ダメ姉は、妹になる(後編)

「―――ヤッハァ!おねーちゃんと、一緒の、ゆーえんちー!」


 愛しい、愛おしい。愛でるべき存在である姉―――じゃない、妹のマコのおねだりにあっさりと陥落し。マコとデートする事になった私……立花コマ。

 マコに手を引かれてやってきたのは、二駅程離れた場所にある最近オープンしたテーマパークでした。


「ふふ……そんなに嬉しいのマコ?」

「うんっ!とっても!だってさ、ただの遊園地じゃないんだよ?……そう!お姉ちゃんと一緒!一緒の遊園地!これが嬉しくない人なんて存在しないってくらい最高の組み合わせじゃないのさ!」


 とてもハイテンションに飛び跳ねながら嬉しいことを言ってくれるマコ。そんなマコの愛らしい反応に、思わず私も……それから遊園地の従業員さまも周りのお客さまも。微笑ましく笑みを浮かべてしまっています。


「マコ?嬉しいのはわかるけど、走って転んで怪我をしないようにね」

「はーい!わかってまーす♪」


 本当に分かっているのかな?と思いつつも、無邪気にはしゃぐマコにキュンっと胸を打たれる私。


「おねーちゃん!早くいこー!」

「はい、今すぐに」


 私に手を振りながら駆ける妹を追いかけます。……大丈夫。もし本当に転びそうになっても、お姉ちゃんが必ず助けてあげますからね。



 ~ジェットコースター~



「遊園地って言ったらやっぱりジェットコースターは定番だよね!」

「あの……マコ?マコは絶叫系のアトラクションって大丈夫なのですか?怖くないのですか?」

「ぜんぜんへーきだよ!私、こういうのは結構得意だもん!」

「それならば良いのですが……」

「…………あ、でもね」

「ん?でも?」

「その、ね。乗っててちょっぴり怖くなったら……お姉ちゃんの手、握っても……良いかな?」

「…………(ギュッ)」

「……いやあの、お姉ちゃん?ジェットコースターに乗る前から手を握っても……意味無いと思うの私……」



 ~コーヒーカップ~



「コーヒーカップ……ふふふ♪私、実はこれ大好きなんですよマコ」

「へぇ……そうなんだ。ちょっと意外かも。お姉ちゃんってさっきみたいな絶叫系のアトラクションが好きそうって思ってたし。あ、ちなみにお姉ちゃんはどんなところが好きなの?」

「だってコレ、気軽にスリルを味わえますし。恋人と二人で回すってところが愛の共同作業みたいで楽しいですし。それに……」

「それに?」

「……こんなに座る距離が近いんです。公衆の面前で、堂々とハプニングを装ってマコにくっついたり抱きついたり、どさくさに紛れてキスしたりできますもの♡」

「わーお。凄いぞぉ。お姉ちゃんのその一言で、このアトラクションが他のどの絶叫系よりも心臓がバクバクしちゃうドッキドキのアトラクションに変わっちゃったわ」



 ~お化け屋敷~



「(ギュッ)マコ、怖かったら遠慮しないでお姉ちゃんに抱きついて良いですからね?」

「お姉ちゃんお姉ちゃん。すでにお姉ちゃんが私に抱きついてるお陰で、私前が全然見えないよお姉ちゃん」

「(ギュッ)大丈夫。お姉ちゃんがマコを守ります。何が来ようとも、何があろうとも、何を犠牲にしようとも守ります。全力で、返り討ちにします……!」

「そのお姉ちゃんの気持ちはありがたい。ありがたいけど……これアトラクション!ただのアトラクションだから!?だからお願い!従業員さんを困らせるような事は間違ってもしないでね!?」

「(ギュッ)どんな魑魅魍魎が襲い掛かろうとも、マコには指一本触れさせません。ええ、そうです……世界一素敵でかわいいこのマコに触れていいのは私だけ……私だけなんですから……」

