八月の妹も可愛い
第48話 ダメ姉は、水着を購入する
青い空と白い雲、そして太陽のまぶしさに目が眩む八月。期末試験(+補習と再試験)もコマの協力のお陰で無事に終え、いよいよ楽しい夏休みの開幕となった。
「―――姉さま。姉さまは私にはどんな水着が似合うと思いますか?」
「んー?そうだねぇ。私的には……」
そんな夏休みの某日。以前も訪れたショッピングモールの中にある水着売り場で水着を選んでいると、愛しい妹のコマがこの私にそんなことを尋ねてくる。
コマに似合う水着か……数瞬考えてから私の脳裏に浮かぶコマの姿。それは―――
「私的には……コマは何も着ないのが一番美しいと思うよ」
「え……?」
「ん……?…………あっ!?あ、いや違うっ!?違うの!言い間違えちゃっただけなの!こ、コマは何を着ても一番美しいって言いたかっただけだからね!?」
無意識のうちに、相も変わらずアホみたいな事を思わず口走る私。
「あ、ああなるほど。そういうことでしたか。……ふふっ♪ありがとうございます姉さま。私も姉さまはどんな水着を着てもお美しいと思っていますよ」
「あ、あはは……そっか。あ、ありがとねコマ……」
私たちを照らす夏の灼けるようなまばゆい太陽よりも、コマの私に見せてくれる煌く素敵な笑顔のほうがまぶしい。
……言えない。こんな純真な笑みを浮かべる妹に対して『コマは生まれたままの姿が一番似合うねっ!』とか本気で思ってたとか絶対言えない……ダメなおねーちゃんでごめんよコマ……
「そ、それにしても。こんなにいっぱい水着があるんだし、選ぶの迷っちゃうよねー」
「ですね。折角の旅行……それも海の近くでお泊りをするわけですし、素敵なものを着たいですからとても悩んじゃいますよね。…………(ボソッ)現に今も、どの水着が一番姉さまに喜んでもらえるか悩みまくりですよ私」
申し訳なさを誤魔化すように私はコマに話を振る。実際二人でかれこれ一時間近くもあれでもないこれでもないと水着売り場でウロウロしているけど、なかなか着る水着が選べないでいる私たち。選択肢が多すぎるというのも考えものだね。
「全く……それもこれも叔母さんがいきなり『来週旅行に行くからお前らちゃんと準備しとけよー』なんて言い出すのが悪いよね。そういうことは先に言っておいて欲しかったなぁ。先にわかってたらもっと早く水着選びとかもできてたのに……叔母さんってばやる事為すこと全部が急で困っちゃうよ」
「ですよね。まあ、ある意味叔母さまらしいといえばらしいですが」
そう言って私もコマも苦笑い。
……さて。何故突然私たち立花姉妹が今水着を選んでいるのか。そもそも旅行とは一体何の話なのか。それを説明するには昨夜の出来事について話さねばならないだろう。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ無事に期末試験並びに再試験も乗り越えたこと、叔母さんが仕事をきっちり終わらせたこと、そして……私もコマも叔母さんも大きな病気や怪我もなく一学期を終えられたことを祝して―――乾杯っ!」
「「かんぱーい!」」
数学の再試験を一発合格したその日の夜。私とコマとめい子叔母さんは一学期お疲れ会と称してプチ宴会を開いていた。
あ、勿論私とコマは未成年だしただのジュース。そして叔母さんは乾杯の音頭を上げる前から当然のようにお酒を飲んでる。
「いやー、一時はどうなることかと思ったけど……期末も補習も再試験も何とかなってホントに良かったよ。それもこれもコマが私に勉強教えてくれたお陰だよ!ホントにホントにありがとー♡……ああ、ついでに叔母さんも助力あんがと」
「いえいえ。私は特に何もしていませんよ。姉さまの頑張りがあったからこそです」
「おいマコ。テメェついでって何だついでって。そして何だその気持ちの入っていない感謝は」
いつもだったら再試験も毎回5回は受けなおしていた私だけれど、期末試験に引き続き、コマに家庭教師をやってもらったお陰で一発合格することが出来た。うちの担任の先生にも、
『再試験を一発合格とは……勉強嫌いなお前にしてはよく頑張ったじゃないか立花。確か今回は数学の試験以外は赤点を取っていない―――どころか、平均点を超えていたみたいだな。普段も今回のようにもうちょっと頑張ってくれると担任としては嬉しいんだけどなぁ』
と、(珍しく)褒めて貰えたしこれで気持ち良く夏休みを堪能できるってもんだ。コマ(と叔母さんたち)に感謝感謝っと。
「そうそう。二人とも夏休みの予定ってどうなってる?どこか行きたいところとか、やりたい事とかあったりするの?」
自分の作った宴会用の料理を食べつつ二人にそう尋ねる私。折角の夏休みなんだし、普段は出来ないようなこともやってみたいよね。折角ならコマや叔母さんと楽しく色々体験出来たらいいだろうし、今のうちに二人の夏の予定を聞いてみよう。
二人の都合が付く日があれば家族三人でどこかに遊びに行く計画を立てられるからね。
「私は今のところ特にはありませんね。……ただ、その……」
と、コマは私をチラリと見て何か言い淀んでいる。ただ……何だろう?
