水清ければ魚棲まず(1)

 日本国憲法・第二十一条には「結社の自由」というのが条項されている。


 戦後に改稿された、この項目には、誰しも自由に団体、または組織を結成することができ、誰しも加入、脱退が許されるという物だ。


 この憲法により、宗教、法人は勿論。

 暴力団も法的に保証されているため、原則として国家権力も、これに対し異論、または排除行動は行ってはならない。


 俗に言うヤクザとは、社会における紛争の解決。

 祭りなどの行事で起きる、縄張り争いやトラブルの解決や企業の弱みにつけ込み、金銭をだまし取ろうとする輩を遠ざけるなど。

 警察が介入しづらい、民事絡みや事件が起きる前の問題を解決する、用心棒を買って出ていた。


 しかし、見返りを要求していた習慣が悪質化し、押し付けがましいトラブルの解決に託けて、相手に金銭を要求したり騙し取るなどで、活動資金を得ていた。

 次第にその行いがエスカレートしていき、詐欺や麻薬などに手を染め、凶悪な犯罪集団に成長した。

 一般人へ危害を加えるなどの悪質性は、目をつむることは出来にないレベルに来ている。

 

 当然、警察は社会悪たる暴力団を、見過ごす訳には行かなかった。

 彼ら、暴力団の明らかな犯罪行為を検挙はするものの、強大になった犯罪集団の撲滅には繋がらなかった。

 

 何より「結社の自由」が行政組織の介入を阻んだ。

   

 その為、犯罪集団の撲滅を唱う、法的機関は深入り出来ず、表面上の取り締まりを強化することが、やっとだった。

 暴虐に振る舞い、拡大して行く暴力団。

 壊滅に追い込む、決め手を掴めないでいる警察。

 

 だが、二〇〇九年に転機が訪れる――――――――。


 ”暴力団排除条例”だ。

 

 「暴排除例」によれば、暴力団を名乗る者による、金銭の貸し借り。

 土地の貸し借りなど。

 上げれば切りがないが、活動に繋がる行為を禁じている。

 

 ヤクザは一般人が必要な生計を、暴力団というくくりの為、認められないのだ。

 

 それだけではない。

 「指定暴力団」と聞くと、名を連ねる暴力団の並びにより、一般のイメージでは、非常に危険でマフィアやギャングの凶悪さを連想させる。

 

 だが、この”指定”というくくりが、暴力団関係者からは、非常に厄介で、彼らの自由を奪う足かせである。

 

 暴力団対策法第三条に定める、要件全三号には。

 「組織の威力を使って資金を獲得している」

 「一定の構成員に特有の前科がある」

 「階層的に組織を構成している」

 以上の項目に該当する暴力団を、当該団体関係者からの聴聞を経た上で「その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい」と指定でき、対象団体は「指定暴力団」となる。

 

 単純に説明すれば、自ら”ヤクザ”と名乗る人物を、通報出来ると言うことだ。

 

 何とも、生えない話だ。

 大昔のように、取り巻きを連れて、威張りくさちながら道を歩き、「どこどこ組の、なにがし様のお通りだ」と触れて回り、通行人をよけさせれば、そく警察に連行される。

 

 「暴排除例」が社会に与えた影響力は大きい。

 

 何せ「ヤクザは大金を得るチャンスがある」と踏んで入った組員が「ヤクザじゃ生活出来ない」と言い、所属する組を抜けて行く始末だ。


 現代の行政機関は、かつてより、因縁深い暴力集団と、徹底的にやり合う姿勢を見せた。


 しかし、夜行性の動物が光を当てられれば、当然、外に出るのを嫌う。


 暴排除例により暴力団は名を伏せ、表向きは一般人を装い、起業し、他の雇用者とたがわぬように働く事で、あたかもカメレオンのように社会へ溶け込んだ。

 

 その実、街でモデルやタレントのスカウトで、一般人が事務所に付いて行くと、概要が掴めない契約書を書かされ、後になって、そこはヤクザの事務所だったという話は聞く。

 

 昔は、ヤクザの方から、見つけてくれと言わんばかりに、名乗り出ていたが、今では見つけるのも一苦労。

 

 近代における暴力団は、より狡猾こうかつになり、警察との知恵比べとなった。

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