「ねぇお姉ちゃん、なんかいろんな意味でお化け屋敷よりもお姉ちゃんのほうが怖い気がするんだけどぉ!?」



 ◇ ◇ ◇



 こんな感じで時間の許す限りマコと楽しい時間を全力で過ごした私。気が付けばあっという間に日も傾き、そろそろこの遊園地デートも終わりを告げようとしていました。


「―――突然ですがここで問題ですお姉ちゃんっ!遊園地デートのシメって言えば!」

「言えばー?」

「「やっぱり観覧車ですよねー(だよねー)!!」」


 最後に一体何に乗るのか、その答えは二人同じもの。


「……あははっ!やった♪お姉ちゃんとハモった!」

「ふふふっ♪何せ双子の姉妹ですものね」


 そう笑いあいながら観覧車に乗りこむ私とマコ。ゆっくりと上へ上へと登ってゆくゴンドラの中、


「さっき乗ったアトラクションがあれだよね」


 とか


「あっちの方角に我が家があるはずですよね」


 とか。周りを見下ろしそんな会話を楽しみながら頂上を目指します。


「あら……マコ、マコ。見てください。景色が……」

「わぁ……わぁあ……!凄い、綺麗……!」

「ホントですね。煌びやかに照らされて……素敵です」


 頂上付近に差し掛かると、まるで示し合わせたような絶好のタイミングで遊園地の至る所で一斉に夜間ライトアップされました。

 色鮮やかに点滅するそれは……とても幻想的でとても美しい景色。ロマンチックな光景に、私とマコは息をのみます。


「お姉ちゃん。なんかこれ……ドキドキする」

「私もですよマコ。とても……胸が高鳴りますね」


 その美しい夜景にあてられたのか。最初は二人向かい合って座っていた私たちでしたが……


「マコ……」

「おねえ、ちゃん……」


 いつの間にか二人横に並んで。気づけば自然と手を握り合って。周りを確認してからゆっくりと抱き合っていた私たち。髪をかき分け、互いの頬に手を添えて……そして、静かに口づけを交わし始めます。


「ん。んん、ぁむ……マコ、マコ……」

「コマ……お、姉ちゃ……んむっ……」


 夜景の見える密室の中。聞こえてくるのは互いを呼ぶ声と吐息とキスの音だけ。薄暗く他のゴンドラからは見えるはずない位置でやっているとはいえ、もしかしたら誰かに見られているかもしれないという緊張感。


「おねえ、ちゃん……」

「まこ……」


 そんな場所で実の妹のお口を蹂躙しているという背徳感。それが最高のスパイスとなり、私はいつも以上に興奮してしまいました。寧ろ……誰かに見せつけてやりたいという欲求さえ私の中に芽生えていきます。


「お姉ちゃんの舌、あつい……」

「マコのも、熱くてとろけちゃいそうですよ……」


 身を寄せ合い舌を絡ませながら、互いの熱に酔いしれます。くちゃりぴちゃりと淫猥な水音が狭いゴンドラの中で反響し、それを聞いているとますます行為はエスカレート。


「唾液、おいし……お姉ちゃんの、いつまでも飲んでいたい……」

「ずるいですよマコ。私にも……マコのあまい蜜、飲ませて……」


 ぬるりと口腔内に舌をねじ込むと、マコは待っていましたとばかりにその私の舌を自分の舌で絡め取り唾液をすすり、こくんと美味しそうに飲み込んでくれます。私も負けじとそのマコの舌を追いかけて、同じように舌に纏われていたその唾液を飲み干します。


 唇と唇。舌と舌。重なり合い、擦れ合い、絡め合うたびに心地よさと甘美な快楽が押し寄せて背筋を震わせます。ああ、もっと……もっとマコとキスしていたい……


「ちゅ……ちゅぱ、んぁ……」

「っぁ……ん、ぐ……」

「ふっ……じゅる……れ、ろ……ちゅ、ちゅぱっ……じゅるる……っ!」

「……んー、んぬ……んぐぅ……んんん…………ぷはっ。ご……ごめん……ハァ……お姉ちゃん、タイム。ハァ、ハァ……さ、流石に息続かない。ちょっとだけ、休憩させて……」

