胡蝶の夢
奥行きの無い世界。
光が彷彿と生まれ、色は忽然と消えて行く。その巡りだけが全てだった。
何の前触れもなく私はそんな場所にいた。不思議と混乱や焦燥はない。
私は一冊のノートを持っていた。A4サイズの飾り気の無いノートだ。
ノートを開くと破けたページが一斉に舞い上がる。慌てて閉じようとしたが、時既に遅く、白紙のページだけを残して他は全て散り散りに飛び去ってしまった。
落ち込む私の足元に紙が一枚ふらふらと滑り込む。
拾い上げると、そこに書かれていたのは文章ではなく、絵だった。少女が机に向かってペンを走らせている。
記憶を絆す螺旋の光。胸に支える泡沫の棘。
私は彼女を知っている。絵の中の彼女はのっぺらぼうで、だけどその面影を確かに知っている。
不意に彼女がこちらを向く。彼女は立ち上がり私にペンを差し出した。戸惑っていると、『どうしたの?』と言いたげに首を傾げる。ペンを受けとると、目の前で紙はビリビリに裂けていった。
紙が完全に細切れになる直前、彼女が微笑んだ気がした。
私はペンを持ち呆然と佇む。
いつの間にか目の前に机と椅子が現れていた。ちょうどさっきの絵と同じように。
私は彼女と同じように椅子に座る。すると、ノートがひとりでに開いた。
空には未だに多くのページが舞っている。そのうちの幾つかはキラキラと輝いていた。
さて、何から始めようか。
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