2-2 迷いなき迷宮 パート2
じっさいのところ、予想したほどの苦労はなかった。敵のほとんどは魔術師の配下となった人間だったが、人間は胸ポケットの『ライト』によって気絶、起きたときには前後の記憶も喪ってしまう。ここで見たことは忘れるんだ、というやつだ。
大仰な鎧兜でごてごて武装しているやつ、年季の入った外套に身を包んで複雑なこしらえの杖を手にしたやつ、いかにも本拠地らしく百戦錬磨というたたずまいの連中がひしめいていたが、心配していたライトに抵抗力の高い『選ばれしもの』にはいまのところ遭遇していない。
なにより決定的なのは、迷宮となるとこちらが接近するまで相手からも視認できないということだ。隠れている敵や罠も先行するドローンがすべて的確に感知していることは、絶対の優位だった。
『苦労することじゃな』
「まったくだ」
少女の皮肉を受け流し、サングラスのモニターに表示される情報に従って進む。さすがにラスト・ダンジョン級となるとドローンを撃墜してくる敵もありえるが、今回はそれすらいない。地味に高くつくから助かるが。
迷宮――本来なら角ひとつ先になにが待ち受けているかわからない、恐怖に満ちた完全アウェイの閉鎖空間だ。異世界から召喚した人間を鍛えぬいて、ようやく攻略できるかできないかという相場。それをデータの蓄積と豊富なツールでまたたく間に踏破する。
(これはこれでロマンではあるんだよな)
口にはしない。さっきどちらでもいいと言ったばかりだ。
それにしても、少女がさきほどから無口だった。足を止めてかのじょのほうを見やると、具合が悪そうに壁に寄りかかっている。
「おい」
『世界間転移で体力が底辺まで落ちているのを忘れてたのじゃ……』
「おい」
ニュアンスのちがう「おい」を2回言ってしまった。
『赦せ……わしはここまでのようじゃ』
「まあそういうこともあるだろうな」
『わっ!?』
おぶうというより担ぐようにして、手早く肩にかのじょの体重を預けるようにする。時間がもったいないからだ。体力回復のサプリメントもあるが、異世界人の子どもに合うかどうか分析しているひまもない。
『うう……わしはなにをやってるんじゃろうか』
頬に温かい感触があった。涙だとわかった。
『なにをやってきたのか……この日のために
なのに現れたのは……なんということ』
(そういう段どりを踏みにじりに来たんだよ)
嘆かれるのも筋ちがいだと思ったが、おれは言わせるがままにした。
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