異世界人口爆発
「あなたは65537人目の転生者です……スキルを選ぶ前に話を聞いてください。童貞を殺す服に殺されて転生する童貞多すぎ!」
「どどどど童貞ちゃうわ!」
言いがかりをつけられた転生者は女神に抗議した。
「そもそも服を見ただけで殺されるはずがないだろ!死んだ覚えもないぞ!」
ただし、ついさっき服を見た覚えはあった。
「それは言葉の綾と言いますか……童貞を殺す服をみて砕けた魂の一部が毎度この世界に流れ込んで来るのです。あんまりです……」
女神はしくしくと泣き出す。
「泣きたいのはこっちだ!!」
自分の本体は無事に生きて鼻の下を伸ばしているらしいと転生者は察した。元の魂の中に戻れるのか?仮に戻れるなら女神は強制的に押し戻して悩みなどなかったことにするのではないか?
つまり……
「しかも性別が凄く偏っているんですよ。こんな転生を繰り返していたら、私の世界は男だらけになってしまいます」
六万人程度で大仰な……と転生者は思ってしまったけれど、人口希薄で移動も難しい社会では現代とはインパクトが違うのだった。しかも、女神の世界は破局噴火で人口が大量に減ったばかりのボトルネック状態だったから、なおさら転生者一人一人の影響は大きくなってしまう。
もう元の世界の文化的痕跡すら消されかねなくなっていた。
それもこれも童貞を殺す服のせいだ!
「それで……影響を与えないように一人で死ぬまで無人島に暮らせば良いのか?」
そんな生活ごめんだと思いつつも、転生者はお伺いを立てた。
「フフ……フフフフフ……」
メソメソ事情説明をしていた女神はゆらりと立ち上がった。そしておもむろに――
白い貫頭衣を脱ぎ捨てた。途中の状態がてるてる坊主みたいだった。
「な、何を……っ!?」
女神は顔を赤らめ身体を隠していた腕を下ろす。彼女がまとっているもの、それは間違いなく童貞を殺す女神の服だった。
「ぐはっ!?」
転生者の身体――この世界に送られてきた魂の一部――は文字通り砕け散った。砕け癖がついている衝撃に魂はまったく耐えられず、劈開方向に無数の亀裂が走った。
「スナァ……」
世界の狭間における死は完全なる消滅であり、その魂は転生の運命から逃れた。
「うう……転生者が来るたびに毎回これをするんですか」
童貞を殺す服なんてミームが早く無くなることを女神は祈らずにはいられなかった、自分が祈られる神なのに。
異世界暗黒小話 真名千 @sanasen
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