第5話 邂逅
しばらく〝加速〟のスキルを使い続けて草原の道を進んでいると遠目に人影が見えてきた。
「おお!!これは第一村人ならぬ第一異世界人ですね!!おーい!!」
無駄に高いテンションでコウタは人影に向かって手を振り歩いて行く。
「ん?」
ふと立ち止まると人影が複数あるのに気づく。
眺めていると大体の状況を把握し、なんとも言えない表情を見せる。
「あ〜⋯⋯。」
そこには生前のコウタと同じくらいの歳の鎧を纏った赤髪の少女と三人の見るからに悪そうなTHE盗賊といった風貌の男たちがいた。
少女はボロボロの鎧を纏い折れた剣を構えて三人組と向かい合う。
「あの⋯⋯すいませんどうかしたのですか?」
なんとなく予想がつきながらも後ろからトントンと少女の肩を叩いてそう尋ねる。
「ん?何者だ貴様。」
少女は年相応の声の高さに似合わぬ凛々しい口調で問い返す。
「僕は、えぇと、⋯⋯旅のものです。」
かけられた質問に一瞬動きが止まるが、気にせずそう答える。
「そうか、ならばさっさとここから立ち去れ。」
「そうだぜぇ、お前には関係ないだろクソガキ。」
少女の言葉に盗賊Cくらいの男が続く。
「ですがどう見ても今から身ぐるみ剥がされる感じではないですか。」
ヘラヘラと冗談を言うように薄く苦笑いしながらそう尋ねる。
「だからこそ関係のない貴様は立ち去れといっているのだ。それに、ここで私がこいつらを倒せば解決する話だ。」
少女は即答する。だが少女の様子を見て、コウタは更に質問をかぶせる。
「できるのですか?そのボロボロの体と折れた剣で。⋯⋯手伝いますよ。」
そう言ってコウタは少女を制止し、一歩前に出る。
「ちょ、待て!」
少女は慌ててコウタを制止させ、止めるよう促す。
「大丈夫ですよ。多分なんとかなりますから。」
余裕の態度でニッコリと笑いながら慌てた様子の少女にそう返す。
「だが、貴様も何も持っていないだろ!!」
少女は一切態度を変えぬまま、そう言う。
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯。」
(そういえばっ!!何もっ!!持ってないじゃん!!)
コウタはここに来てスキルだのステータスだのにばかり目を向けていたせいですっかり気付いていなかった。
自分が何も所持していないことに。
(嘘だろ、よく見たら服も制服のままだし、学生証くらいしか持って来てないじゃん!!)
コウタは今更になって冷静に状況判断をする。
ちなみに何故か制服のサイズはピッタリだった。
(いや、おちつけキドコウタ、とりあえず敵の情報を集めよう。)
自らに暗示をかけると彼が持つ数少ないスキルの中の〝観測〟を使う。
発動と同時に三つのステータスウィンドウが目の前に現れる。
ペソlv18
ドルlv17
ゲンlv36
(軒並み高い!!)
動揺を顔には出さないが半分涙目になる。
「おいおい、クソガキ。痛い目あいたくなかったらさっさとお家に帰り⋯なっ!!」
と言いながら盗賊Cもといドルさんがナイフを取り出し襲いかかる。
(帰す気ない⋯⋯でしょ!!)
内心ツッコミながらも冷静に対処する。
突き立ててくるナイフをかわし、みぞおちに正拳突きを食らわせる。
「ぐえっ!?」
突きを食らった盗賊は苦しみながらその場にうずくまる。
(あれ?)
意外なほどあっさり倒せた事で拍子抜けする。このレベル差で一撃で決まるとは正直思っていなかったからだ。
だがその疑問は、もう一度相手のステータスを見る事ですぐに解決した。
レベルにこそ差があってもステータス自体は大した差がなかったのだ。それどころか、スピードに関してはこちらの方が上だった。
(だから反応できたのか⋯⋯。)
「この野郎!!」
一人がうずくまっているのを見て盗賊Bもといペソが襲いかかる。
今度は左手でナイフを払い、顔面に上段蹴りを浴びせる。
ペソという男はは力なく地面に沈む。
(よし!!)
コウタ自身、前世での空手の経験がここまで活きてくるとは思ってなかった。
(いける!!これならなんとかなる!!)
「やるじゃねぇか⋯⋯。」
そう呟くと一番奥に構えていた明らかにボスのような盗賊が背中に背負った斧を取り出す。
「だが調子に乗りすぎたなガキ。」
そう言うと盗賊のボスはその場で斧を構えこちらに向かって斧を振りかぶる。
「遅いです!!」
コウタは斧をかわし、ドスッと盗賊の脇腹にカウンターを入れる。
「きかねぇなぁ⋯⋯。」
コウタの攻撃に盗賊は全く意に介せず斧を横薙ぎに振るう。
這いつくばるように避け、すぐさま距離をとる。
「てめぇの攻撃力じゃあ俺様には傷一つつけられねえよ。」
盗賊はニタニタと下衆な表情を浮かべあざ笑う。
「だったらこれでどうですか⋯⋯。」
そう言うとコウタは少女の方を振り向き。
(観測!!)
観測のスキルを使う。
「何を⋯⋯。」
一瞬戸惑った敵の方に向き直り左手を真正面に真っ直ぐ構える。
「召喚!!」
その言葉と同時に左手の掌からは一本の剣が生み出される。
「なっ⋯⋯それは!」
赤髪の少女が驚きの声を上げる。
呼び出した剣を鞘から抜き出すと、剣の情報が映し出される。
〝聖騎士の細剣〟キャロル王国の聖騎士が用いる軍用の細剣。
コウタは剣をそのまま中段に構えるとニヤリと笑って、前を見据える。
「さあ、来い。」
その挑発に盗賊の男はこめかみに青筋を立てて襲いかかってくる。
「死ねぇ!!」
斧を大きく縦に振りおろす。
「なっ⋯⋯⋯⋯!?」
それを半歩でかわし胴薙の要領で盗賊を貫く。
「終わりです。」
「⋯⋯くっ、そが。」
盗賊の男はバタンとその場に崩れ落ちた。
「っ!!はぁぁぁ〜。」
盗賊が倒れたのを確認するとコウタは今更死の恐怖を思い出したのかその場にへたり込む。同時に召喚した剣は霧散する。
「大丈夫か?」
少し遅れて、後ろにいた少女がコウタに声をかける。
「あ、ええ。なんとか。」
ぼーっとしていたコウタは気の抜けた返事をその少女に返す。それを見て少女は呆れたように小さなため息をつく。
「⋯⋯色々問いたいこともあるが、助けられたのは事実だ。正直君がいなかったらやられていたかもしれん。ありがとう。⋯⋯立てるか?」
赤髪の少女はコウタに近づいていき手を差し伸べる。
「えっと、大丈夫でしたか?」
コウタは手を取りながら少女の安否を問う。
「ああ、おかげ様でな。」
少女は優しい口調でそう答える。
「私の名はアデル=フォルモンド、騎士見習いだ。」
「僕はコウタ=キド⋯⋯です。」
とりあえずノリで適当に答える。
「そうか、ならばコウタ、ついてこい。」
「はい?」
「この辺では見ない服装だ。大方旅の途中か何かだろう、近くの村まで案内しよう。」
異世界生活初日、運は彼に味方してくれているようだ。
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