ヒューマンブリーダー
ラージグレープ新聞 聖暦1176年ウインド月11日の記事
・王国内に亜人間牧場!?他国の勇者に摘発さる!
聖暦1176年ウインド月4日、ダービー国王による邪悪な陰謀が他国から来た勇者によって露見した。なんと国王は世界各地からデミヒューマンを集め、魔王に対抗するための最強人種を人工的に創り出そうとしていたのである。国王が集めたデミヒューマンはダービー国内の森に住むエルフから、大半が魔王軍に与しているオークにまで及んだ。
集められたデミヒューマンたちは研究者側の都合で強制的な交配を強いられ、心に深い傷を負った。新しい世代には偏った教育しか与えられず、本来両親から受け継ぐアイデンティティは破壊し尽くされた。王国民である普通の人間すら研究に協力させられたとの情報も一部からは寄せられている。
研究では、まず世代交代を効率的におこなうため性成熟が早くなるようコボルトなどとの交配が行われた。これは大半のデミヒューマンにとっては寿命の短縮にもつながった――教育効果を得るためにエルフの血も交えて長寿命化させる方針であったが、優先順位は低かった。
一方、オークなどを使った多産化は最後の仕上げにする予定であったらしい。それでも基礎研究は行われていて、生まれた子供たちの扱いは実に酷いものであったと伝わる。
また、狼男と吸血鬼などお互いに憎み合い自然にはまず混血することのない組み合わせは未知のデータを得るため積極的に試みられたとのことだ。
もしも、国王の野望が成就すれば、彼が創出した新人類は爆発的に増え、魔王軍を滅ぼすに止まらず、最終的には現生人類も滅亡に追い込んだと考えられる。
しかし、国王は強大すぎる魔王軍に対抗する方法は他になかったとの自己弁護を展開している。
「人種改良」についても馬や犬などの家畜に対しては品種改良を行ってきたのに、デミヒューマンは不可とする線引きに倫理性はないと訴えた。実に恐ろしい主張であるが、ひたすら感情的に拒否することは危険であり、同様の悲劇を避けるためには、徹底的な議論が必要である。
なお、国王は自分の研究を止めたからには魔王を破る「現実的な」対案を出すよう、他国の勇者たちに要求したという。
生き残るためなら他者の権利をどこまでも侵害してよいのか、生き残ったとしても最終的には新人類に滅ぼされかねない手口に意味はあるのか。
魔王軍の圧倒的な力に思考力を奪われかねない今だからこそ、自分の胸に問いかける必要があるのではなかろうか。
「やはり、あの邪悪な連中は一刻も早く滅ぼすべきであるな」
魔王は情報収集のために手に入れた瓦版を机の上に投げ出した。
自分を生んだのと同じ実験を、また繰り返しているとは、本当に救いようがない連中だと思った。
ゆいいつ絶滅だけが自分が創造主どもに与えられる救いである。
人間の都合で去勢され、魔王を倒して用済みになったら殺されかけた現魔王の恨みはモホロビチッチ不連続面より深い。
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