離別

 夏の夜。

 弱々しい蛍の灯火が振り袖の貴女を幽かに照らす。十数センチの暗闇が、決して埋まらない溝だと知ってしまった。

 白々しい貴女の指。涙も枯れた忘れ傘。

 いつか見た打ち上げ花火の色を、形を、貴女はきっと覚えていない。

 唇をやおら開くから、僕はそっと耳を塞いだ。

 いかないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る