運命の選択はもう戻れない!

ちびまるフォイ

多数派を選べるか!アタックちゃーんす!

『地球のみなさん、こんにちは』


唐突に頭の内側から声が聞こえた。


『あれ? マイク入ってる? あーあーマイクテスト。

 やっぱこれ入ってないんじゃない? 音響さーん!』


 もうはじまってます!


『あ、ごめんなさい、神です。

 ちょっと人間増えすぎたので淘汰します。

 これから多数決を毎日行っていきますからそのつもりで。

 詳しいことは、聞くより体験するほうが早いと思うのでそんな感じ』


なんだこの無責任すぎる神は。

7日で世界を作っただけの突貫工事を企てるだけはある。


神からの中継が終わると、掌に文字がにじんできた。


Q.選ぶならどっち?

右:好きなだけ、好きな場所で眠れる

左:好きなだけ、好きなものをタダで食べられる


※回答する方の手を強く握ってください


「食事……かな。眠らなくても大丈夫だけど

 食わないと1日ももたない気がするし」


左手をぎゅっと握ると、文字は『回答済み』へと変化した。


翌日の同じ時間帯に神の声がふたたび聞こえた。



『地球のみなさん、回答ありがとうございます。

 今回の多数派は"右手"となりました。

 眠れる方を選んだ皆さん、おめでとうございます。

 あなたたちが大多数の"正しい"方の選択をしました』


「え!? 食う方じゃないの!?」


多数決は自分の思わぬ結果が出たので信じられなかった。

結果を聞いてもなお、納得がいかない。


『少数派のみなさんは1日中、食事と睡眠はできません。

 ずっと少数派を選び続けたら衰弱して死にます。


 そうして、世界から少しづつ少数派を削って淘汰します。

 では、今日のお題はこちら!』



Q.選ぶならどっち?

右:自分の死ぬ日を決められる

左:自分の死に方を決められる


「これは……どっちだ……」


少数派を選べば、今日も食事と睡眠ができなくなる。

1回くらいならなんとかなるかもしれないが2日続くと危険だ。


自分の考えだけでなく周りの出しそうな結論も考えないと。


「死ぬ日を決められれば、長寿にすることもできるけど

 死に方を決められれば、この先の不慮の事故は防げる……。


 よし! これは死に方を選べる方が多数派だ!」


左手をぎゅっと握って回答済みにした。

その日は1日中多数決のことしか頭になかった。




『みなさん、ではお待ちかねの結果発表です。

 今回は……』


ごくり。お腹が鳴る。


『死に方を選ぶ人が多数派です! おめでとうございます!』


「よっしゃああ!!!」


あれほど当たり前にしていた睡眠と食事がとれるだけで

一生分の幸せが贈られたように嬉しかった。


『今回の投票では、無効票が多かったですね。

 投票しなかったり同時にふたつ投票しようとしたクズどもは

 みんなまとめて消したので、みなさんちゃんと投票お願いします』


「ひっ……! 危なかった……」


神は残虐な行為も軽快なノリで進めてしまう。

この神に逆らうことだけはやめよう。予告なく消されてしまう。


『では、次のお題です!』



Q.選ぶならどれ?

右:誰よりも優れた才能を手に入れる

左:誰にも使い切れない財産を手に入れる

両手:誰もがうらやましがる恋人を手に入れる


「うっ……ど、どれだ……」


今回はまさかの3択。

右手を左手を合わせれば、両手用の回答済みとなる。

ネットで情報を収集しても意見はバラバラでまとまりはない。


「町内会のみなさん! 左手に投票しましょう!

 我々は左手に投票しました! みんなで投票すればみんな幸せになります!」


町では選挙カーが走り大声で投票の誘導がはじまった。

たすきを付けた集団が通行人を捕まえては手を広げていく。


「お前、なに右手に投票してるんだ!!」


俺の手をつかまれて、腕がぐいと持ち上げられた。


「みなさん!! ここにいる少年は我々に反逆しました!! 裏切者です!!」


手のひらを見ていたほかの仲間がぎらりと俺を見た。

今にも獲物を狩るような、それでいて冷酷な色がある。


「ま、待ってください……! こ、これはちがうんです!

