頭蓋骨が砕かれ、オークはその場に倒れた

ほぼ同時に右腕がもう1匹の顔を完全に握りつぶした


そこにはいつの間にいたのか、ボロボロの皮のパンツに、上裸の男がやれやれという感じで立っていた


「あ、あなたは・・・?」


少女は恐る恐る尋ねる


「・・・おいおい、汚れちまったよ

きったねえな」


謎の男は、右腕を拾うと自分の右肩にくっつけた

すると右腕は何事もなかったかのようにくっついてしまった


「あ、あぁ、アンデッド・・・!?」


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