第24話 ダメ姉は、添い寝する
~SIDE:コマ~
GW初日の夜。私、立花コマの『一緒に本を読みましょう』というちょっとした我が儘で、今日購入した叔母さまの執筆されている小説の読書会を始めた私と私のマコ姉さま。
「―――姉さま、そろそろ次のページに……姉さま?」
「……ぅ…ん…」
「……あら?」
その読書会の途中。小説を読み進めるため次に行っても良いか確認を取ってみたものの、姉さまの反応がありません。
どうしたものかと姉さまを上から覗き込んでみると……いつの間にか姉さまが私の腕の中で愛らしい寝息を立てているではありませんか。
……ふと今日の出来事を思い返します。私の診察の付き添い・ショッピングモールのお店巡り・お買い物にetc―――随分と歩いた上にゲームコーナーでは身体も動かしました。帰りも何故か二人で走って帰る羽目になりましたし……きっと相当にお疲れだったのでしょう。
「……今日の読書会はここまでにして、また明日二人で読みましょうね」
そう呟いて叔母さまの書いた小説に栞を挟みパタンと閉じます。……大丈夫、今日からGWですからね。焦らずとも姉さまとこんな風に一緒に本を読み合える時間はたっぷりありますから。
そんなことを考えながら、姉さまをベッドに運んで寝かせてから姉さまの部屋からお暇しようと決める私。名残惜しいなと思いながらも、姉さまを抱きしめていた腕を解きます。すると……
「……すぅ……」
「……あ、あらあら」
私のシャツを握りしめて、そのまま姉さまは本格的に眠り始めます。
「あの……姉さまごめんなさい。私、そろそろ自分の部屋に戻りたいのですが……」
「……んー」
…………かわいい。
……姉さまの握った手を解きながらそうお願いした私ですが、イヤイヤしながら更に強く私のシャツを握りしめる姉さま。……何だか母親に行かせまいと必死になっている赤ちゃんみたいで……かわいいです。
いえ、姉さまはいつでもどこでもかわいいですけどね。
コホン。……さて、これからどうしましょう。少しばかり思案する私。この様子では姉さまが自然と手を離すことはまず無さそうです。ですが無理やりにでも姉さまの手を離そうとすれば、きっと姉さまを起こしてしまう事になるでしょう。そしてこんなに気持ちよさそうに眠っている姉さまを起こすなんて蛮行、私にはとても出来そうにありません。
かといってこのままでは私も動けません。それにこのままベッドではなくここで姉さまを寝かすなんて愚行をしてしまえば……姉さまの身体を痛めさせてしまい兼ねませんし、最悪風邪を引かせてしまう恐れもあります。
起こすのもダメ、そのままにするのもダメ。……でしたら―――
「(これは……今日は私も、姉さまのベッドで姉さまと一緒に寝るしかありませんね……!)」
そのような結論に辿り着く私。そうこれは仕方のない事。不可抗力というもの。少しばかりベッドが窮屈になってしまうでしょうが……幸い私は寝相は良い方です。
……大丈夫、双子の姉妹ですから一緒のベッドで寝るくらい普通の事。何も問題ありません。ええ、問題ありませんとも。そう自身に自己暗示をかけるように言い聞かせる私。
…………姉さま、ごめんなさい。私こんな苦しい言い訳を使ってまで姉さまの側にいたがるズルい妹です。ちょっぴり自己嫌悪になりながらも、まずはベッドに移動させるべく姉さまを抱きかかえる私。
「よいしょ…っと。……わ。姉さまやっぱり軽いですね」
起きないようにそっとお姫様抱っこしてみると、羽根のように軽い姉さまはあっさりと持ち上がります。……時々姉さまったら『いろんなところに駄肉抱えてるし、ダイエットしたいなぁ…』なんて言いますけれど、こんなに軽いならなおの事ダイエットなんて必要ないでしょうに。
……大体。そんなことをしたら姉さまの立派なお胸もお尻も痩せちゃう恐れだって……
「……これで良し。後は照明を消してっと……」
そんな邪念を抱きながら姉さまをベッドに横たえます。寒くないように掛け布団をかけ、お部屋の照明をリモコンで消して……
「では、失礼しますね……姉さま」
一言だけ姉さまに謝ってからベッドに恐る恐る潜り込む私。
「(…………あったかくて……いい匂い)」
姉さまの隣に横になると……姉さまの温かな体温が、石鹸のにおいに混じる姉さま特有の甘い匂いが、姉さまの優しい吐息が―――それらすべてが私を包み込み、まるで姉さまに直接抱いてもらっているような錯覚さえ覚えてしまいます。
