異世界暗黒小話
真名千
転生者がトラックを轢いて転生させた話
習い事帰り、自転車の俺は家路を急いでいた。途中の公園を横断して向こうの道に飛び出せばショートカットになる。坂道で加速して車道に飛び出した俺は、目前に迫るトラックに目をみはった。
トラックの運転手はあわててブレーキを踏んだ。生活道に迷い込んでしまったあげくが、これだ。彼は自分の不運を呪ったが、想像していたのとは異なる不運が訪れた。
自転車が横倒しになって車体の下に滑り込んだと見えた瞬間、下から突き上げる衝撃が走った。
「ふう、4トンだから勝てたぜ……って、やりすぎた!!」
俺はあわててアビリティで吹き飛ばしたトラックを見上げた。見上げたはずがトラックは綺麗さっぱり消え失せていた?
「幻覚のアビリティで攻撃されたのか……?」
疑心暗鬼に狩られた俺は一週間ほど存在しない敵を警戒して過ごした。
トラック運転手はカメラのISO調整を間違えたんじゃないかと思えるくらい白い部屋で目を覚ました。
「気が付いたか」
白いローブをまとった老人が運転手の顔をのぞき込んでいた。
「ここは……これは、俺のトラック!?」
病室にしては広すぎる部屋には、トラックまでもが鎮座していた。
「うむ。お前さんは転生者に轢かれたんだ。災難だったな」
「転生者?」
「事情があって異世界に生まれ変わった者のことだ。ま、我が転生させてやったわけで、そやつのしでかしたことには我にも責任がある。そこでお前さんも転生させてやることにした」
「??」
運転手が混乱している間に、老人は転生先の世界を決めてしまった。詳しい説明もなく、トラックを「特典」としてもたされた運転手は異世界に送り込まれた。
責任感があるんだかないんだか。老人によって突然、中世風世界の広場に出現させられたトラックに異世界の住民は騒然となった。
自警団に武器を向けられ、冷や汗たらたらで事情を説明した運転手はともかくトラックを広場の隅に移動させた。
その操作を悪ガキに見られているとも知らず。
ともかく一日目の宿を確保した運転手は、親切な宿屋のおやじが提供する異世界の酒に泥酔してしまった。「さっさと寝ろ」とおやじに叱られながら足下を駆け回る悪ガキが鍵をくすねたことにも気付かなかった。
鍵さえ手に入れば、さっそくトラックの運転である。
「動けー」
「乗せてー!」
「こーい!!」
ペダルを踏む係とハンドルやレバーをいじる係、二人の悪ガキに無茶苦茶な操作をされたトラックは急発進した。その危険性を理解していない悪ガキに向けて――
「ゔっ!?」
悪ガキが目覚めたのも白すぎる部屋だった。頬杖をついて彼が起きるのを待っていた老人は嘆いた。
「やれやれ。転生者のせいで生まれた転生者が、転生者を生みおった。どこまで責任を取ればいいのかな……それにしてもお前さん、トラックのある世界でトラックに轢かれて転生した奴はハンバーグにこねるほどいるが、トラックのない世界でトラックに轢かれて転生するのはお前さんが初めてだぞ?」
言われた悪ガキにはそれが喜ぶべきことなのか全然わからなかった。
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