 そう! 間違って投票して……それで……」


「「「 少数派をやっつけろーー!! 」」」


"多数派を選ぶ会"のメンバーがバットを振り回して襲ってきた。

慌てて逃げると神の声が聞こえた。



『では、結果発表をはじめます! 今回の多数派は……

 "右手"の誰よりも優れた才能、です!!』



その声を聴いて全員の動きがとまった。


「そんな……我々は全員左手にしたのに……」

「神が結果を操作してるんだ!」

「インチキ神だ! 嘘の結果を出してるにちがいない!!」


まずい。神に逆らうようなことを言ってしまえば……。



『おや? 文句を言っている愚民どもがいるみたいですね。

 あなたがたに投票の結果やら数値を出してたしかだと証明するのは簡単ですが

 それを信じようとしなければ何を見せても意味はないでしょう。

 それくらい神なんだからわかります。


 よって、死刑』


明らかに最後の部分だけ急に飛躍していたが、

文句を言った人間が焼死したのでなにも言えなくなった。


『チームを組んで投票するのはけっこう。

 でも、あなた達の投票がいかにちっぽけで世界に散っている

 個人の力に負けることくらい把握してろよ、クソども。


 さて、視野の狭いアホはほうっておいて次の投票をはじめます』


もうこのころまでくると、神にさからう人もいなくなれば

この投票に文句をつける人間も世界にはいなくなった。

それが少数派だったから淘汰されたのかもしれない。


世界はこの投票を中心に回り始めている。



『では今朝の投票です。

 地デジ投票では、左手が優勢となっております』


『今回の投票について、論理学アドバイザーの

 コメンテータをお呼びしています。今回はどちらが正しい選択ですか?』


『世界にアンケートしたところ、なんと右手が80%をしめています

 なので右手に投票するのが間違いないでしょう』


テレビやSNSでは自分の考えを投票するというよりも

どちらが多数派かを予想したり誘導していた。


でも、その予想が毎回当たるわけでもないので

結局は個人の判断によるものが大きかった。


少数派を選んだ人間は食事もとらず、睡眠もできずに衰弱して消えていく。



『みなさん、だいぶ数が減りましたので重要な投票です。

 今後もこれを続けていくかどうかの多数決になります』



Q.選ぶならどっち?

右:多数決がある世界

左:多数決がない世界



『左手を選ばれれば、この世界から多数決は消えます。

 よってこういった多数決投票もなくなります。


 右手が選ばれれば、多数決を使うことができますが

 こういった神からの多数決も行います』


答えは明らかだった。

はじめて全人類の気持ちがひとつになる気がした。


翌日、結果が発表された。



『では投票結果を発表します。多かったのは~~……左手!!


 ということで、世界から多数決をなくします』



「やったぁぁぁ!! やったぞ!!」


ついに多数決から解放された。

それ以来、二度と神様が多数決をすることはなかった。


食事も睡眠も当たり前に取れる日常が戻って来た。

多数決を失ったがあきらかに見返りは大きい。


「やっぱりこの決断が正しかったんだな」


ニュースも連日連夜行われていた投票報道がなくなって、

ごく普通の国会の様子を報道し始めた。



『それでは、この法案に賛成の人は挙手……で決めることはできないので、

 じゃんけんで勝った人が決めるということで』


『なんだその結論は! くじ引きで決めろ!』

『それだと運まかせじゃないか! 支持率一番高い人が出す結論にしろ!』

『こうなったら力で勝負だ! ケンカが一番強い人の決断にしたがえ!』



多数決を失った世界は混沌を極めていた。

多数派を選んだ自分だったが、この結論が間違いだと今さら気が付いた。



「俺たちって……多数決以外の決め方用意してないじゃん……」

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