「あ……っ。え、ええ。そうしましょうか。ごめんなさいね、ちょっと無理をさせちゃいました。息が整うまで待ちますよ」

「ありがとね。ふー…………ねえ、コマお姉ちゃん?」


 しばらくキスを堪能し。そして息継ぎの為に一度互いの口を離したその時です。唐突にマコは私に声をかけてきました。


「はい?どうしましたかマコ?」

「お姉ちゃんはさ……今日は楽しかった?」

「……?え、ええ。もちろん楽しかったです。楽しいに決まっているじゃありませんか」

「ん、そっか」


 一瞬、マコの言っていることが理解できなかった私。何故マコはそんな分かり切った事を聞くのでしょう?マコと過ごす時間が楽しくないわけないじゃないですか……


「ねえマコ?どうしてマコはそんな事を聞くのですか?私、楽しんでいないように見えましたか?」

「んーん。そうじゃないの。そうじゃないんだけど……」


 少し気まずそうに頬を掻きながら、マコはこう続けます。


「だって……今日は本来ならお姉ちゃん他に用事があったでしょ?それなのに遊園地に行きたいなんて私が無理言って付き合わせたから……迷惑に思ってないかなって心配だったんだよ」

「ああ、そういう事ですか。いえいえ。ご心配なく。私も……気分転換出来て良かったですよ」

「本当に?」

「本当です。マコが誘ってくれたお陰で、久々に羽を伸ばせました。ありがとう、マコ」


 三年生になって助っ人やら何やらで特に忙しさが増してきたせいで、マコと本格的に遊ぶ機会が以前に比べて減りつつあった私。マコのお陰で心身ともにリフレッシュ出来ました。これで明日からも全力で頑張れそうです。

 だから本心からマコに感謝する私。その私の一言に、マコは胸を撫で下ろして……


「そっか。コマ―――お姉ちゃんが楽しんでくれたなら、私はそれが一番嬉しい。こちらこそ今日は付き合ってくれてありがとう。また、一緒に来ようね」

「……っ」


 そう言って、慈愛に満ちた表情で私に笑顔を向けてくれました。そんな彼女の大人びた母性溢れる素敵な笑顔に、私は胸があり得ないくらい高鳴ってしまいます。


「ええ、もちろんです!」

「……もー、またお姉ちゃんは私の事を『姉さま』って呼んでるよ?なあに?そんなに私の事をお姉ちゃんにしたいの?もしかしてそういうプレイなの?」

「え……あ、あれ……?す、すみませんマコ……」


 気づけば私はまたもやマコの事を……『姉さま』と、呼んでしまいました。だってそれがとても自然な事のように思えたのだから……


「そんな事よりさ。……降りるまでまだ時間あるよねお姉ちゃん。息も整ったしさ。ちゅーの続き―――しても、いい?」

「ッ!も、勿論ですよ!さ、さあマコ。目を閉じて……」


 そう言ってマコは私にすり寄って、私の服をギュッと握り上目遣いでそんなおねだりをしてきました。一瞬感じた聖母のような姉さま的なオーラは消え、天使のような妹オーラ全開のおねだりは―――それはそれは強烈な一撃でした。

