第3話 魔術師と竜と巫女と黒服とグラサン

3-1 魔術師と竜と巫女と黒服とグラサン パート1

 けっきょく、少女を背負っている時間はそこまで長くもなかった。弱音をひとしきり吐いたあとはおし黙り、そのままおれの肩に揺られていたが、ほどなく体力がすこし戻ったようで、ふたたび歩けるようになった。

 おかげで時間のロスもさほどなく、ほぼ想定していた1時間ほどで迷宮の最下層とおぼしき深度に到着した。

 そしてついに、ドローンからの情報が途切れた。

「破壊されたか……査定に響く」

 おれがしょんぼりしていると、少女は心配したようすで、

『ど、どうするんじゃ』

「予備のドローンも持ってはいるが、ほぼ調査はすんでる。ここからは強行突破といこう」

 どのみち、あとは番人の待ちうける広間が連続している。大物を倒さなければ奥の扉が開かないやつだ。

 すでに第1の扉は目の前にあった。ドローンが通った隙間はうんと高所、とても人間の通れるサイズではない。開けて通るしかないわけだ。

「おまえさんはつかず離れずいてくれればいい。なるべくそっちのカバーも心がける」

『ん』

 少女は決然とうなずいて、着物のようなそうでないような衣装に手を入れると、さきほど出した地図にも使われていた薄膜状の布帛を空中に流すように広げた。

 器用にすいすいと魔法陣を書きこみ、それを複数重ねていく。

 書かれた光が浮きあがり、おれと少女の身体をすり抜けると、身体がみるみる軽くなるのを感じた。

『これでしばらくは、わしとおまえの力はかなり上昇する』

「グラサン、自己診断モード」

【運動能力、自然治癒力、体力上限、視力と視野、脳神経の伝達効率が向上し、各武器の機能は強化され、数度のダメージを肩がわりする物理防御、魔法防御のスクリーンが体表面に張られました。グラサンと呼ばないでください】

「冒険出たてのわりには大盤振る舞いじゃないか」

『出たてでこんなところまで連れてきたのはだれじゃっ』

「はっはっは」

『声だけで笑うな!!

 ……まったくもう。たしかに冒険でさらに効果は上昇するが基本はすべて習得ずみじゃ。おぬしは身体ができておったからな。対象が弱ければそれなりの術しかかけられん。肉体のほうがもたんもん』

「ゲームバランスだな……」

 ともかく、これですこしは楽になるというものだ。

 大扉を開くと、そこには案の定、大型の魔物が待ちうけていた。とりあえず『ライト』で照らすが、期待はしていない。人間以外、とくに大型の相手にはいまひとつ効果がないのだ。

 はじめは一見大きな塊のようだったが、それがのそりと動くとシルエットがほぐれるように変化した。九頭の大蛇がすべての頭をいっせいにもたげたのだ。いかにも強そうだがよく見るやつ。

【各世界に類似モンスター多数、推定戦闘能力はレベル80、近似するデータから名称を自動生成。目標名を仮にジエンドオブハイパーハイドラキングと呼称します】

(王なのに終わるのかよ)

「しかし、こいつらずっと扉眺めて待っててヒマじゃないのか」

『いいから早くやっつけろ』

「わかった」

 おれが懐に手を入れると、その動きに反応して大蛇は猛然と迫ってきた。

「遅い」

 とり出した得物が光を放つ。『ライト』の輝きではない、火薬の撃発だ。

 乾いた音が広い室内に響きわたり、蛇のここのつの頭のひとつがふきとぶ。

 突進の勢いは殺せなかったので、おれは横へ飛びのいた。手にした拳銃は、さっさと懐のインナー・ホルスターに戻す。

『残りの頭も破壊しないとすぐ再生するぞ、急げ!』

「必要ない」

『え』

 大蛇は、向きを変えようと身じろぎしたあたりで、びしゃりと爆発するように全身から血をふき出し、その場に崩れ落ちてただの塊に戻った。

「毒だ」

『ふつうじゃ!』

 妙なことで感心された。

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