1-2 そこにロマンはあるか パート2

『さて、この地図では世界の広さはいまいちわからんと思うんじゃが……』

 説明しようとする少女を遮って、おれは片手でポケットを探りながら、もう片手をサングラスのつるに添えた。

「グラサン、この世界についてわかったことは?」

【グラサンと呼ばないでください】

『なんだっ!?』

 サングラスから響いた機械的なその声に、少女は驚いてあたりを見回す。

「気にするな。おれの相棒みたいなもんだ」

【女の子の服装、現在の景観をデータバンクに照合した結果、地球世界の住人が来訪歴ありと判明。数世紀前の伝承が中心で情報の正確性には乏しいものの、魔術体系等もあるていど解析可能】

 それは助かる。

【この世界は巫女の力を通して神々とされる上位存在にアクセス、魔法陣を中心としたシステムによって特殊スキルを行使する世界。魔法原理についてはタイプC15とK44および言語QSSの応用にて対応】

『そんなことまで!』

 少女はさっきから、もう驚くしかやることがないようだった。

 と思えば、少女はやや気をとりなおし、

『……話が早い。旅で戦士が世界に触れていくことで、巫女を経由して強力な陣を使えるようになる。初期から使用できるのは、さっきの世界移動の陣、巫女の視界を借りる遠見の陣、人間ひとりぐらいまでなら動きを封じる捕縛の陣あたりが』

「まあそういうのいいから」

『そういうの……』

 すこし気の毒だが、すぐに終わらせるんだから関係ないのだ。

「プローブ・ドローンを使う、グラサン」

【グラサンと呼ばないでください】

 おれはポケットから小型のボール状の金属塊をとり出すと、手のひらの上でそれは変形し、宙に浮いた。

『それは……』

「こいつがその地図の目的地まで飛んでいく。スキャンとマッピングが完了すれば、おれたちはそれをたどるだけですむ」

「ま、まさかそのちっこいのがそのまま魔術師を倒してしまったり?」

 だんだんおれの身もふたもなさがわかってきたようだが、ここは首を振った。

「洞窟みたいな入り組んだ空間での制御や通信にも限界があるし、さすがにおれ自身ほどの融通はきかない。残念ながら、直接行くしかない」

 飛んでいくドローンを見送りながら、おれは手短に装備品の点検をすませていく。

 さまざまな異世界から吸収した技術によってつくられた超兵器ひみつどうぐの数々。

『なんに使うものかは知らんが、こんなに用意のいい召喚対象は前代未聞じゃ』

「そうだろうな」

 稼働を確認した装備から、スーツのあちこちにあるポケットやホルスターに収めなおしていく。

「これ一式でたいがいの状況には対応できる」

『なんというか……』

 言いたいことはわかる。

「おれだって、こういうやりかたで異世界に干渉することにロマンはあるのか、みたいなことを思ったことがないわけじゃない。だが結論は出てる」

『どうなんじゃ』

「どっちにしても、おれは仕事をするってことだ」

 ドローンから、マッピングの成果がデータとして届いた。

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