「ん?なーにコマ?」
「えっと、ですね。出来れば折角のお休みですし…………姉さまと一緒にいられたら嬉しいなって。家でも外でも……ずっと」
「こ、コマ……っ!も、勿論だよ!夏休みは、お姉ちゃんとずーっと一緒にいようねー♪」
「はいっ!ずっと一緒です……っ!」
「…………お前らさ。ただでさえ夏でクソ暑いのに、人の目の前で更に暑苦しくイチャつくの止めてくれないか?イラっと来るんだが」
こんなにも美しい姉妹愛を間近で見ておいて、暑苦しいとは叔母さんはなんて失礼なんだろう。
「そういう叔母さんはどうなの?夏休みって予定入ってる?もしかしてまだ仕事残ってたりする?」
「一応一区切りついたと言ってましたよね?叔母さま、他にも仕事があったりします?」
「ん?いいや、仕事自体は昨日ぜーんぶ終わらせたさね。……まあ、夏の―――というか来週の予定は入っているけどな」
「へー、そうなんだ」
おや……これはちょっと意外だ。計画性皆無な叔母さんのことだから、夏休みの予定なんて入っていないと踏んでいた私なんだけど……どうやらちゃんと今後の予定については考えているらしい。
グータラでノリと勢いだけで生きていると思っていたけど、叔母さんも日々成長しているんだね。
「……おっと、夏の予定で思い出した。なあマコ。一つ聞いて良いか?」
「へ?ああうん。何かな叔母さん」
と、そんな叔母さんの成長に感心していると叔母さんが私に対してそのように尋ねる。聞きたい事……?何だろうか?
「コマからちょっと聞いたことなんだけどさ、マコお前……」
「うん」
「また胸がデカくなったらしいじゃないか」
「…………ほほう。食事中にセクハラかね叔母さん?」
「…………叔母さま。突然何を言っているのですか?」
感心した私がバカだった。急に何なんだこの人。
「セクハラじゃねーよ。真面目な質問だからな。胸デカくなったってことはアレだろ?去年までの水着じゃ胸のところキツイってことだろ?」
「ま、まあそうだけど……それが一体なんなのさ」
「……叔母さま?もし姉さまを辱めているのでしたら、私に喧嘩を売っているものと見なして、その喧嘩を買わせていただきますが宜しいですか?」
下ネタが苦手っぽいコマは叔母さんの発言に怒っているみたいだ。そりゃそうだ。食事中に何を言い出してんだろう叔母さん。
「コマ落ち着け。だから真面目な質問だって言ってるだろ。……マコ、お前来週までに自分に合った水着ちゃんと買っておけよ。そうじゃないと後悔するぞ」
「何でよ?」
「何でって……オイオイ、そんなもん決まってるだろう?」
そうしてごくごくお酒を飲みながら、何ともない口調で叔母さんはこんなことを言いだした。
「来週アタシたちが行く予定の旅行先には、すぐ傍に海があるんだぜ?折角目の前に海があるのに泳がないんじゃ勿体ないだろうが」
「ふーん。そうなんだ…………うん?」
……ちょっと、待とうか。今叔母さんなんて言った?