そんなことを考えたら、急に胸の鼓動が早くなってくる私。いえ…胸の鼓動が早まるどころじゃありません。お腹の下あたりもキュンとなって……
「(……あぅ……)」
……ごめんなさい姉さま。やっぱり、私悪い妹です。へんたいさんです……
でもこれは仕方がないのです。だって姉さまと一緒のベッドで寝るなんて本当に久しぶりで……その懐かしさに心から安心する一方で昔以上に強くなった私の秘めたる感情が、胸の奥で猛ってしまうのですから。
しばらく悶々としていると、窓から差し込む月の淡い光が姉さまを照らしてくれます。暗闇にも慣れてきたおかげで、ハッキリと姉さまの寝顔が私の目に映ります。
「(姉さま……きれい……)」
普段はお日様のように光り輝いている姉さまですが、月の光に照らされた姉さまは何だかとっても神秘的。お姫様みたいです。
……その神秘さに惹かれ、つい吸い込まれるように姉さまに近づいてしまう私。読書していた時とは逆に、今度は私が姉さまの胸の中へと入り込んで―――
「……んにゅ……コ、マ……」
「っ!?あ、あの……違うんです姉さま!?こ、これはその……っ!」
と、流石に起こしてしまったのでしょうか。突然眠っていたはずの姉さまが、私の名を呼びます。
慌てて姉さまに返事をしながら、姉さまの胸の中からパッと抜け出して言い訳をするために距離を取る私でしたが……
「……コマ……は…次、どこに……買い物……私、どこでも……つきあう…よ」
「(……寝言?)」
それだけ言うと、またすーすーと穏やかな寝息を立てる姉さま。……ビックリしました。起こしてしまったのかと焦りましたが、どうやら姉さまは夢の中の私に声をかけてくださったようです。
ホッと一安心しながら、同時にちょっと嬉しく思う私。
「(……姉さまは、夢の中でさえ私の事を大事にしてくださっているのですね)」
本当にお優しい人。いつも私の事を一番に考えてくださって……私のためにいっぱい頑張ってくださって。
「(そんな姉さまだからこそ、私は―――)」
……もう一度、今度は先ほどよりも慎重に且つ絶対に起こさないように姉さまに近づきます。ゆっくりと手を伸ばし、姉さまのふわふわの前髪に触れ、そして……
「……いつも、ありがとうございます姉さま」
日頃の感謝と私の秘めたる想いを乗せ、その触れた前髪に優しくキスをします。
……今はまだ、これが精一杯。私にはまだ姉さまに想いを伝える度胸も無ければ伝える資格もありませんから。
……でもいつか……私のこの想いを姉さまに……
「……んにゃ……コマぁ……」
「ふふっ♪今日はお疲れ様でした姉さま」
「んー……」
キスをした後はまた姉さまの胸の中に潜り込む私。しばらくすると傍に感じる姉さまの鼓動が、まるで子守歌のように私を優しく夢の世界へ誘います。
……おやすみなさい、私の大好きな姉さま。
◇ ◇ ◇
~SIDE:マコ~
とろとろと微睡みの海にたゆたう私こと立花マコ。
―――チチチチチッ
「ぅ……?ふぁ……あっと」
そんな夢うつつの中にいる私を、窓の外にいる小鳥たちが目覚まし時計のように囀って覚醒させてくれる。
ありがとう小鳥君たち。うーん、何て気持ちの良い目覚めなんだろうか。
「ぁふ……あー、よく寝た。…………ん?あれ?ていうか、もう朝なの?」
起きてすぐにそんな事を考える私。んー?私、昨日はいつ寝たっけ?ていうか昨日の夜って何してたっけ?ベッドに入った記憶すらないし……ダメだ、寝ぼけているのか全然思い出せないぞ。
とりあえず大きく欠伸をしてからぐぐーっと身体を伸ばし、それが済んだら時間を確認すべく壁にかけている時計を見てみると。
「……んーと。……ありゃ、もう6時か」
現在時刻午前6時。いつもより起きるのが随分と遅かったみたいだ。
「(……こりゃ大分寝過ごしちゃってるな……疲れてんのかな私?)」
普段はコマや叔母さんのお弁当やら朝食作りのために、休日であろうと大抵目覚まし時計無しで5時前には起きる事ができる私なんだけど、今日は一時間近くも寝過ごしていた模様。
もしかして昨日随分と歩き回ったから私も想像以上に疲れてたのかな?それともGW中だから気が緩んでいるのだろうか?そう思って何気なく私の隣を見てみると。
「…………いや、違うな」
確かに疲れていたことも気が緩んでいたことも事実だけど、ぐっすりと眠れたのはきっと別の理由。それは……
