第99話 ダメ姉は、腕組みする

「―――あの……マコ姉さま?本当に大丈夫なのですか?」

「ゴメンナサイ……も、もう大丈夫っすコマさん……ご心配おかけしました……」


 おめかししたコマに心奪われ、デート初っ端から興奮し鼻血を周囲にまき散らしたはた迷惑な私だったんだけど……こんなところでギブアップするわけにもいかない。

 何とか気合で復活し、自分の奇行をコマに謝りつつデートを再開する事に。


「ですが、唐突にあんな多量の血を流すなんて尋常じゃありませんよ。前々から思っていましたが、やはり姉さま何らかの病気なのでは?……無理をなさらずに、体調が悪いのならばデートならまた別の日にして今からでもお医者さまに精密検査をして貰うべきだと……」


 本気で心配してくれる心優しき我が最愛の妹コマ。いや違うのよ……私のこの鼻血ブーな体質は、病気と言えば病気だけど違うの……そういう深刻な話じゃないのよコマちゃんや……


「い、いやだからもう大丈夫!ホント、もう平気なの!……ちょ、ちょっとその……私も今日のコマとのデートが楽しみ過ぎてあまり寝てなくて……そのせいで興奮して血圧が上がって鼻血がちょびっと出ただけだから!だから気にしなくていいんだからね!?」


「……っ!た、楽しみ過ぎて……ですか。そっか…………(ボソッ)そっか。姉さまも、楽しみにしてくれたんだ…………ふふ……ふふふっ♪」


 そんな小学生みたいな私の誤魔化しに、コマはなんだか楽しそうにクスクスと笑みをこぼす。良かった……よくわからんが納得してくれたようで何よりだ。


「いやはや……恥ずかしい限りだよ。遠足が楽しみ過ぎて前日眠れない子どもじゃあるまいにねー」

「そのお気持ちはとってもわかりますよ姉さま。私も昨日の夜は楽しみで中々寝付けませんでしたから」

「え?コマもそうなの?」

「はい。今日に備えて早めに就寝したにもかかわらず、全く寝付けずにしばらくベッドで悶々としていましたよ。一緒ですね私たち」

「そっかぁ、一緒かぁ。……流石双子だねー」

「ええ、流石双子です」

「「……えへへー♪」」


 顔を見合わせて笑い合う私とコマ。二人の間に和やかな空気が流れる。……私が鼻血を無駄に出しちゃったのもある意味結果オーライ、かも?

 変にデートを意識してギクシャクしちゃうよりも、こんな風に楽しい雰囲気でデートした方が絶対良いもんね。


「ですが姉さま。睡眠はしっかりとらないとダメですよ。お肌にも健康にも悪いですからね」

「はーい♡気を付けまーす!まあ、それは置いておくとして……そんじゃ予定よりも早いけど早速デートしちゃおうかねコマ」

「はいです姉さま。本日はよろしくお願いしま―――あ、ですがその前に……」

「ん?どうかしたの?」

「すみません……聞きたい事があって……でも聞く前に姉さまが鼻血を出されちゃて、それで聞きそびれていた事があったんです。良かったらデート前に今ちょっと聞いても良いですか?」


 聞きたい事……?ハテ?何だろうか。


「うん、いいよーコマ。コマが聞きたい事ならお姉ちゃん何でも答えてあげる。何かな何かな?」

「ありがとうございます。それでは聞かせていただきますが……」

「うんうん」

「……姉さま。今日の姉さまの……そのセクシーなお召し物は一体……?」

「んぐぅ……!?」


 痛いところを突かれてしまい思わず口ごもる私。や、やっぱ聞かれるか……聞かれちゃうのかこれ……出来れば触れられたくなかったんだけどなぁ……

 実はコマがおめかししてくれたように、この私もコマとのデートに備えてデートに相応しい服装に着替えようと試みてみた。だけど……


「あ、ああえっと……ほ、ほら!いつものお買い物とかならともかく、折角のコマとのデートに残念ダメな恰好で行くのは空気読めてないかなーって思ってて。……で、でも私ってファッションセンスダメダメじゃん?下手したら一緒にデートするコマまで変な目で見られる恐れもあるじゃん?」

