第1話 そこにロマンはあるか
1-1 そこにロマンはあるか パート1
魔法陣をくぐると、典型的な異世界だった。
異世界到着直後の空間には大別して2種ある。
ひとつには、見るからに広大で抜けるような青空と、見渡すかぎりの草原。
でなければ、煮えたぎった溶岩やら凍れる大地やら……とにかく極端に暑いか、寒い。
後者のばあい、おおむねその世界を脅かしている側に召喚されたとみていい。そのときはすみやかにいったん退却し、要検討だ。
さいわいにして、
「おお……みごとな草っぱらだ……」
風が心地よい緑のグラデーションをざわつかせる、平和で美しい大地だった。
『ョヵッタナ!!』
すごい早口。早口すぎて『ァったな』しか正確には聴こえなかった。
……少女はさっきから目に見えて口数が減っている。というより、ぶんむくれている。ハリセンボンみたいなふくれっつらだ。
理由は明白。
(「おまえらとちがって、こっちは真剣なんだ」だろうな……ふん)
断じて失言なんかではない。常々思っていることだ。
「そんで? まずはどうしたらいい」
『……やる気はほんとうにあるのか』
「なかったら来ねえよ」
『じゃあ順番に教えてやる。この世界での戦いかたの基本じゃが』
「スキップ」
『ああ!?』
「そういうのはいい。こっちでどうとでもなるから、目的地を教えてくれ」
『ぷむー』
(子どもかよ)
子どもだろう、とおれの理性が告げた。
こういう世界の住人は、往々にして見た目どおりの歳ではないが、それでも姿なりの年齢かどうかぐらいは推測できる。一挙手一投足つぶさに観察していればわかること。
こいつはほぼ確定的に、見たとおりおおよそ11歳ばかりのじゃりちびだ。
「はあ」
(ため息しか出ねえ……)
『やる気……いや、もういい。最終目的地は』
ばさり。
少女はいまいましげに首を振りながら、空中に薄膜のような地図を広げる。なんたる便利さだろうか。
『ここ、死んだ竜の住処を改造した王のシェルターを再利用した魔術師のトラップ・ダンジョンだ』
「うへえ」
『やる気!!』
「あるよ」
(おまえらとちがって)
これ以上機嫌を損ねさせる意味はまったくないので、いちおう後半のことばは心にのみこんだ。
胸がむかついてきた。こいつら異世界の住人は、いつだってふざけたことをする。魔物退治の救世主として、わざわざ非戦闘員の若者を平和な国から連れてゆく。志半ばで倒れたか、その世界を気に入って定住してしまうのか、生還者は数割といない──調査漏れを含めればもっと低確率になるだろう。まれに能力の高いものをしっかり選んで召喚していく世界もあるが、ほんのひと握りだ。
なぜか。
(真剣じゃないからだろうが……!)
たとえばこの地球なら、ほんとうに世界の命運をひとりの人物の双肩に委ねようと思ったとき、思いつきでそのへんのガキを選ぶわけがない。ただ、地球を救うためにどこかほかの世界の人間が必要となったとき、その人選がなりふりかまわなくなる可能性は高そうだ。
つまり、そういうことなのだ。
これをふざけていると言わずして、なんと言う。
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