イニシアチブ=張り込み(3)
犯罪の変容に合わせ、司法の改正が必要不可欠。
その一つに”犯罪捜査の為の通信傍受に関する法律”の改正がある。
改正通信傍受法と略される、この法案は、主に犯罪を犯した者を起訴し、傍受で記録した内容を、法廷で証拠として提出し、被疑者を刑に追い込む為にものだ。
具体的には、電話などの会話。
それに加えて、ファックスや電子メールも含まれる。
法を行使すべく罪は、
薬物。
銃器。
集団密航。
組織的殺人。
いずれの四類型だったが、改正に伴い、加えられた条項は、
爆発物使用
殺人。
傷害。
放火。
誘拐。
窃盗。
児童ポルノ。
逮捕監禁。
そして――――詐欺。
この九類型が追加された。
しかも、通信傍受に必要だった、通信事業者の立ち会いも不要。
その為、警察が単独で通信の傍受が可能になる。
年々、巧妙に、そして見えずらくなる犯罪を考えれば、過剰と言うのは平和ボケかもしれない。
だが、余りにも傍受の対象が拡大したことで、世論の反感を買っているのも事実。
四類型に該当する犯罪は、組織的なもだったが、九類型に増えたことで、個人への傍受にまで手が届くようになった。
通信業者などの第三者の目が無いということは、「犯罪性が有る」と言えば、どんな人間でも、通信を監視出来てしまう。
警察、検察などの行政機関に対し、一般人はプライバシーが無くなる危険をはらんでいる。
加賀美が後押しする。
「大丈夫です。通信傍受の手続きには、警察において、警部以上の警視や警視正の許可がいります。タキ社長は警部以上の階級になりますので、この場で容認して頂ければ、合法として扱えます」
その意見に、滝馬室は反論した。
「そんな訳ないだろ? それ、屁理屈だ。本来なら、国家公安委員会からの許可が必要なんだからな」
滝馬室の注意を優妃が遮った。
彼女は、自分の人差し指を口に当て、ヘッドホンから聞こえる通話内容に集中する。
「……電話をかけ始めましたね……客に無人島の話を持ちかけてます」
滝馬室の小言は、決壊したように、とめどなく出る。
「まるで、ウォーターゲート事件だな。盗聴器を仕掛けたのがバレたら、警視庁に戻るどころか、警察官じゃいられなくなる…………まぁ、それも悪くはないが」
すでに諦めの付いている滝馬室を無視して、優姫が異変を察知する。
「何かしら? 混線してるみたい」
「混線?」滝馬室も異変に反応した。
「雑音に混じって、甲高いハウリングが聞こえてます」
端にいる加賀美が、パソコンから目を離さず返答する
「優妃さんの言うとおり、僕が設置した装置と、同じ波形の電波が、もう一つあります」
滝馬室は、優妃越しに加賀美へ話しかける。
「同じ物が、もう一つ?」
「はい。僕達と同じ対象を傍受しているようです」
その話を聞いた滝馬室は、優妃に詰め寄る。
「ちょ、ちょっと! タキさん!? 何ですか?」
彼は、加賀美が操作するノートパソコンに手を伸ばし、パソコンから小型のアンテナを強引に引き抜く。
優妃は突然のことで驚いた。
憎悪の目を向ける優妃に、滝馬室は言い聞かせる。
「いいか? よく聞くんだ……無線機器に混線しているということは、どこかの無線機器に電波が干渉しているということだ」
「ですが、それはタクシー無線や船舶の無線も同じです。その辺の電波が干渉したのかも?」
滝馬室は声を押し殺して返す。
「警察が使う無線機器は、普通の物とは違う。盗聴器だって同じだ、情報が漏洩したらマズいからな。つまり、同じ機器でないと干渉は起こらない」
優妃は滝馬室の言わんとすることが見えた。
「私たち以外の――――捜査機関も傍受している?」
「あぁ、そうだ……それこそ警視庁の刑事部か公安。なんにしても、ここを離れるぞ? でないと、俺達――――」
優妃はスライドドアを開けて、車内から飛び出した。
「お、おい! どこ行くんだ!」
詐欺グループの拠点と思しきマンションに、真っ直ぐ足を進める女性刑事を滝馬室は追う。
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