第2話 迷いなき迷宮
2-1 迷いなき迷宮 パート1
『空飛ぶ乗りものみたいなものは、さすがに持ちこまないのじゃな』
「ん? まあ任務にもよるが、宇宙や深海でもなきゃまず使わないな」
『もとより、ここから迷宮へに直接行くことなど想定しとらんかったけど、わしを連れて徒歩では1日どころか何年かかるかじゃぞ』
「おまえ、ついてくる気なのか」
『あたりまえじゃ』
「うへえ……どちらにしても心配するな。空間ジャンプを使う。あるていどの広さは必要だが、目的地にちょうどいい空間があった」
『空間転移!? しかしあれは魔力の流れがないところまでは届かないし』
「おまえが魔法陣に使ってる魔力以外にも、いろいろな技術があるんだ」
おれも理屈はいまいちよくわかっていないので、そのていどの説明で終えた。
「つかまれ」
『え』
「おれの衣服のどこでもいい、つかんでおけ。いっしょに移動できる」
『そうか。そこは転移陣より不便なんじゃな……』
「一瞬天地がなくなる感覚があるから、がまんしろよ」
少女はおれのジャケットの裾をおずおずとつまんでいたが、それを聴いて一瞬うろたえ、両腕でおれの胴にしがみついてきた。
『うう、はやく』
不安にさせてしまったようだ。軽く少女の肩に手を添えてやるようにして、あらためて巫女とやらがただの子どもでしかないと痛感する。特別な身体能力も、特殊な加護もないようだ。
おれの半分ちょっとしかない背丈、細すぎる肩。
本人の意志か、使命だか知らんが、見知らぬ他人に頼んで謎のパワーを託し、得体の知れない魔術師とやらを殺しに行かなければならない運命を負うには、か細すぎる。
(ふざけやがって)
神さまだかなんだかを倒す任務は、おれのランクでは受けられないのが残念だ。
転移先に脅威がないのを確認して、ベルトの右側についたジャンプ・ユニットにコマンドする。洞窟の入り口への移動は一瞬で終わり、風景が一変した。いわゆるラスト・ダンジョンと呼ばれる地域にふさわしい険しい山脈に囲まれている。
ひび割れた黒い大地の中央に、すべてを呑みこむような闇をたたえた侵入口が待ちかまえていた。
「もういちどプローブ・ドローンだ」
洞窟内でも可能なかぎりドローンに先行してもらい、敵の有無を確認し、なるべく戦闘のたぐいは避けて進む。
少女は転移時の軽いショックでふらついていたが、入り口へ飛んでいくドローンを見て丸い目をすがめた。
『んー』
「ずるいか?」
『正直、やっぱりいい気分ではない』
すなおなやつではある。
ともあれ、ドローンが続々と送ってくるダンジョンの情報は複雑だ。正しいルートと適切な方法を割りだしても、それなりの時間がかかるのを覚悟しなければならないだろう。
「これは苦労することになるな」
『どのくらいの苦労なのやら』
「言っても怒らないか」
『……いや、いい』
攻略には、たっぷり1時間は必要になりそうだ。
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