「……え?私、姉さまのファッションセンスは世界一素晴らしいと思っていますけど……?」


 ハハハ、ナイスジョークコマ。自慢じゃないけどセンスの一欠片もないって事くらい自分が一番わかってますよ……


「ま、まあ世間一般からすると、私のセンスはダメダメって事でさ。……だ、だからコマに恥をかかせない為にも、その辺のファッションとかに詳しいヒメっちにこういうデートってどんな格好ですべきなのか昨日相談してみたんだよ……」

「ヒメさまに……ですか?」

「うん……そしたらヒメっちったら……コレを着てコマとデートしてこいってこの服一式を持ってきてね……」


 センスの良い親友のアドバイスに従ってみた結果…………む、胸元ガン開きなVネックに、おしりの形がわかるぴっちりタイトなミニスカートを着る羽目になった私。

 これがコマみたいに手足がすらっとしているスタイルの良い子が着るのならとても絵になったと思うけど、今回のファッションは私のような胴長短足な子豚デブが着るようなもんじゃない。こんな際どい服着ているって意味でも、似合わない服着ているって意味でも……正直めちゃくちゃ恥ずかしい……今からでも着替えたい……


「そ、そうでしたか。なるほどヒメさまが……清楚系な姉さまの普段の格好とのギャップが凄いと言いましょうか……ちょっぴり過激な恰好で一体どんな心境の変化だろうと不思議でしたが、ヒメさまのチョイスなら納得です。……そうかヒメさまが……ヒメさまがこれを……」

「あ、の……コマ?どう、かな?や、やっぱり……こんな大人っぽいやつは私には似合わないよね……?も、もしもコマが見苦しいなって思ったなら今すぐ着替えてくるから―――」

「んな!?と、ととと……とんでもありません!だ、ダメ!着替えちゃダメです!着替えるなんて勿体ないです姉さま!」

「ふぇ……?」


 ヒメっちはえらく自信満々に勧めてくれたけど……ぶっちゃけ似合わないんじゃないだろうか……?心配になりコマに感想を聞いてみた私だったんだけど……コマはちょっぴり目を血走らせながら私の手を取って大きな声でそう答えてくれる。


「凄いですっ!最高です!素晴らしいの一言ですよっ!姉さまの武器を最大限に活かす、実に素晴らしいファッションじゃないですか!胸元が大きく開いたVネックは姉さまの豊満なバストを引き立てていてとってもセクシーです!鎖骨が、そしてチラリと見える胸の谷間がたまりませんよ……!それもただ開いているだけでなくちゃんと隠すところは隠し、見せるところは大胆に見せていて……上品さも兼ね備えていて感動ものです!そしてそのぴったりフィットしたタイトミニは姉さまのむちむちで美しいお尻のラインをくっきりと見せていて……見ているだけですっごくドキドキしちゃいます!タイトミニとニーソックスの間に見える生足なんて、叶う事なら私自らの手で直接触れて撫でて舐めてみたい―――(コホン)と、とにかく素敵なんです!も、勿論普段お召しになっているような姉さまファッションも私は好きですが……今日のその格好は新鮮で色っぽくて…………(ボソッ)今すぐにでも食べたいくらいとってもえっちで…………とても……そう、とても素晴らしいと思いますよ!」

「お、おぉ……そ、そっか……素晴らしいんだね?え、えと……ならこの格好のままで良いのかな?」

「はいっ!それで良いのです!それが良いのです!本日は是非ともその格好でいてくださいませ姉さま!!!」


 私を押し倒す勢いでこの格好について興奮気味に熱弁してくれるコマ。は、話の内容はおバカな私にとっては高度過ぎてよくわかんなかったけど、とりあえずコマが喜んでくれてるみたいで何よりだ。


『あ、あのさヒメっち!?こ、これでホントに良いの……!?これちょっと胸強調しすぎじゃない!?スカート短すぎじゃない……!?』

『……だいじょーぶ。それくらい攻めといた方が絶対コマ喜ぶ。私が保証する』


 ヒメっちのアドバイスを聞いた時はしょーじき言うとかなり半信半疑だったけど、まさかこれ程までに喜んでくれるとは良い意味で予想外。手を合わせ、心の中で我が親愛なる友人に感謝する私。サンキューヒメっち……今度何かしらの形でお礼をするからね。


「…………嗚呼、眼福です……幸せすぎます……ありがとうございます……本当にありがとうございますヒメさま……私、今ここであなたに永遠に変わらぬ親愛と友情を誓わせてもらいますからね……!」