 私はほんの少しの違和感を拭い去り。もう一度、大好きな妹の唇に自分のそれを重ね合わせることに専念しました。



 ◇ ◇ ◇



「あー、楽しかった♪」

「ええ、本当に」


 ギリギリまでマコとのキスを堪能し、晴れ晴れとした気分で観覧車から出た私。


「それではマコ。名残惜しいですがそろそろ帰るとしましょうか」


 できればこの楽しい時間をマコとともに永遠に過ごしたいところですが。残念ながら私たちには帰るべき日常というものがあります。デートの続きはまた今度、という事で。


「そだねー。おうちに帰るまでがデートだし、帰り道は気を付けながらいちゃいちゃしつつ帰ろうねコマお姉ちゃん!」

「ふふっ♪そうですね、気を付けながらいちゃいちゃしまいましょうね」


 そんな面白い事を言いながら私の腕を組むマコ。私も笑いながらマコと共に遊園地を後にしようとした、


「―――あれー?コマとマコだー。おいーっす」

「あら?この声は……」

「……うげっ!?」


 まさにその時です。私たちの背後から、私とマコの名前を呼ぶ聞きなれた一人の女の子の声が聞こえたのは。


「……観覧車に乗る前に、どっかで見たことある後姿が見えたと思ってたけど。やっぱりだ。コマ、マコ。やほー。二人ともデートでもしてたん?」

「ヒメさまお疲れ様です。ええ、その通りですよ」

「ひ、ヒメっち……な、何故ここに……!?」


 パッと振り返った私とマコの目に映ったのは……私たちの大親友、麻生姫香―――ヒメさまの姿でした。


「……何故ここにって。そりゃ遊園地に来てるわけだし二人と同じだよマコ。私も、デートしてた。もちろん愛しの母さんとのデート♡」


 私たちのもとへと駆けてきたヒメさまは、マコの問いかけに何を当たり前のことを聞いているんだといった調子で答えてくれました。ヒメさまの後ろにはヒメさまのお母さまが私とマコに会釈をしてくれます。


「そ、そそそ……そうなんだ……!じゃ、じゃあヒメっちのデートの邪魔しちゃ悪いし、私たちはそろそろ帰るね!そんじゃ行こうかコマ……(ボソっ)お姉ちゃん……」

「え?あ、ああそうですね。ではヒメさま。また明日学校でお会いしましょう」


 どういうわけかヒメさまに会うなり冷や汗を流しこの場から離れたがるマコ。マコの様子に首をかしげながらもヒメさまに挨拶をして私もマコの後を追いかけようとします。


「……ん。じゃあまた明日。…………あ、ちょいまちそこの双子。一つ聞きたいことあったんだった。聞いてもいい?」

「……?聞きたいこと?ええっと、何でしょうかヒメさま?」

「こ、コマお姉ちゃん!早く帰らないと電車に乗り遅れるよ!ひ、ヒメっちとのお話は明日にでもできるわけだし!ほ、ほら早く帰ろうそうしよう!!?」


 そんな私とマコに対し、ヒメさまはいつも通りの独特のテンションで。そしていつも通りの口調でこんなことを言いだします。


「……どうでもいい事だけどさ。







どうしてマコがコマの事を『コマお姉ちゃん』って呼んで、んでもってコマがマコの事を『マコ』って呼んでるの?なんか、そういうプレイでもしてんの?」

「…………え?」

「…………」


 ヒメさまのそのような問いかけに、私の脳は一時停止。一度ヒメさまの顔を見て、そして……マコの顔をまじまじと見つめます。


「マ、コ……?」

「…………」

「あの、えっと……今ヒメさまが言っていたことって……一体どういう……」

「…………ここまでか。まさか最後の最後でヒメっちトラップとか予想できんよ。……口裏合わせるなら、徹底するべきだったかなー……」


 私の視線を受けたマコは、頭を抱えて盛大な溜息を吐き……


「…………ごめん、。変な事に付き合わせて、ホントごめん」

「え、え……えっ?」


 そう言って、観念した顔で真相をぽつりぽつりと語り始めました。



 ~マコ回想中~



「―――ちゆり先生聞いてください。最近のコマの事なんですけどね……」

「んー?コマちゃんがどうかしたのかしら?」

「それが……またコマったら無理をし始めたんですよ。生助会のお仕事は二年生の時以上にハードですし、毎日毎日どこかの運動部に引っ張りだこになっちゃうし。勉強を教えてほしいって休み時間ごとに後輩たちから迫られるし、手伝ってほしいって休みの日まで先生共に呼び出し食らうし!」

「あららー。相変わらずコマちゃんモテモテねぇ」

「コマもコマで、そういう厄介ごととか面倒ごとをすべて引き受けちゃうんですよ!?あろう事か大事な自分の休む時間とか趣味の時間を削ってまで引き受けちゃうんです!姉としては無理してほしくない!ちゃんと休んでほしい!…………(ボソっ)あと、休みの日くらいは私と一緒にいてほしいっ!……それなのにコマったら『姉さまの理想的な妹として。出来ることは何でもしたいので』って無茶ばっかりして!」

「ふむふむなるほど。……ん?そう言えば前同じような事なかったっけ?その時は確か……コマちゃんを強制的に休ませるように私が赤ちゃんプレイを教えたわよね。また同じように試してみたらどうかしら?」

