萬楡博士と転生トラックの陰謀
それはもはや作業だった。運転手に罪悪感などなくトラックを加速させ、標的を転生させる2.42事後ワットの運動エネルギーを叩きつけた。
ひかれた相手の姿は異世界に消えてしまうのだから、人を轢いた実感を覚えにくくても仕方のない面はある。
だが、それ以上に運転手は頭が狂っていた。
「ヒヒッ、今月三人目か……順調順調。ノルマ通りに進んでおるな」
衝撃シーンの目撃者から逃れて秘密の地下駐車場にたどり着いたトラックの運転席で、白衣の男は今月の「成果」を勘定していた。転生トラック開発時に支援を受けた関係で、こうして異世界に送った人間の数をきっちり報告しなければならないのだ。
優れた科学技術をもっているなら転生トラックを自動運転化できそうなものだが、萬楡博士にとっては肉眼で自分の発明がもたらす超常現象を観察することこそ至上の愉悦。あえて自らトラックのハンドルを握り続けているのであった。なお、体調が悪いときはお母さんに代わってもらう。
「しかし、ワタシにこんな仕事をさせてくれる連中もどうかしているねえ……ちゃんとリターンが得られる保証はないのに。やはり厄介払いできるだけで満足なのかな。まぁ、実は期待に応える結果にならなくても、ちゃんと計画通りリターンさせてみせるけど、ネ」
マッドサイエンティストは長々と独り言をつぶやき、地下駐車場の暗がりに視線を送った。高い運転席から降りて、そちらにコツコツと歩いていく。
彼と資金提供者の計画はおぞましいものだった。
社会不適合者としてリストアップされた標的――その中には資金提供者にとって都合の悪い人間が紛れ込んでいたかもしれない――をひいて異世界送りにし、この世から追い出してしまう。ここまでが計画の第一段階。
第二段階では異世界で自己肯定感を回復した(一部の)標的が吊り橋効果にまかせて作った子供たちを、この世界に呼び込んで人口問題解決の一助とする。
こんな計画に十分な資金が集まるのだから、この世こそ人心の異界である。
これは棄民であると同時に大量拉致だ。教育の失敗を異世界におしつけ、異世界から子供を育てたコストをこの世界に奪う。それでいて異世界を下に見ている。まったくもって身勝手きわまりない。
社会の改善に興味のない博士でも、資金提供者たちを異世界送りにしたほうがいい――いや、通常のトラックで轢いた方がいいのではないかと、たまに思ってしまう。
さて、この悪しき計画の第二段階を達成するためには、異世界から転生者の子供たちを再度転生させる方法が必要である。
そこで萬楡博士は転生トラックの成果から追加の資金を引き出し、問題の装置を開発中であった。
「それこそが――ッ」
博士がライトのスイッチをいれると、オーストラリアの露天掘り鉄鉱山で使われるような巨大なトラックがフラッシュする光に照らされた!
「この「転生トラックを轢いて転生させるトラック」だ!!!」
キンキンキンキン、ババーン!!
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