マインドマップ=組織の全貌

 大きな円の周りをシャボン玉のような小さな円が囲み、円と円の間は矢印が細かく行ききし、それぞれの円には【田代】【役者】【押尾】【清原組】【益戸、小向】と書かれている。

 そして、中心に置かれた大きな円には【口野】と書かれていた。







  【役者】  【押尾】  

    ↘↖  ↗↙

【田代】⇆【口野】⇆【清原組】  

       ⇅  

    【益戸、小向】


【⇅⇆】それぞれの指示と資金の回収

        






 優妃はあたかも自分が発したように、滝馬室の言葉を借りる。


「――――金を牛耳る奴が実権を握る――――不正に得た資金の会計を担うことで、あなたは詐欺グループの主導権を握った」


 彼女は滝馬室の助言に頼ることなく続ける。


「《マインドマップ》。海外の企業などが、アイディアの整理に用いる手法です。これを《組織構成》に使うのは珍しいケースですね? 図式にするとわかりますが、不正に得た資金は、あなたへ集中するようになっています」


 被疑者、口野の切れ目と、こちらの視線が合う。

 眼鏡の奥から除く刺すように睨み付ける。

 これまで感情の起伏が読み取れなかったが、ここに来て変化が芽生えたようだった。

 

 どぉうだぁ? あんたにとって、以外だったはずだ! ここまでたどり着い刑事がいることに。


 優妃は少し得意気になり、弾みが付きそうな声を抑え、平静を装う。


「中心を囲む円は、それぞれの犯罪集団や犯罪に関わった人間。そして中心にある円はパイプ役として機能し、資金や情報の流れをコントロールしています」


 彼女へ助言が下る。 

 滝馬室が即席メガホンで耳打ちをすると、優妃は解説を続けた。


「それにより、個々の集団はバラバラでも、一つの《グループ》として統制されるわけです。しかも利点として、この囲む円は《一つ一つを切り離す》ことができ、問題が起きても中心にいる"人物への害"を、最小限に抑えることが出来ます。しかも……」


 優妃は指で、周囲の円をなぞり外周させる。


「それぞれがグループのリーダーと言うことで、証言のループが起きています。これが警察の捜査を混乱させ、円の中にいるあなただけが、全ての集団から切り離されます」


 【口野】と書かれた、マインドマップの中心に指を置き続ける。


「トカゲの尻尾どころか足も手も、胴体さえ切り落として、頭さえ残れば再び身体が生えてくる。まるで、あなたの《利己主義》そのものを表しているようですね?」

 

 滝馬室が丸めたノートを使い、再び優妃に耳打ち伝達を聞いた後、彼女は続ける。

 

「勿論、《司法取引》も視野に入れての事でしょう。司法取引に応じれば、《罪は減刑》されます。そうすることで、刑務所に入っても、短い刑期で出所することが出来る」 

 

 話に一区切り付けると、今度は優妃の方から耳を突き出して、指示を乞う。

 滝馬室が伝えると、彼女は再び始める。

 

「《替え玉》の田代や押尾が罪をかぶり刑務所に入れば、一連の詐欺グループの荒稼ぎは、警察や世間の目から遠ざかる。減刑されたあなたが出所するころには、詐欺グループの《ほとぼり》は冷めている。そうすれば"再び詐欺を行為"を始められます。元々、チンピラを寄せ集めたグループだから、組織を建て直すのは、難しいくないはずです」

 

 優妃が独自の見解を述べる。 

 

「それが、あなたの"狙い"ですね? 初犯でも詐欺を指示した人物なら、実刑で最長十年もあり得る……誰だってごめんです」 


 こちらを射竦いすくめる被疑者は、静かに口を開いた。 

 

「僕が……」


 口野は机の隅に目線を飛ばしてから、こちらを見た。

 カメラに気を使わなくていいと悟ると、言い換えて話を続ける。

 

「俺がリーダーだって言う証拠はあるんですか?」


「それは勿論、ある……はず……?」

 

 優妃はこの切り返しを、上司は想定して隠し玉があると思いこんでいたが、当の司令塔たる滝馬室は、困惑の表情を見せた。

 次の指示が途絶える――――。


 何、黙ってんのよ?

 早く証拠を突きつけなさいよ?

 まさか――――証拠は無い!?

 ここまで焚き付けといて、証拠はありませんでした、じゃ、済まないわ。

 この昼行灯ひるあんどんは、土壇場でひよって。

 どうすんのよ!

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