「……気のせいかな?叔母さんさぁ、今なんか変な事言わなかった?」
「……私も同じく妙な話が聞こえた気がします。叔母さま、もう一度お願いします。今何と?」
「ん?だから旅行だよ旅行。来週行く旅行」
「「…………来週……旅行……?」」
「……あれ?」
コマと顔を見合わせる私。そんな話、私たち一切聞いていないんだけど?
困惑している私やコマの様子を見て流石に何かおかしいと気づいたようで、頬をポリポリ搔く叔母さん。
「あー……もしかしてさ。お前らにはまだちゃんと言ってなかったっけ?一泊二日の家族旅行の件は。ま、まあアレだ。来週アタシとマコとコマの三人で旅行に行くからさ、お前らちゃんと準備しとけよー」
「「…………え?」」
◇ ◇ ◇
―――という具合に。叔母さんに昨日唐突に……まったくの初耳、寝耳に水な旅行の話を振られた私たち。
そんなわけで大急ぎで旅行に必要な歯ブラシや着替え、下着に日焼け止めetc.……そして新しい水着を買うために、コマと共にショッピングモールを訪れたというわけである。
「……ホントいきなりすぎるよね。何で叔母さん、私たちの予定とか一切考えずに旅行計画とか立てたんだろ」
我が叔母ながら勢いオンリーで頭が痛い。やれやれ……何故あの人は事前に一言でも『海に行くぞ』とか『旅行に行くからこの日は開けておいてくれ』とか言わなかったんだろうか?
つーかあの人、私たちが予め予定入れてたらどうする気だったんだ……?
「ま、まあ叔母さまも仕事が忙しくて伝えそびれていたそうですし、何にせよ私たちの為に旅行計画を企画されていた事には変わりませんから。そう怒らないであげてください姉さま」
「それはそうなんだけどさ……」
私も人の事は言えないけど、やっぱりあの人ノリと勢いだけで生きてる節があるよなぁ……生活能力も皆無だし、微妙にコミュ力も無いし。
仮にだけど私やコマが独り立ちした場合、ちゃんと叔母さんは一人で生きていけるか心配だ。叔母さんの面倒見てくれるような好い人がいるという噂も全く聞かないし……
「ま、叔母さんの事はどうでもいいか。それより早く水着を決めなきゃね」
「そうですね。さて、どうしましょうか姉さま」
「どうしようかねぇ……」
旅行に必要なものは一通り購入した。残るは大本命の水着選び何だけど……私もコマもさっきから決めあぐねている。
綺麗なの可愛いのお洒落なの―――どれもこれも素敵だとは思うけど、中々これといったものが見つからないでいる。
「そもそも私ってファッションセンスないから、洋服選びも苦手なんだよねー」
「え?そうでしょうか?私は姉さまのファッション好きですけど」
「あはは、ありがと。……けど世間一般からしたらちょっと(?)センスに欠けるってよく言われるからね私」
友人たちや叔母さんからは『見ていられない程に残念なセンス』と定評がある私のファッションセンス。『学校指定のジャージ姿の方がマシ』と言われた時は流石に泣きたくなったよ。
……いいじゃないの、妹の写真をプリントして作ったTシャツ着ても。それの何がダメなのさ……?
