水清ければ魚棲まず(2)
そういえば、どこかの評論家が言っていたな————”水清ければ魚棲まず”
餌となるプランクトンがなければ、その水域には魚は住み着かないという意味だ。
比喩として要いられ【人間には暴力に向かう傾向が多少ともあるという事実、その傾向の強い者たちが社会に一定程度いるという事実は消去することができない。
そういう者たちを囲い込んで、彼らに一定の秩序を与えるのが暴力団の一つの存在理由であった】というものだ。
暴論かもしれないが、逃れようのない人間の本質を射る論評だ。
考えついでに、滝馬室は思うことがある。
「一定の構成員に特有の前科がある」は別として、
「組織の威力を使って資金を獲得している」
「階層的に組織を構成している」
と言う項目は、全国の警察組織にも当てはまるのではないか?
と、警察とは別の視点に置かれた身としては、妙な考えを巡らせてしまう。
諏訪警部補は声をいからせて続ける。
『この機に乗じて、警視庁は清原組を上げたい(逮捕)ようだ。”捜査四課”も協力する――――これはデカい
滝馬室は他人事のように言った。
「”マル暴”も、張り切ってるんだろうなぁ」
マル暴とは、暴力団を専門とする、警察部門の隠語。
各、都道府県本部で、その名称は異なり、”組織犯罪対策課”と言う時もあれば、”暴力団対策課”と、異なる。
警視庁では、”捜査四課”が該当部門だ。
『被疑者のスマホに、代表と呼ばれる人物の写真があった。データを送るから、探してほしい』
滝馬室は頼りない声で返す。
「ですが、諏訪さん。
四十八時間のことを指している。
諏訪警部補はこちらに顎をしゃくる。
『お前は嫌々だろうが、隣のお嬢さんは、やってくれそうな顔しているぞ?』
言われて、左手に立つ優妃を見ると、その目は
滝馬室には、その輝きは眩し過ぎて、身体が溶けてしまいそうなくらいの熱気を感じた。
諏訪警部補は、テレビ電話を切る前に”代理店”の面々に一言残す。
『この件が片付いたら、お前達を本庁に引き上げやってもいいぞ?』
優妃が玉のような、猫目を輝かせ食いつく。
「本当ですか!? 頑張ります!」
『期待してるぞ』
諏訪警部補がテレビ電話を切ると、優妃は、緩んだ頬が落ちないように両手で支える。
そんな彼女に、滝馬室は怪訝な表情を作り、上司として一言忠告した。
「優妃さん。あまり諏訪さんの言うこと、信用しない方がいいよ?」
彼女は、目をナイフのように鋭く尖らせ、冷たくあしらう。
「では、
滝馬室は彼女の嫌味に、苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る。
優妃は、張りのある頬を引き締め、滝馬室に返した。
「タイムリミットは”四十八時間”。社長、聞き込みに行きますよ?」
滝馬室は声を低くし、不満そうに返す。
「断る……と、行っても、お
滝馬室は、一息入れてから不満を口にした。
「にしても、詐欺の活動拠点を突き止めるのに、二週間かかった。なのに”リーダー”を
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