「……ふみゅ…?…あ、姉さま…」
「あ、うん。おはよーコマ」
「はい……おはようございましゅ……」
「ゴメンね、起こしちゃったかな?」
それはきっと、久しぶりにコマと添い寝をしたお陰だろう。私の隣で寝ていたコマとおはようの挨拶をする。
「いえ……ちょうど……いま起きただけですよ。……ですが……いつもながら……姉さまは、早起きで立派ですね……」
「あはは、そうでも無いよ。今日はちょっと私寝坊しちゃったんだー」
まだ眠そうなコマと会話をしながら理解する。なるほどつまりこういう事か。恐らくコマの発する温もり・香り・色気・愛らしさ・その他諸々……その全てがきっと私へ向けて『まだ私と一緒に眠りましょうよ姉さま♡』と特殊な信号を送ったのだろう。
そしてその信号を受け取った私の中の全細胞が『はい……立花マコはコマと一緒に眠ります……』的な感じで服従して、そのまま寝過ごしてしまったってところか。
うんうんなるほど納得した。それなら私も寝坊くらいしてもしょうがな―――
―――まて、まて待て私。よく考えろ。何かこの状況……変じゃないか?…………私の隣で、寝ていた……コマ?
目をごしごし擦って、すーはーすーはーっと深呼吸。そしてもう一度私の隣を見てみると……やっぱりそこには私の愛しの妹のコマが一緒のベッドの中にいる。
「……こ、ま…?あれ、私の…コマ?」
「?あ、はい。姉さまのコマですよ」
「……あ、の。えっと、あれ?ど、どうして…コマは…その。私のお部屋で眠っているのかな?」
ね、寝ぼけて夢でも見ているのか私は…?な、何故コマが私の部屋で…しかも私と一緒に寝ているの…?もしかしてドッキリ?それとも私の抑えきれないコマへの愛がとうとうイマジナリー・コマを作り出したとでもいうのか…?
い、いや……でもこの神々しくも愛らしく美しいオーラは……私如きが生んだイマジナリーコマでは断じてなく……間違いなく私の妹である本物の愛しきマイシスターの立花コマだし……
慌ててコマにこれがどういうことなのかこの状況について尋ねてみると、ポッと頬を赤く染めてコマはこう続ける。
「え、えっと……すみません。実はその……昨日は姉さまが私を離してくれなくて……それで仕方なくここで……」
私が、コマを離さなかった……?そのコマの台詞を聞き急いで分析開始。
①昨日はいつ寝たのか、何をやっていたのか記憶が全くない私。
②私の部屋―――それも私のベッドで私の隣で眠っていたコマ。
③頬を赤らめるコマの反応と『離してくれなかった』という発言。
この三つが指し示す答えと言えば…
「(…………ヤって……しまった?)」
つまり……コマへの欲望が頂点まで達し、無意識化で…………コマに手を出しちゃったって、こと?
え?マジ……で?いやいやいやそんなバカな……いくら私でも、そんな素敵な状況になったら意識を取り戻すハズ。
それはいくら何でもあり得ないよね。うん、あり得ないあり得ない。ははははは……!
…………いや、だけど状況証拠的には……そうとしか考えられなくて。それはつまり……最愛の妹をこの私が汚してしまったってことで。……あれだけ心に固く誓ったハズの決意をあっさりと破ってしまったということで……っ!
それを理解した瞬間、サーっと血の気が一気に引く感覚に襲われる。
「……」
「……あの姉さま、大丈夫ですか?何だか顔色が悪いみたいですけれど……」
この
……そうか、そうなのか。……ならば、私の取るべき行動は一つだけだ。
「…………」
「ね、姉さま?どちらへ…?」
……ここじゃコマもこの部屋も汚してしまう。そんなわけで部屋を出て廊下へと向かう私。しばらくふらふらと家の中を彷徨うと、ちょうど手ごろそうな柱を発見する。
その柱の前に立ち、大きく息を吸い込んで……そのまま頭を振りかぶると―――
「クタバレ私ィ……!」
ズガンッ!と一発、柱にヘッドバット。いたい、超いたい。
「…………っ!?きゃ、きゃぁああああ!?ねねね、姉さま!?一体何をなさっているんですか!?」
不思議そうに私の後をついてきていたコマが、私の奇行に驚いて慌てて私を止めに入る。その制止を振り切って、痛みに堪えながらガン!ガン!と二発目三発目のヘッドバットを自分自身の頭に食らわせてやる私。
「(ガンッ!)最低だ……(ガンッ!)最低だわ私……(ガンッ!)コマの姉失格だわ……!」
「止めてください姉さま!?
