これにて、一件落着?
彼の右側でひっそり存在していた、ミズーリの会計担当こと眼鏡のインテリ、加賀美巡査部長が、珍しく疑問をぶつける。
経理を担当する加賀美からすれば、犯罪集団の資金管理は、興味深いのかもしれない。
加賀美は見た目に変動は無いが、明らかに、好奇心を掻き立てられたことが解った。
「詐欺グループの逮捕と同時に、銀行口座が凍結されたとありましたが、やはり押尾の仕業ですか?」
『あぁ、そうだ。滝馬室と、そこのお嬢さんが聞き込みへ行く前に、
「押尾が不正な金を牛耳ている、そう見るのが妥当でしょう」
優妃は気が早り、前のめりになりながら問う。
「では、不動産屋の【押尾】が、
その問いに、画面に映る諏訪警部補の顔が曇る。
『それが、そうも行かなくてな。別のファイルを見ろ』
滝馬室はマウスを動かし、指示されたファイルを開く。
ファイルは先程の被疑者、押尾の取り調べを記録した画像の続きだった。
詐欺で得た資金について、供述している様子が映る。
『リーダーさんのパシリやってる子がいて、その子が私とグループとヤクザ屋さんとの連絡役もしてるんですよ。もっぱら彼からリーダーさんの伝言を受けていたので』
『銀行口座の凍結も、その彼から?』と取調官。
『えぇ。近いうちにグループにガサが入るから、口座から金を移してほしいって。もちろん、リーダーさんからの伝言ですよ』
『あなたはリーダーと、顔を合わせたことはありますか?』
『ありませんね。パシリの子から聞いた話だと、荒稼ぎしてる暴力団の人としか。まぁ、口止め料も込みで、配当の金は高額だったから、私は気にしませんでしたけど。下手に首突っ込むと、どんな痛い目見るか、わかりませんよ』
画像はそこで終わる。
諏訪警部補は厳しい表情を見せて語る。
『押尾は口座の凍結も”指示”を受けてやったと、供述している。自分は詐欺グループと暴力団の仲介役だけしかやっていないと』
優妃の声から緊張が伝わる。
「新たなリーダーの存在が浮上したのですね?」
『そうだ。本庁では押尾と清原組の繋がりを、徹底して洗い出すつもりだ。当面、そこがメインの捜査になる』
先輩刑事の言葉は、滝馬室にとって不吉だった。
彼はおそるそる聞いた。
「と、言うことは――――――――”司法取引”ですか?」
『あぁ。再度、半グレの末端連中と駆け引きして、裏を取る』
「振り出しに戻った」彼は言葉にため息を乗せる。
『そうでもないさ。お前達はよくやった、仕事はここまでだ。捜査に進展がありそうな情報を思い出した時、連絡して来い。それ以外は元の業務に戻っていいぞ』
滝馬室は、これが最後と思い腹に力を入れ、ドスを利かせ挨拶する。
「お疲れさんでした!」
そこで諏訪警部補との交信は終わった。
話が終わるなり、側で女刑事、優妃の怒声がラッパのように社内に響く。
「社長! まだ事件は終わってません!?」
「俺に言うなよ! 諏訪さんがここまでだって言ったんだから?」
部下の声量に抵抗を示すと、話を継ぎ足す。
「そもそも、本当にリーダーは存在するのかな?」
「だったら、私達は”誰”を追っていたんですか? これまでの苦労は……何だったんですか……」
彼女はぶっきらぼうに言うが、言葉には悔しさが滲み出ていた。
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