「……もちろん何度か試しました。効き目もあったと思います。一時的には休んでくれますし。けれどコマったら……赤ちゃんプレイした後ほど『元気溢れかえっちゃいました♡』とかなんとか言って、無理とか無茶ばかりするんです……」

「……あー。効き目ありすぎたパターンね」

「そこで相談です先生。どうすればコマを休ませられるでしょうか……?お姉ちゃんらしく、ここはビシッと『休みなさい』って言うべきでしょうか……?」

「んー……そうねぇ。コマちゃんの事だし、直球で行っても無理そうよねぇ。隠れてこそこそ仕事しちゃうタイプだわあの子」

「仰る通りで。……うぅ。何か良い手はないでしょうか……?」

「ふむ、そうね。まぁ、あるにはあるわよ。コマちゃんを休ませる方法」

「あはは……ですよね、いくらちゆり先生といえども、そんな急に言われてもコマを休ませる方法なんて思いつかな―――あるんです!?」

「ええ。そういう話なら私に任せなさいマコちゃん」

「なんと頼れるお方……そ、それで!?一体どんな手を使ってコマを休ませたら良いのでしょうか!?」

「逆転の発想よマコちゃん。姉がダメなら―――妹としてコマちゃんを堕とせばいいのよ」



 ~マコ回想終了~



「―――と、言うわけで。そんな先生のアドバイスを受けて……コマの妹になりきって、コマにリフレッシュして貰おうって考えたんだよ。先生曰く『コマちゃんってマコちゃんに甘えられたいって欲求があるっぽいし。マコちゃんが妹にそれっぽくなりきればイチコロよ♡』らしくて……」

「…………そうですか。またしても、あの先生ですか……」


 姉さまのそんな説明に、私は思わず歯ぎしりをしてしまいます。……ああ、なるほど。先生の入れ知恵だったのですね……

 くやしい……まんまと騙されてしまった事も。それから……妹な姉さまを堪能できたことに対する感謝の気持ちのせいで、先生に文句の一つも言えそうにない事も……くやしい。


「……その、コマ。ごめんなさい……」

「……?あ、いやあの……何故謝るのですか姉さま?」

「コマを驚かすような真似をしてごめんなさい。コマを騙すような事をしてごめんなさい……怒っていいから。『姉の癖に妹になりきるなんて気持ち悪い』とか、罵っていいから……ホント、ごめんね……」

「姉さま……」


 心底申し訳なさそうに私に平謝りするマコ姉さま。そんな姉さまを見ていると、先生にしてやられたモヤモヤ感はどこかへ飛び去ってしまいます。


「姉さま、顔を上げて」

「……コマ」

「形はどうあれ、私の事を想って一生懸命姉さまが私の為に尽くしてくれたのです。感謝こそすれ、怒ったり罵ったりするわけないじゃないですか」


 ……むしろ、お礼を言いたいところ。姉さまに妹になりきってもらい全力で甘えて貰えるなんて……今日はこれ以上ないくらい至高の一日でしたからね。


「でも……理由はどうあれコマを騙したことには変わりないし……」

「……もし、悪いとお思いでしたら姉さま。一つお願いがあるのですが」

「!い、良いよ!私に出来ることなら何でもする!それが償いになるかわかんないけど……遠慮せず言ってみて!」


 内容も聞かず、食い気味に私のお願いを了承してくださるマコ姉さま。……それでは遠慮なく。


「……出来ればで良いのです。無理なら無理だとはっきり仰ってくださいね」

「コマに絶縁される以外の事なら大抵OK、どんとこいよ」

「ありがとうございます。ではお願いです…………今日一日。いえ、一週間に一回、二回…………三回ほどで良いので……」

「うん」

「…………また、私の事を『お姉ちゃん』って呼んで……甘えてくれませんか……?」

「……ほぇ?」


 そんな私の恥ずかしいお願いに、一瞬目をぱちくりさせて固まる姉さま。

 ですが、数秒後ににっこりと笑顔を見せながら、


「―――うん、良いよ。コマお姉ちゃん♪」


 天真爛漫な笑顔を浮かべて、マコは私に抱きついてくれました。

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