イニシアチブ=張り込み(2)
滝馬室は、白いミニバンの後部座席に腰を置き、スモークガラス越しに、彼を見守る。
「あいつ……何やってんだ?」
滝馬室の隣に座る優妃は、同じようにサイバー捜査官、加賀美の動向を見守る。
作業員に扮した加賀美は、脚立を電柱に立てかけ、段を登り、柱の
女刑事、優妃は心配する。
「加賀美さんて、見るからに、引きこもりに近い人じゃないですか? あんな身体を酷使するようなことをして、大丈夫でしょうか?」
「そうだな。そのせいか、あいつが、たまに大胆なことすると、こっちは気が気でないんだよなぁ……」
しばらくすると、作業を終えた加賀美が電柱から降り、脚立を担いでミニバンに戻って来た。
後ろドアを開けて、脚立と道具をしまい、ドア閉めると後部座席のスライドドアを開けて、乗り込む。
詐欺グループの拠点側から、滝馬室がシートに座り、真ん中に優妃、その横に加賀美の準に座る。
一仕事終えた、メガネのインテリ捜査官は、膝の上に置いたノートパソコンを開き、パソコンとヘッドホン、小型のアンテナを繋ぐ。
一応、公安部に属している身の上、今回のような隠密作業が伴うケースがある為、警視庁から支給されたミニバンは、後部がスモークガラスが貼られ、外部から中を見られいような使用にしている。
優妃が訪ねた。
「加賀美さん。何をしてたんですか?」
眼鏡のもやし男は、涼しい顔で言う。
「電柱の送電網に受信機を取り付けました。これで、拠点と思しき場所の通話が聞けます」
上司の滝馬室は感心した。
「器用だよねぇ~」
くぐもった声で、彼は当然のように返す。
「民間で働いていた時に、仕事で配線関係を触る機会があったので、その延長です」
優妃は笑顔で礼を言う。
「加賀美さん、ありがとうございます。これで詐欺グループの証拠を抑えられます」
加賀美は無表情で、彼女にヘッドホンを渡す。
受け取った優妃はヘッドホンを装着した。
彼女の顔が華やぐと、大概、滝馬室の顔が曇る。
「優妃さん、解ってるのかい? これ盗聴だよ? 違法捜査だぞ?」
加賀美が助け舟を出す。
「通信の傍受は、法の改正で、適応出来る用途が拡大したので、問題ありません」
「問題あるだろ? それは、傍受する相手が、犯罪に手を染めてるという道筋が立って、そこから裁判所の許可を得て、傍受が出来るんだ。そもそも、違法に手に入れた証拠は、証拠として成立しないんだぞ?」
彼の抗弁を、人差し指を口に当てた優姫が、厳しく静止すると、彼女はヘッドホンから聞こえる音に集中した。
思わず黙ってしまった滝馬室は、しばらく車内の静寂に響く、機械音やノイズに耳を傾けると、せわしなく窓の外を見て、一言述べる
「優妃さん……さすがに、これは近すぎじゃないかい?」
「この配置なら、相手から見えないから見つかりませんよ?」
有限会社ミズーリが有する白いミニバンは、監視対象から、わずか五十メートルほどしかない、駐車場に停めている。
対面するように五台と五台置ける、駐車スペースの奥にミニバンを配置し、尚且つ、隣のスペースに車が止まっているので、ミニバンはその影に隠れるように止まり、対象から近くても、気付かれにくいことは確かだ。
滝馬室は落ち着きを取り戻す。
隣で、熱心にヘッドホンへ耳を傾ける優妃は、意気込みを口走る。
「ここで張り込むだけでは、ラチがあかないです。もっと、踏み込んだ決め手がないと…………」
拠点と思われる場所のアタリを付けたら、後は張り込み、確証が掴めるまで監視する。
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