イニシアチブ2=帝王学(3)
被疑者こと詐欺グループの末端、口野は目線を反らしたまま、反応が無い。
そう簡単に尻尾を見せないか――――。
滝馬室も、その様子を確認すると、即席メガホンで次の指示を伝える。
優妃は代わりに述べる。
「詐欺の拠点としていたマンションで、まず用心棒の【田代】が、あなたに目線を向ける、これはグループの参謀に"指示"を求めていた。あなたが目線を返すと田代は、雑用を担当する【小向】に顎をしゃくり、ドアを開けるよう指示した。しかしながら、血の気の多い手下はコントロールが利かず、その後、捜査員が踏み込むと暴れ回ってしまいましたが……」
優妃は机の端を掴み、前のめりになると、口野の眼鏡に潜む切れ目を除きこむ。
「家宅捜索で、ずっと気になっていた事があります。《待て》あの時、どこからともなく聞こえた静止する投げかけ。捜査員側としては、あなた達を一切に検挙したいという目論見がありました。なら、捜査員が発した言葉ではない、詐欺犯の方……つまり”司令塔”である、あなたが詐欺犯達に発した言葉です」
次の指示が途絶えたので、優妃は被疑者から目を反らして滝馬室を
警部である上司は、優妃が犯罪者に詰め寄る威圧感に圧倒され、おののいていた。
何を引いてるんだ、この男はぁ〜。
部下の優妃が顎を振り指示を仰ぐと、滝馬室は慌てて即席メガホンで耳打ち。
彼女は伝達内容を話す。
「ここから少し長いくなりますが……半グレの末端二人の証言からも、あなたがリーダーだという兆しがあります。あのモヒカン、ではなく【益戸】からすれば田代は”族時代のリーダー”ですが、小向からしたら、詐欺を計画してグループに指示を出し、得た金を管理、洗浄するバイプレーヤーのあなたのほうが、田代よりもリーダーだと言えます」
優妃が椅子の背もたれに背を預けた所で、滝馬室が指示を追加。
その通りに彼女は伝達する。
「田代は取り調べで、自身がリーダーにされ、罪が加重されそうになると知り、あなたが用意した≪架空のリーダー≫を証言します。それが【小劇団の役者】と知らずに罪をなすりつけようとした……詐欺の拠点の近くに≪カフェ≫がありまして、その店員がその役者を覚えていました……ただ、連れの客までは覚えていなかったようです。なぜなら――――偽のリーダーの印象に存在をかき消されてしまったからです」
被疑者、口野は以前として目を合わせない。
滝馬室が耳打ち、優妃が話すという流れか続く。
「それもあなた。道玄坂のカフェで、リーダーにすり替えた役者と詐欺の拠点へ行く前に、段取りを≪レクチャー≫していたんですよね? 役者が身に着けていた、高級スーツや偽物だった≪金の腕時計≫は、他人の目をそらす”小道具”。この役者に至っても同様、紹介された不動産屋、押尾をビジネスの代表と吹き込んだのでしょう。それを信用した彼は、危難を避ける為に押尾をリーダーと証言した」
優妃は右頬にかかる髪、をかき分けて付け足す。
「そして不動産屋の押尾が証言した≪パシリ≫とは、末端の半グレではなく、受け子を装い、せっせと資金を集めグループ全体に配当金を回し、あたかも架空のリーダーの腹心を演じた、あなたのことを言ったのです。口野さん……これだけバラバラの集団を、どうやって統制下に置いたのか?」
被疑者、口野は黙りこくる。
「答えは簡単――――報酬です……個々のグループはそれぞれ多額の金という共通の”目的”で繋げています。作業は別々でも、こなしていけば皆、同じ結果に辿りつく。押尾は暴力団相手に不動産業をしていたので、捜査は清原組に飛び火します。警察からしたら≪手を焼いているヤクザを逮捕≫する絶好の機会だった。当然、警察の目は小魚を餌に、大魚が釣れたと言わんばかりに網を持って飛びつく」
優妃は次第に滝馬室の指示を受けずに語る。
「警察の捜査が進めば進む程、真のリーダーから遠ざかって行くわけです。何より、当の黒幕は警察の知らぬ間に捕まっているのですから、灯台元暗しとはよく言ったものです。そもそも、警察を含めた捜査機関は捜査の視点を見誤っていましまた」
「グループのリーダーの上にリーダーがいる。その上にリーダーが存在するなら、詐欺グループは≪ヒエラルキー≫のように階層構造になっている……リーダーの上、そのまた上を炙り出せば、いつかピラミッドの頂上に辿りつくと思ってました……警察組織は階級社会です。思い込むのも仕方がありません。でも、こうするとグループの形態がスッキリして、全貌が見えてくるのです」
優妃はスーツの内ポケットから手帳を取り出し、口野に見せる。
女刑事が予め書き留めたメモ。
その内容は――――――――。
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