そうだね…
「(ガンッ!)止めないで(ガンッ!)良いんだよコマ……(ガンッ!)私、姉なのに妹に手を出しちゃう(ガンッ!)最低女で……(ガンッ!)自分のベッドに自分の妹を押し倒しちゃう(ガンッ!)クズな姉で……(ガンッ!)だからそんな私に生きる価値なんてもう……」
「は……?手を出し……?ベッドに押し倒し……?―――ああ!?そういう事…?ち、違います姉さま!
「ごかい………
オイオイオイなんてこった……嫌がるコマを押し倒し、五回もヤってしまったのかこのダメクズ変態鬼畜シスコン駄姉は。
……最早この私に弁明の余地無し。土下座程度では謝罪にならない。誠心誠意真心こめて自分の頭を柱にぶつけ、腐れ切ったこの煩悩と共に消滅するしか道は無さそうだ。
「(ガンッ!)ごめん(ガンッ!)コマ……(ガンッ!)謝って(ガンッ!)すむ問題じゃ(ガンッ!)無いけど(ガンッ!)反省してます。(ガンッ!)勿論(ガンッ!)赦されない事だって(ガンッ!)私もわかってるよ……(ガンッ!)でもこれくらいは(ガンッ!)させてね……(ガンッ!)本当に(ガンッ!)ごめん(ガンッ!)なさい(ガンッ!)コマ……」
「どうしてそこで頭突きが加速するんですか姉さま!?お、お願いです…私の話を聞いて―――」
「あー……もー、何だよ朝っぱらからドンドンガンガンうるせぇな……朝に弱いアタシへの嫌がらせか何かか……?」
と、コマが私を羽交い絞めにして止めようとしたタイミングでガチャッと叔母さんの部屋の扉が開かれる。
どうやら私の謝罪ヘッドバットに起こされたのであろう、いつも寝坊助な叔母さんも中から欠伸をつつ現れた。
「ちょ、ちょうど良かった……!叔母さま!姉さまが大変なんです!どうか手を貸してください…!」
「あー……?何言ってんだコマ…マコが変態……じゃなくて。大変なのはいつもの―――」
「(ガンッ!)消え去れ邪念!(ガンッ!)私の中から出ていけ煩悩ォ!」
「―――うぉ!?な、何だァ!?マコの奴柱に頭打ち付けてやがるじゃねーか!?シスコンを拗らせてとうとう頭おかしくなっちまったのか!?
叔母さん、とうとうおかしくなったってどういう意味だコラ。……まあ、叔母さんなんてどうでもいいか……
「叔母さま!叔母さまも姉さまを止めるのを手伝ってください!ね、姉さまはもう頭突きを止めてください!」
「お、おうわかった!任せろ!マコ!大人しくしやがれバカ者!?」
「(ガンッ!)離して二人とも……!(ガンッ!)コマに手を出す(ガンッ!)姉なんて……くたばればいい…(ガンッ!)くたばれば(ガンッ!)いいんだよ……!」
叔母さんまでコマと一緒に私を羽交い絞めにして止めるけど、二人に羽交い締めされても負けずに気合を入れて柱に向かってヘッドバットを繰り返す私。
「落ち着いて、落ち着いてください姉さま!このままじゃ大変なことになっちゃいますよ!ですよね叔母さま!」
「そうだぞ!マコ、このままじゃ―――柱が折れちまうだろうが!オメー、アタシの家を壊す気か!?やるなら外でやってこい!」
「違います!そうじゃないでしょう叔母さま!?こ、このままじゃ姉さまの綺麗なお顔に傷が……!」
頭血と涙と鼻水をまき散らしてコマに謝罪をする私と、そんな私を必死に止めるコマ&叔母さん。
嗚呼、爽やかで気持ちの良いGWの早朝に似つかわしくない、なんて醜い光景だろうか。
「うわぁああああああん!ゴメンねコマぁああああああ!!」
「大丈夫、大丈夫です!本当に誤解なんですよ!ですから―――お願いですから話を聞いてください姉さまぁああああああ!?」
結局。五回……じゃない、誤解をコマに解いてもらうまで、計108回……煩悩の数だけ柱に頭を打ち付けた私であった。
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