マネー・ロンダリング
滝馬室は世間話へ加わるように、言葉を入れる。
「凄いな。不動産屋の立場から、複数の犯罪集団を取りまとめるなんて。ここに来て大物が釣れた感じだなぁ……思えば、バカラにカッシーナにロレックス。羽振りが良いはずだ」
『それだけではない。物件を紹介した詐欺グループや暴力団など、不正に得た金は、この押尾に"流れて"いた』
滝馬室が一言挟む
「まぁ、そうでしょうねぇ。不動産屋なので、敷金礼金として払ってたでしょうから」
真剣に話を聞く優妃が、滝馬室が入れた茶々を、うっとうしく思い肘で軽く小突くと、彼は押し黙る。
が、この余計な一言は思いのほか、的を得ていた。
諏訪警部補は概要を解説した。
『あぁ、その敷金礼金が問題でな? 詐欺グループに部屋を貸し付けて、グループが不動産屋に礼金を支払う。すると、不動産屋は礼金の一部を、キャッシュバック・キャンペーンとして、詐欺グループに払い戻すんだ』
滝馬室は画面に映る、先輩刑事の言葉が冗談なのか、懐疑的になり聞く。
「諏訪さん……ふざけてます?」
諏訪警部補は鼻で笑いながら答える。
『バカヤロウ、俺は至って真面目だ。そのキャッシュバック・キャンペーンで払い戻された金は、記録上、不動産屋の利益で一部を
女刑事、優妃が気付き、話の行く先を導いた。
「”マネー・ロンダリング”……つまり、押尾不動産は、詐欺で得た不正な金を、合法的な金に変える”資金洗浄”のプール(溜まり場)だったわけですね?」
滝馬室は納得がいかず、苦言を呈す。
「いやぁ、毎回、利益の一部を還元してたら、おかしいでしょ? 税務調査で不自然な記録が残る」
諏訪警部補は、その言葉を待っていたように、切り返す。
『キャッシュバックは一部だ。他にも、詐欺で得た札束を、印刷ミスによる無価値なクズ札として、ネットオークションに出し売っていた』
優妃が首傾げると、頬にかかる髪が揺らぐ。
「何故、そのような意味不明な行為を?」
『詐欺グループの仲間に、札束を百円で落札させるのさ』
滝馬室は顎を撫でながら思案した後、その本質に気付いて、考察を述べた。
「なるほどなぁ……銀行に振り込まれた金を引き出して、ネットオークションに出品。ギフト券やプライベートな品として購入すれば、振り込まれた金の記録は途絶える。オークションを介すことで資金洗浄を行うわけかぁ……」
上司の答えに、優妃は関心し短く声を漏らした。
諏訪警部補は更に続ける。
『まだあるぞ? 不正に稼いだ金を"仮想通貨"に変えて、金の出所をリセットした上で、証券取引所で現金に戻す』
優妃が、ある事柄を思い出す。
「拠点の情報を聞きに言った際、不動産屋の押尾が《仮想通貨でも儲けてる》と言っていましたけど、こういう裏があったんですね」
滝馬室が呆れるように言う。
「笑いが止まらないはずだ。詐欺で儲けた金で贅沢三昧。とんでもない狸オヤジだ」
彼の脳裏に不動産屋、押尾の高笑いが蘇った。
映像の諏訪警部補は、口元を少々緩ませる。
彼にとって次に出す情報は、話の山場のようだ。
『極めつけが、無人島の湧き水を飲料水にして、輸出する会社があるんだが、そこに不正な金を送金して、海外経由で詐欺グループに金が流れていた。そこは押尾不動産が作ったペーパーカンパニーで、名前はMNKインターナショナル』
滝馬室は、神に見放されたとばかりに、諦めの声を発する。
「あ~あ、繋がっちゃったよ! 詐欺グループが、振り込み詐欺で名乗っていた社名だ」
その後で言葉を漏らした。
「昔から、金を牛耳る奴が実権を握る……押尾不動産は、まさに詐欺の総合商社だな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます