「ワルキューレ」家宅捜索騎兵隊(8)

 金髪の黒ジャージ男は動いた。

 小柄な女を確実に破壊する為、目は、常に彼女を捉える。

 金属バットの猛威が優妃を襲う。


 スーツの女刑事は足を一歩踏み出し、上半身を前に動かすと、鉄の棒を突き出し、浅く振る。


 鉄の棒は金属バットを通り超す。


 優妃の狙いは、バットを持つ手。

 その為に、前途の歩調合わせを行い、距離感を確認した上で狙いを定めた。

 優妃の一撃は、金属バットが振り下ろされるよりも、素早く目で追うのは困難。

 気付けば、鈍い音を轟かせ、ジャージ男の手の甲に当てる。

  

 金髪の男は短く呻く。

 手の甲に走る痛みは、皮膚の内にある骨に衝撃を与え、あまりの激痛で男はバットから手を離した。


 すると、同じように優妃も、唯一の武器である鉄の棒を手離す。


 大柄の危険人物に、徒手で勝負を挑もうというのだ。


 素手での状態で彼女は、より深く踏み込んで、男の懐に飛び込む。

 相手の腕を掴むと、足を相手のまたに滑り込ませ、片足を払う。

 相手はバランスを崩してよろけると、優妃はスキをついて、腕を引っ張り投げ技の態勢に入る。


 とはいえ、体格も重さも上の相手を投げるのは、容易(たやす)くはない。


 それを、一つの技術でお補う。

 ジャージ男の足を素早く払うと、彼女は小柄な体格に関わらず、相手の男を遠心力に乗せて振り回す。


 金髪ジャージは、優妃の肩をすり抜けるようにして、投げられ床へと叩き付けられた。

 トドメに、床に仰向けに倒れた男の上に、のしかかると、優妃は肘を突き出して相手の胸の下、みぞおちに肘を食らわせた。


 金髪黒ジャージの男は激痛のあまり、咳き込んで苦しむ。

 

 大柄な男を押さえ込む、小柄な優妃を見て、無事に制圧でき滝馬室は安堵した。

 

 まだだ、最後に一人いたはずだ。

 

 滝馬室は室内を見まわす。

 髪を結んだメガネの男が、抵抗することなく、刑事に大人しく連行されたのを確認すると、気が抜けてしまう。

 

 随分、行儀のいい奴だ。

 他の連中も、暴れず大人しくしていれば、連行されることはなかったはず。

 それを暴れ回って、刑事に怪我を負わせた。

 立派な”公務執行妨害”。


 威勢だけはいい輩には、怪我の功名だ

 これで、この騒動は終息したな……。


 立ち上がろうとする彼に、一人の捜査員が手を貸す。


「痛てて……あぁ……これは、どうも……」

 

 その善意に甘えると、滝馬室の腕に固い物が当たり、ゼンマイを回すような音とともに、手首が締め付けられる感覚が伝わった。


 滝馬室は自身にはめられた、手錠を見て青ざめると、必死で懇願。


「あ、あの! 俺達は巻き込まれただけで、関係なくて、あの!」


 すぐ横で、二人の捜査員に両腕を掴まれ、激しく抗議する優妃がいた。


「離してよ! 変なところ触ったら訴えるわよ?」


 さすがは日本の警察、職務に忠実だ

 粗悪な相手でも、暴力を受ければ、攻撃した相手は”暴行罪”が適応される。

 司法に殉じる警察官は、その現場を目撃した以上、どう言う経緯で暴行にいたったのか、聴取せねばならない。


 何より俺も優妃も、詐欺グループの拠点にいて家宅捜索の場にいた訳だから、普通の一般人では有り得ない。 

 連行されるに至る状況だ。


 あの向こう見ずな優妃に振り回された結果がこのザマ、後悔後にたたずとは、よく言ったものだな

 

 現場を指揮する、一際ポマードを塗りたぐった刑事が腕時計をかざし、この場にいる全員に聞こえるよう叫ぶ。


「午後五時! 暴行罪、障害罪。及び公務執行妨害の現行犯で逮捕」

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