「それにさー、どうにも自分で選ぼうとすると中々上手く選べないんだよねー」
「…………ん?自分で選ぼうとすると……中々上手く選べない……?」
「そもそも私には何が似合うのかがよくわかんないんだよね。特に着たいものがあるわけでも無いしさ」
「……」
もういっそ、こういうことはプロである店員さんに見繕ってもらった方が一番手っ取り早いのかもしれない。
というか、長時間売り場で何も買わずにあれでもないこれでもないとウロウロするのもお店の人に迷惑がかかりそうで申し訳ないし……そろそろ店員さんを呼んでからおススメでも聞いてその中から適当に選ぼうかな。
そう思って早速店員さんを呼ぼうとした私だったんだけど……
「……あの……姉さま」
「んー?なぁにコマ?」
「えっと、ですね。ちょっと思いついことがあるのですが……聞いていただけますか?」
「おっ!もしかして何か良いこと思いついちゃった?聞かせて聞かせてー」
コマがそんな私の袖を引き、遠慮がちに提案してくる。私なんかの思い付きよりもコマの提案の方が素晴らしいものに決まっているハズ。
店員さんを呼び止めようと挙げた手を引っ込めてコマの方に向き直る私。
「今しがた、姉さまこう仰いましたよね?『自分で選ぼうとすると中々上手く選べない』と。それと……『特に着たいものがあるわけでも無い』とも」
「うんうん。言った言った。それがどうかしたのかな?」
「実は私も姉さまと同じ気持ちなのです。自分で選べませんし、自分に一体何が合うのか……何が着たいのかがよくわからないのです」
「だよね!わかるよその気持ち!」
どうやら双子なだけあって、コマも私と同じように悩んでいたようだ。……なんか嬉しい。コマと同じような事考えてたって思うと嬉しい。
「それでそれで?提案って一体何かなコマ」
「はい。そこでふと思ったのですが……それならばいっそのこと、二人で水着を選びっこするのはどうでしょうか?」
「……うん?」
……選びっこ?
「つまりですね。私が姉さまの水着を、そして姉さまが私の水着をという具合に……お互いの水着を選び合うのです。多分その方が自分のものを選ぶよりも面白いですし、案外すんなりと選べるかと」
「……ええっと……それはつまりアレかな?こ、この私めが……コマのお召しになる水着をチョイスさせていただいても宜しいという事なのでせうか……!?」
「ええ、その通りですよ」
い、いいのそれ……?だって水着だよ……?GWの時みたいに普通の洋服を選んであげるんじゃなくて、ほとんど下着といっても過言じゃない水着を選ぶんだよ……!?
な、なんというかコマを自分色に染め上げるみたいで……すっごい背徳的で興奮しちゃうんだけどホントにコマはそれで良いの……!?
「あ、あの……コマ?改めて言うけど私ってファッションセンスなんてないよ?最悪、コマの趣味に合わないもの選んじゃうかもしれないし……」
「良いのですよ。……きっと私にとっての一番は、姉さまが選んでくださるものだと思います。姉さまさえ良ければ……お願いしても良いですか?私も、姉さまに似合う水着を頑張って選ばせてもらいますので」
逸る気持ちを抑えつつ、自分のファッションセンスの無さを強調してみたけど……コマはそれでもいいと言って期待の目で私を見つめてくる。
うぅ……そんな目で見つめられたら、ダメだなんて言えないじゃないの……ダメって言う気はさらさらないけど。
「わ、わかったよコマ。なら全然自信は無いけど……頑張ってコマの水着を選ばせてもらうね!」
「はいっ!お願いします姉さま♪」
「じゃ、じゃあとりあえず10分くらいで見繕ってみるね。選び終わったらまたこの場所に集合ってことでどうかな?」
「わかりました。では姉さまにピッタリのものを誠心誠意選ばせていただきますね」
「うん、よろしくねコマ。それじゃあまた後で」
そう言って各々でお互いの水着を選ぶために一旦二手に別れる私とコマ。
コマと別れてからゆっくりと売り場に置いてある水着を眺めつつ考える。さて、一体コマはどんな水着が似合うのだろう?
