3-2 魔術師と竜と巫女と黒服とグラサン パート2

 2体めのボスは巨大な機械人形、3体めのボスは火を噴く鞭を持った悪魔だったが、どちらもそれなりに装備を駆使して対処した。サングラスのナビがやつらをなんと命名したかは忘れた。

 消失位置から見て、ドローンは3体めの悪魔に撃墜され、持ち去られたようだ。死体を検分しながらそんなことを思っていると、少女が口を開いた。

『しかし安心したぞ』

「なにが」

『おぬしの力と道具はともあれ、それなりにまともに身体を使って戦うのじゃな……なんか手とかかざしたら相手が消滅するぐらい雑に勝ったりするかと思った』

「道具がいんちきなだけで、おれ自身は鍛えただけのふつうの人間だからな」

『そりゃそうじゃな。そんな化けものみたいな人間がおるわけが』

「いるぞ」

『そうじゃろう、そんなやつ……いるの!?』

「おれたちの手に負えないところには、そういうのが行く」

『ええー』

「さいしょからだまされてるとか、討伐対象が神とか、赤ん坊に転生して記憶がリセットされるとか、理不尽が襲ってくる率がだんちがいに高い、いわゆるハードモードの世界専門のやつだな。

 だいたいはおれらみたいな量産品が送られて死んだあと、なにがまずかったか分析してちょっとずつランクの高いのが送られる。とはいえ、調査技術が発展したいまじゃ、だいたい適正のところに割り振られるけどな」

 さもなきゃ、おれたちはとっくに人材不足で廃業だ。

『神……』

「もちろん、おまえにおれがだまされてる可能性もないわけじゃないが」

『そこは安心していいぞ!?』

「ああ……」

(疑ってねえよ。おまえ自身に関してはな)

 言わなかった。巫女というからには、うしろだては神だろうから。

 なくはないケースだ。神、あるいは神ですらないなにものかが真実を偽って代行者をコントロールし、ひとびとを掌握する。

「最悪そうだとしても、すべては魔術師を倒したあと考えればいいことだ」

『そ、そうじゃな』

「さて、これがさいごの扉か」

 いままでより小さい、人間だけが通れればいいというこしらえだが、それまでくぐってきた扉すべてを合わせたより頑丈そうな鉄扉だった。

 両手でゆっくりと押し開けると、スムーズに奥へと開いていく。視界が光で満たされる。

 大小さまざまな大量のろうそくが放つ上品な灯火で彩られた、迷宮の主にふさわしい居室が姿を現した。

 内装はいささか殺風景だが、魔術師は自由自在に必要なものを出せるからこれでいいということだろう。

 部屋をひととおり見渡してから、まっ先に視界に入った人物──中央で不敵に座している、光り輝く装飾でふちどったローブ姿の魔術師を、おれは改めて見やった。

 魔女と呼ばれていない以上、男なのだろうと思う。たぶんそうなのではないか。性別も年齢もさだかではない、美しい容貌のなかで目だけがぎょろりとこちらをにらみ、輝く。

 おれは油断なく視線をそのまま、サングラスのつるを軽くなぞった。

「グラサンよ」

【今回の標的です。推定レベル95】

 レベル100は、たいてい「この世界の平均的住人がまじめに鍛えて人間の限界まで強くなり、この世界の技術力の限界レベルの装備に身を固めたら、やっと互角に戦えるかどうか」というぐらいの目安だ。

 すなわち、おれたちの敵ではない。

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