「魔王」取り調べで囁く者(3)
優妃は一区切り置くと、後を付け足す。
「上納金は、あくまでも、検挙して拘束する
優妃は静かに被疑者を見据え、話を続けた。
「清原組は犯罪を隠すのが上手く、今まで警察が家宅捜索しても証拠が得られませんでした。用心棒の田代や不動産屋の押尾が詐欺に付いて、清原組の関与を認めた為、得た供述を新たな突破口に、警察も犯罪を"突き詰めて"行きます」
優妃は息を整え、両手を机の前で合わせると、仕切り直し続ける。
「大規模な摘発になります。清原組の構成員も逮捕され、それにより、この指定暴力団、清原組は《壊滅》に追い込まれます。清原組の壊滅が、あなたが作った詐欺グループが”きっかけ”だと知れば、あなたは壊滅した暴力団から、どういう仕打ちを受けるか?」
被疑者、口野は机の端を掴み手で掴み、抗議する。
「お、脅してるのか? 大体、俺が元でヤクザ潰れるんなら、警察で保護してくれるだろ?」
「現状、あなたは詐欺グループの《末端》です。捜査当局も末端に時間を割くほど、暇ではありません。あなたは刑務所には行くことになりますが、短い刑期で釈放されるでしょう。良かったですね」
「ふざけるな! その後は、どうなるんだよ!? ヤクザに殺されるかもしれないだろ!」
「警察が暴力団の構成員を、一人残らず逮捕してくれることを祈りましょう」
抱擁する女神のような笑顔を見せた彼女は、さらなる現実を突きつける。
「とはいえ、壊滅した清原組の構成員も、同じ刑務所へ行くでしょう。もしかしたら、
毒を持って毒を制するとはよく言うが、口野を震え上がらせるのが司法機関ではなく、暴力団とは嘆かわしい。
暴力団と直に渡り合った口野からすれば、その存在は
その凶悪さを垣間見えたことで、彼の頭で粗暴の妄想だけが、膨らんでいたに違いない。
顔面蒼白の青年は頭を抱え、眼鏡のフレームが歪んでしまうほど、力を込めて顔を押さえる。
そして取り憑かれたように「噓だ、完璧だったのに」や「殺される」と一心不乱につぶやく。
優妃は迷える青年に手を差し伸べる。
「そこで、相談です。
怯える口野はこちらに目を向ける。
「あなたは、この後、検察庁に移送されます。そこで、あなたが選ぶ選択は二つ。グループの末端として裁判を受けて、短い刑期で自由の身になるか……まぁ、暴力団の報復の事実は
優妃は、交渉相手の様子をうかがい、続けた。
「それか、あなたが検察に"自らをリーダーだと認める"供述をして下さい。そして、あなたが関わった犯罪を、洗いざらい自供して下さい。そうすれば、余罪を追及されている間は、あなたの身柄は保証されます」
渡りに舟。
迷える青年は女神に出会えたかのように、目を輝かせる。
「これは、司法取引とは違う、
口野は目を伏せて机に向かって、再び呟き始める。
彼女の差し伸べる手を取るか、自身の中で是非を問ている。
すると、優妃は滝馬室からメガホンで耳打ちされた。
彼女は腕をかざして、わざと腕時計で時間を確認するパフォーマンスを見せた。
――――午後、四時五十四分。
「もう、時間がありません。一〇秒で決めて下さい。九、八、七、六」
急迫する時間に追い立てられるように、被疑者の口野は目を見開き、何かを叫ぼうとするが、まるで声帯を失ったかのように声がかすれる。
そして女刑事の秒読みは無情にも続く。
「五、四、三……」「わかった!」
ようやく発した言葉で、口野は慌て秒読みを遮ると、唇を強く結ぶ。
彼の表情は納得いかないと申し立てるが、その口から出た言葉は、表情と裏腹だった。
「…………言うとおりにするよ」
彼女は、ここで少し意地悪をする。
「ありがとうございます。なるべく、証言は引き延ばした方が良いですね? その分、身の安全が続くので」
それは刑の確定を引き延ばすことに繋がる。
当面、堀の外へ出ることが出来ないことに等しかった。
詐欺犯のリーダー、口野は机に頭を打ち付けて唸る。
この結果に唖然としたのは、当の詐欺犯を追い詰めた天野・優妃自身だった。
彼女は打ち負かした被疑者を改めて見ると、思い出したように息継ぎをした。
そして滝馬室と目を合わせ、計画通りに事が進み上司が笑みを見せると、この功績は現実の物とて噛みしめ、彼女も思わず笑みで返す。
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