 ……何故かコマも私の隣で手を合わせ、ここにはいないヒメっちにめちゃくちゃ感謝しているのがちょっとだけ気になった。


「あ、あはは……よ、喜んでもらえて何よりだよ。じゃ、じゃあ気を取り直して。そろそろデートを再開しよっかコマ」

「は、はいです。話を脱線させてしまい申し訳ございませんでした姉さま。改めまして、本日はどうかよろしくお願いします」

「オッケー、エスコートはお姉ちゃんに任せてね!」


 この服を着ている恥ずかしさを吹き飛ばすべく、コマにデート再開を促す私。……今日のデートは全て私が企画立案している上に、どこへデートするのかはコマには一切伝えていない。

 何で伝えてないのかって?だって行き先知らない方がドキドキするだろうし、エスコートするって如何にもデートっぽいじゃないのさ。


「それで、最初はどこへ行きますか姉さま?」

「んーとねぇ。最初は……映画館に行って今流行りの映画を見ようかなって思ってるんだけど……」

「まぁ映画ですか!それは素敵ですね姉さま」

「……そ、そかな?いや、ちょっとベタで無難すぎかなって心配だったんけど……」

「いえいえ。確かにデートの定番ではありますが、今まで私と姉さまって一緒に映画を見る事ってなかったじゃないですか。きっと一人で映画を見るよりもずっとずっと面白いと思いますし、今からとっても楽しみです。……いいえ、映画だけではありませんね。今日の姉さまとのデートの何もかもがとっても楽しみですよ私♪」


 その言葉通り、本当に楽しそうな可愛い笑顔を見せてくれるコマ。……これって。私とのデートをコマは期待してくれているのかな?もしそうなら嬉しい。

 ならば私は姉として、そして今回のデートを立案した者として……コマに恋焦がれる者として。コマには今日のデートを存分に楽しんで貰えるよう頑張らなくちゃね。


「では早速映画館へ行きましょうか姉さま。上映時間を過ぎてしまったら大変ですし」

「……ん。そうだね。でもその前に……コマ、ちょっと失礼するね」

「?姉さま何を―――きゃっ!?」


 頑張らねばと思ったらすぐさま実行。コマに一言謝ってからコマの腕に半ば強引に抱きつく私。困惑しているコマを横目に、そのまま腕を組んで引き寄せてみる。


「あ、あの……!?ねえ、さま……!?むね、当たって……!?それ、に……なん、で……!?」

「ん?ああ、だって私もコマも11月だってのに二人とも今日は結構薄着じゃない?だからこうやって密着すれば暖かいかなーって思ってさ」

「あ、え……そ、そうですね!あ、暖かいですね!?」

「それにね、何度も言うけどこれってデートだしさ。こうやった方が如何にもデートっぽいでしょ?」

「……は、はい。そうですね…………(ボソッ)今日の姉さま……積極的ワイルドですてき……」


 内心心臓バクバクさせながらも、平然とコマにそう言ってみる私。恥ずかしい服着ている以上に、コマとこうやって腕を組むのは恥ずかしいけれど……でも恥ずかしがってばかりもいられない。これも全ては今日のデートを成功させるため。頑張れ私……己に負けるな私……!


「あ、でもコマは嫌かな?お姉ちゃんとお外でこういう事やるの恥ずかしい?コマが嫌だなって思うなら無理しなくて良いんだよ。お姉ちゃん、コマが本気で嫌がる事は絶対にしないから」

「いっ、嫌なわけないです!むしろ、こちらからお願いしたいくらいです!」

「よーし!ならOKね。そんじゃ、このまま一緒に映画館までGOだよー!」

「は、はひ……ごーです……」


 腕を組んだままコマを引っ張って、最初の目的地へと足を進める私。さてと。今日デート、張り切って行きましょうかねー!







「…………(ボソッ)姉さまの今日のお姿……セクシー過ぎて心臓もたない……おまけに強調されてるお胸が……腕にあたってる……やわらかい、あったかい…………『黙って俺についてこい』的オーラを出しまくりなワイルドな姉さまもカッコいい……すてき…………ああ、ダメだ私……今日死ぬかも……姉さまが素敵すぎてしんじゃうかも……」

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