リマインド=ナンバーの帝王(2)

 滝馬室は、これ以上の詮索を拒む為、優妃を叱りつけるように言う。


「君の熱血漢と、ひた向きに事実を追う姿勢は買っている。だけどな、深く掘り下げることが世の中の為になるとは限らない。すでに経験積みだろ? 警察の虚栄に声を上げたから、代理店ここに飛ばされた」


 痛いところを突かれ、彼女は眉を潜めた。

 優妃を黙らせるには、丁度いいと思い彼は念を押す。


「どうしても警視庁に戻りたいなら、大人しくしてろ。我慢してれば、異動時期には、俺が戻れるよう推薦する……次、やらかしたら、クビになるかもしないんだぞ?」


 問い掛ける熱血女刑事は重い口を開き、悔しそうに弁明する。

 

「タキさん……滝馬室”警部”は、それでいいんですか? 昔は警視庁でも一目置かれた存在だったのに、成り行きを見守るだけですか? 私と同じ刑事ですよね?」


 階級を呼称することで、相手に責任ある立場を認識させ、使命感をくすぶる。

 妙な知恵を巡らすな。


 今の滝馬室には効果があった。

 彼は引け目を感じ優妃から目を伏せると、諦めるように返す。


「今の俺は……刑事じゃないから」


 間髪を入れず、再び質問が来る。

 

「刑事だからとか、警察の面子とかじゃなく、一人の人間として、犯罪を見過ごせるんですか?」


 そう来るか。

 次は俺の人間性に訴え掛ける作戦か?


 彼女の言葉に熱が入る。


「私達は警察の身分を凍結されています。警察官として、出来ることは限られている。だからって、人として何も出来ないわけではありません――――組織に縛られない行動が起こせるんじゃないですか?」

 

 滝馬室は優妃の一点の曇りもない、眼差しを見られず、宙を仰ぎ見て誤魔化そうする。

 

 彼女は続ける。

 

「過去に何があったかは知りませんし、聞く気もありません! ですが、地取りをして、被害者から直接、泣き寝入りの声を聞いたじゃないですか? 今、私達の届く範囲で、悔しい思いをしている人達がいるんです。私は奪うだけの人間達を許せません!」

 

 沈黙が、空気を重くした。

 そんなよどみを、優妃は撥ね付けるかのごとく雄弁に語る。

 

「タキさんが無理なら、私だけでも警視庁に行きます」

 

 優妃の決意を聞いた滝馬室は、水を差すように厳しい口調で聞く。

 

「君が行ったところで、何が出来るんだ?」

 

 彼女は躊躇ためらいがちに返す。

 

「だから――――教えて下さい。何をすればいいですか?」


 滝馬室は呆れて溜め息を付く。

 

 困った女だ。

 後先考えず、出たとこ勝負で物ごとを判断している。

 子供の頃から教えられ、信じてきた正義を胸に、白黒ハッキリさせようと、ひたすら突き進む。

 歩みを止めて、考え直そうとすらしない。

 まるで、昔の自分を見ているようだ。

 新人の警官よりも危なっかしい。

 とても、一人・・で行かせられない。

 

「君みたいに何の考えも無しに、突っ走る人間はダメだろうね」

 

「はぁ!?」

 

 滝馬室は、自分に言い聞かせるように頷き、先を続ける。

 

「――――俺も行くよ」

 

 その言葉を聞いた女刑事は、素っ頓狂とんきょうな顔で見つめる。 

 一瞬何を言われたのか解らなかったようだ。

 その後で、表情は和らぎ安堵から笑みが溢れた。

 彼女は、これから主戦場を共にする味方を急かす。


「ぼやぼやしてないで、行きますよ? まだ五時まで時間がありますから」


 屋上の扉を開け中に入ると、滝馬室もそれに続いた。

 老朽化した木製の階段に足を乗せると、ぎしぎしと不安定な音を立てるが、そんなことは気にとめず、二人は早足で下って行く。

 階段を下りながら、滝馬室は彼女を茶化した。

 

「”組織に縛られない行動が起こせる”って、そんなこと言う人、初めて見たよ。昔の刑事ドラマでありそうなセリフだな?」

 

 優妃はそれを聞く、耳が紅く染まり、恥ずかしがっているのが見て取れた。

 彼女は口を尖らせながら反論する。

 

「い、いいじゃないですか! だいたい、タキさん。刑事ドラマは嫌いなんですよね?」

 

 滝馬室は気恥ずかしそうに答える。

 

「これでも昔は、よく見てたんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る