第5日 死について

 人類に共通して存在する結末は「死」だ。何故か人はその結末を回避しようと、昔から試みてきた。しかしいずれも成功とはならず、やはり人類には依然として「死」というものに怯えている。

 人はなぜ死ぬことに恐れを抱くのか。人間の最大の欲求として「知識欲」というものがある。これはもはや切っても切り離せない人類が背負った業に等しい。その観点から見てみると、人間が死を恐れる最大の理由は「死後のことを知らない」からだろうと思う。死人に口なし、よって死人からは情報を得られない。かと言ってその不確かな存在を確認するためだけに死ぬことなどできない。死とは後戻り不可能な一方通行の道なのだ。逃げ道のない方向へわざわざ向かうほどの勇気は通常持ち合わせない。

 さらに、死を怖がる理由として、死に方にもよるが、痛そう、や、漠然として、苦しそう、怖い、などがある。一つ目は、ただ単に怪我の上位互換によるものだ、二つ目は窒息や病死があげられるだろう。三つ目、これは今まで自分が積み重ねてきたものが消えてしまう、自分という存在の消滅が怖い、というものが主だ。確かに今まですべてのことが消える、という結果はそれだけ見ると実に虚無的で喪失的だ。そうなることがわかっているのであれば、はじめから生きたくはないという人もいるだろう。人生に意味がないと主張する人も出てくる。典型的なニヒリストだ。別にこういう人に向かって、なら生きるのを辞めろ、と言うつもりは毛頭ない。すべて正しく、すべてまっとうな意見だ。こういった恐怖や虚無から救われようとして、宗教というものが生まれたのだろう。

 すべてを無に帰すに等しい「死」はその存在だけで何かを生み出させるほどの防衛本能を呼び起こす。ある意味で一番生産的な概念なのかもしれない。

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