第4話
……………………。
「あ、あれー?」
「これ、そこのたわわな
「たわわ? あたしのこと?」
静かにしていた老婆が口を開いた。
「その鍵の数字はなんと書いてあるかぇ?」
「ん~とねー、……138よ」
「ほっほっほっ。それ、わしのところの鍵じゃて」
「ありゃ? まちがえちゃった?」
パドメはそう言って、てへっと舌だした。
「たわわな女子よ。それでわしのところを開けてくれんかの」
「いいわよ」
パドメは老婆の牢屋に駆け寄り、鍵を開けた。
「ふぅ。助かったわい。たわわな女子よ。この礼はいつかするからの。ではの」
老婆はこの刑務所に慣れているのかすーっと闇に消えていった。
「……おい」
「はい」
「人助けてる場合じゃねーだろ。いつ看守が来るかわからねーんだぞ」
「ああ、それなら大丈夫よ。みんなぐっすりお眠り中だから」
そうか。そうじゃなきゃこんな大きな声でしゃべってたら様子くらい見に来るわな。
「早くおれをここから出してくれ」
「わかってるわ。う~ん。ちょっとまってね~……えいっ!」
キィィィンッ!
頭を刺すような甲高い音が光の乏しい廊下に響き渡る。どうやら魔法を放ったようだ。
「どうだ、開いたか」
「だめね。この錠……いや、鉄格子すべてに強いリフレクト魔法がかかっているみたい」
「じゃあ……もうあれか、開けられないってことかよ」
「……ハルヒコ。ちょっと目をつむっててくれる?」
思いつめたように言うパドメ。
「なんでだ。目を開けたら格子がお開きになってるのか?」
「……いいから」
「わかったよ」
目をつむった。
しばらくすると、目の前でぎぃぃっという鈍い音がした。
ぎぃぃ、ぎぎぎっ、、、ぎぃぃぃいいっ!
恐くなって目をうっすらと開けてしまった。
すると、そこには格子の鉄を左右に力いっぱい思いっきり開いているたわわな娘がいた。
「やっぱ馬鹿力じゃねーか」
「あーーー! 見たわねー! 見るなっていったのにぃ! ひどいよ!!!」
「これができるなら最初からこれをやれよ」
「いやよ! あたしはか弱い乙女なパドメちゃんなの!」
いや、これ見せられてか弱いも何もないんだが。
しかし魔法も使えてパワーもあるとは……最強だな。
「とにかくここから逃げるぞ」
「うん!」
刑務所内で死んだように眠る看守たちに、ほんと死んでないよな? 脱走罪だけで済むよな? と不安に駆られながら外に出る。
外はもう夜だった。
「おれらさ、犯罪者だよな」
「そうなの?」
「そうだろ。単純に考えて脱走犯と脱走手助け犯だ」
「そっかー。そうかもしれないね」
「だからさ、とりあえずあの城にこもらないか? あそこは誰もこないらしいぞ」
「そうなの?」
「ああ。誰も近寄れないらしい」
「じゃあ、あたしたちも近寄れないんじゃない?」
「え、いや……だってそれは、その……あれはおれの城なんじゃないのか?」
「うーん……そうなのよねぇ。そのはずだったと思うの」
どこからとりだしたのかわからない分厚い本をぱらぱらめくる。
「まあいいわ。行けばわかると思うの!」
「よし。で、どうやって行く? このぽっかり穴を」
城を囲う幅二百メートル級の大きな穴を前に、おれら二人は立ち尽くしていた。
夜も更け、月明かりしかなく、はっきりとは見えないが今のおれにはどうにもできないということはよくわかる。
「ハルヒコ!」
「なんだ、急に……あっ」
パドメがおれの服にしがみついた。
そして破けた。
「おい! ただでさえぼろぼろの服なのにそんな強く引っ張るな! だいたいなんでこんなぼろぼろの半袖半ズボンなんだよ! おまえは見るからに上級プリーストみたいな格好しやがって」
スカートはミニ、アームカバーと太ももくらいまであるブーツが印象的で全体的に白っぽい。いたるところにピンク色の刺繍がちりばめられている。
「だってハルヒコが、「なんでもいいから早く服をくれ!」って言ったから急いだんだよ」
「だったらもうちょっと時間かかってもいいからもっと肌を覆いたかったわ!」
「そんなことよりハルヒコ聞いた? さっきの聞いた? ぶおおおおおぉぉぉぉっていう呻き声みたいなやつ」
「え、そんなのあったか?」
「あったわよ。あ、ほらぁ」
ぶおおおおぉぉぉ…………ぶおおおおぉぉぉ…………。
一定の間隔で同じような重低音が鳴り響く。
「ハルヒコ、勝てる? あれに」
「勝てる? 勝てるってどういうことだ? 敵前提なのか?」
「だってだって、あーんなおっかない声出してるんだよ? ……ドラゴンなんじゃないの」
ドラゴン……そんなラスボス臭のするモンスターが最弱の状態の勇者の前になんて現れるわけがない……きっと。
どちらにしろこっちには頭が少しおめでたい天使がついてるんだ。なんとかなるだろう。
「み、見てみないことにはわからないぞ! とりあえず行ってみよう」
「どうやって行くの?」
そうだった。
しかし魔法を使えるパドメにそう言われると言葉に詰まってしまう。
「なんかあるだろ? 空を飛ぶとかテレポートとか」
「……だめだもん。そんなの」
「なぜだ? おまえ飛んでたじゃん。テレビの中で。悠々と」
「……いやだもん」
「いやとかそういう問題じゃねーだろ。ここにいても何も始まらないし」
「だって……だって~~~! ここに書いてあるんだもん」
再び分厚い書類をペラペラとめくる。
そこは魔法使わないで手動なんだな。
「ほら、ここ。『異世界において空を飛べるとされている者は、魔王、魔女、精霊、またはそれらの強い加護を受けた者とされている』って書いてあるのぉ。だから、飛んじゃったらあたし、変な目で見られちゃうかもしれないじゃない!」
「そんなこと気にしている場合じゃ―――」
いや待てよ。
その横にいるおれも変な目で見られることになるわけか。
それはイマイチ感満載だ。
「じゃあどうすればいいんだよ。どうやってあそこに行けばいいんだ」
「わからないわ。たぶんだけど、これだけの大国だから生き残った兵士も多いと思うの。だからきっと彼らがこの世界でできることはもう試してるはずよ」
「なんだよそれ……」
ため息をつきながら地面に座った。
「うまくいかないことがあるのは、現代と同じだな」
「……そうよ、現代よ」
パドメが言った。
「あなたにしかできないことがあるじゃない」
希望に沸いた表情で、おれに向かって指を指す。
「命令よ! 現代に行ってここを渡れそうな道具を持ってきなさい!」
なるほど。
確かに現代の技術力ならなんとかなるかもしれない。
どちらにしてももう勤務時間過ぎてるしな。一回戻ろう。
「わかった。その命令、受けて進ぜよう」
「なんかよくわからないけど、無駄にえらそうね」
パドメは少し顔を曇らせながらもすぐ笑顔になる。
「じゃあ君を現代に戻すわね」
パドメは、「ん~、いい穴がないわね~」と言いながら辺りを見渡す。
予想はしていたが、やっぱり帰りも穴をくぐらなければならないのか。
「ん~……あ、あった」
帰れると思った矢先、疲労感が全身に駆け巡っているところ、おれはいきなり目の前にある底の知れない大穴に思いっきり突き飛ばされた。
「うおあああああああっ!」
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