一口に水着といっても多種多様。セパレート・ワンピース・タンキニ・ビキニ、競泳水着にスクール水着にetc. 色々あるわけだけど……
「……困った。どれもこれも似合い過ぎる……」
脳内で様々な水着を着たコマをイメージしてみたけど、コマったら全部似合い過ぎてお姉ちゃん感嘆ものよ。
実際スタイルもルックスも素晴らしいコマだし、多分どんなものでも―――それこそ競泳水着やスクール水着は勿論、私が選んじゃいそうなヘンテコリンな水着でもパーフェクトに着こなしてくれる気がする。つまりはこの店内にある水着の何を選んでも似合うというわけだ。
「……んー。だったら……ここは私の好みで選んじゃっても、良いかな……?」
……うん、それが良いかも。その方が迷わないで済むからね。そう考えた私は、コマに着て欲しい水着があるコーナーへふらふらと誘われるように向かうことに。
今回は割と遠出をすると叔母さんから聞いている。知り合いも少ない場所だろうから……思い切っていつも着てるやつとは違うのを着てもらうのも面白いかもしれない。
「そう例えば―――ちょっと大胆な水着とか!ちょっと露出が多い水着とか!ちょっとドスケベな水着とか!ちょっとエロい水着とかっ!」
「(ビクッ)お、お客様……?どうなさいました……?急に大声を出されて……だ、大丈夫ですか……?」
「店員さん!良いですよね、妹にエロ水着を着せるのって!」
「は、はあ……」
……店内なのに大声でアウトな事を叫ぶ。いつでもどこでも煩悩全開な私である。
「まずはビキニ!君に決めた!」
店員さんの不審者を見るような視線を浴びながら、欲望のままに鼻血とよだれを垂れ流しつつ試しに近くに飾ってあった派手なビキニに手を伸ばそうとして……
「…………いや、待て待て私……」
はたと我に返り、その手を引っ込めて頭をぶんぶんと振る。ちょっと待てよ?確かにえっちいのをコマに着てもらいたい気持ちは大いにあるけれど、冷静に考えてみたら……もしそんなものをコマに着せる羽目になれば、そのセクシーなコマを夏の飢えた野郎共の衆目に晒すことになるのでは……?
そうなれば程好く鍛えられ引き締まったコマのお腹も、腹斜筋を鍛えたことにより磨かれた芸術的なくびれも……それを全部タダで他の連中に見せてしまうことになるというわけで……
それにあまりに露出マシマシだったり派手すぎて『姉さまってそんな趣味があったのですか……?』とコマにドン引きされる恐れだってあるし……
「…………やめておこう」
ちょっと後ろ髪を引かれながらも、思いとどまる私。こういうのは二人っきりの時に機会があれば着てもらえば良い。それよりも老若男女問わない人目のある海が舞台なんだし、いかに健全にコマを輝かせるかが重要となってくるだろう。
「えーっと……その条件なら……やっぱりこれ、かな?」
私だけじゃなくて他の人にもコマの水着姿を見られることを想定したうえでもう一度水着を選ぶ直す私。選び終えたら急いでさっきの場所へと向かう。
「あ……姉さまお疲れ様です。選び終わりました?」
「お待たせコマ。うん。選んでみたよ。…………ごめんコマ、もしかして待った?」
「いえいえ。ちょうど今私も選び終わって戻って来たところですよ」
急ぎ足で戻った私を、すでに戻っていたコマがお出迎えしてくれる。……なんか良いなぁ、こういうのも。まるで恋人同士で待ち合わせしてたみたいな会話に密かに感動。
よく考えたらお互いの水着を選び合うのも恋人っぽいし……ヤバい、ちょっと妹と恋人デートしてるみたいで浮かれちゃいそう。
「それでは姉さま。早速選んだ水着を確認しましょうか」
「あ、うん。そうだね。……なら私から。コマ、どーぞ!」
選んだ水着をコマに献上する。さて。コマも気に入ってくれると良いんだけど……
「おや、これは……ワンピース水着ですね」
「そうだね。コマに合うかなって思って選んでみたんだけど……」
今回私がチョイスしたのはオーソドックスなワンピース水着。これならば露出は少ないしかなり年相応だろうし、何より清純派なコマにピッタリと思い選んでみた。胸元には乙女心をくすぐるフワフワなフリルがついており、コマの愛らしさをより一層引き立ててくれることだろう。
「ど、どうかな?もしかして子供っぽい?レトロすぎる?」
「いいえ。清楚でおしとやかな姉さまらしい、とても素敵な水着の選び方で感心しましたよ」
「そ、そっか。良かっ―――清楚で、おしとやか……?」
……なんか、あり得ない単語が聞こえた気がしたけど気のせいだろうか?気のせい……だよね……?
「ありがとうございます姉さま。姉さまが選んでくださったこの水着、とても良いと思います。ありがたく購入させていただきますね♪」
そう言ってコマは大事そうに……愛おしそうにその私が選んだ水着を撫でる。良かった……喜んでくれたみたいで良かった……
あと、勢い余って派手なの選ばなくてホントに良かった……
「う、うんっ!それは良かったよ。……あ、でも念のためサイズとか着心地とかは確認しておいてね」
「はい。あとでそうさせて貰いますね。それでは姉さま、今度は私の選んだ姉さまが着る予定の水着をお渡しします。どうぞです」
ホッと胸を撫で下ろしていると、今度はコマが私に選んだ水着を手渡してくれた。おっと……そういや私も選んでもらってたんだった。コマのを選ぶのに夢中で忘れてたよ。
まあ、私と違ってファッションセンス抜群なコマだし、多分駄肉抱えた残念なスタイルな私でも着れるやつ選んでくれてるだろうから何も心配はしてないけどね。
「ふふふっ……♪この水着……きっと姉さまに一番似合うものと思っています。我ながら自信がありますよ」
「おー、それは楽しみだよ。どれどれー?」
コマがそこまで言うんだし、きっと凄い水着なんだろうな。そう思いながら手渡された水着を広げてみた私の目に映ったのは―――
「…………あの、コマ?これで……合ってる?もしかして間違ってない……?」
「いいえ?間違いなくそれを選びましたけど?」
「……あ、あはは……そっかー……これで合ってるのかー……」
―――ビキニだった。奇しくもちょうど私がさっきコマの水着にと選びそうになっていたちょっと過激なビキニだった。……ショーツの横がヒモになってるビキニ。紐ビキニとかタイサイドビキニとかいう奴。
しかもトップスの布面積めっちゃ少ない。具体的に言うとマイクロビキニ一歩前な感じ。…………ハッハッハ!コマさんや?
これを……着ろと?
「あ、あのさコマ?これ……もしかしなくてもビキニだよね?お、お姉ちゃん……コマが選んでくれたのはとっても嬉しいんだけどね……さ、最近またお腹周りがちょーっと気になるお年頃だし……そもそもセクシーすぎて私は着るにはあと10年早い代物だと思うんだけど……」
流石にこれを着て公衆の面前に出るブレイブは私には無い。そもそもこういう水着はスタイルの良いコマが着るべきものだと思うの。私みたいな駄肉抱えたダメ人間なんかじゃ、とてもとても着れるものでは……
選んでくれたコマには悪いけど、ここは遠慮させてもらうことにしよう。そう思ってコマに説得を試みた私なんだけど……
「大丈夫です。絶対似合いますよ姉さま」
「いやー……これは流石に露出がね……」
「大丈夫です。絶対似合いますよ姉さま」
「い、いやだからね……私にはちょっと」
「大丈夫です。絶対似合いますよ姉さま」
「ええっと……こ、コマ?話聞いてる?」
「大丈夫です。絶対似合いますよ姉さま」
コマの態度は揺るぎない。一応にこにこ笑顔なんだけど……決して有無を言わさないコマの強い意志と眼光が私に突き刺さる。会話もなんか『はい』を選択しないと進行出来ないゲーム仕様になってるし……
な、何だろう今日のコマは?何だか今日はいつもより積極的で…………こういうコマも素敵。―――とか言ってる場合じゃない。え?マジで着るの?着なきゃいけない流れなの?
「…………わ、わかった……わかったよ……じゃ、じゃあとりあえずサイズが合うかだけちょっと確認してくるね……」
「はいっ♪」
結局コマに反論できず、渋々試着室の中へと入る。よわい、弱すぎるぞ私……
とにもかくにもサイズ確認の為に試しに着てみたんだけど……
「……だ、大丈夫かな……コレ……?」
…………鏡の中の自分を見て思う。公然わいせつ罪で、逮捕されないか心配になってきた……
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