「ワルキューレ」家宅捜索騎兵隊
「ワルキューレ」家宅捜索騎兵隊(1)
「何だ? お前ら?」
部屋から出てきたのは、モヒカン頭の男。
十月の冷え込み始めた時期に、黒のタンクトップという、子供地味た格好で粋がっている。
モヒカン頭はこちら見て、何かに気付き、睨みを利かせて敵意を向けた。
「何か用か?」
優妃も負けじと睨み返し、モヒカン頭を押しのけ部屋に強引に押しかける。
驚いたのは滝馬室だけではなく、モヒカン頭も同じだった。
「おい!? 待てや!!」
怒号を散らす、モヒカン頭が彼女の後を追うと、慌てて滝馬室も部屋の中へ入った。
あの無鉄砲女!
いくら警察官でも、女が単独でこんな所に乗り込むなんて、兎が狼の群れに、わざわざ入っていくような物だ?
ウチが警察とはハグれたチームだからって、法的措置を無視しすぎだ。
優妃は臆することなく、嵐に負けず、凛と立ち上がる一輪の花のように毅然と振る舞う。
部屋に侵入した彼女に、モヒカン頭が掴みかかったので、滝馬室は無理やり、間に割り込み、身体を張って女性部下を守る。
「あ!? 何だ、オッサン!」
粗悪な言葉で威嚇しるモヒカン頭が、血走った眼光で睨むと、滝馬室は、何とか視線を合わせないように、目を泳がせながら、必死で、この場を乗り切る言い訳を模索していた。
そんな滝馬室の心情を居にかえさず、優妃は声を張る。
「私たちは、警……」
滝馬室は慌てて、彼女の言葉を封じる。
「わ、私どもは! 水道局の方から来まして!」
中年独男の言葉が室内に響くと、部屋全体から間の抜けた声が聞こえたようだった。
この一瞬の間に、滝馬室は室内にいる人物を確認する。
八坪の間取りは、床はフローリングに壁が白く、扉から見ると、左側ははめ込み式のクローゼット。
右は壁で、棚は何も置いてなく、奥はガラス張りの窓。
そんな室内の中央に、折りたたみ式で縦長のテーブルが二台つき合わされている。
テーブルの上には、パソコンが四台あり、この場の人数分あることが解った。
そのパソコンの周辺に、吸い殻の入った灰皿、タバコの箱、ジャンクフードやドリンク類、そして十台前後の携帯電話。
そのテーブルを囲むように、三人の若い男達がパイプ椅子に座っていた。
壁側に座っているのは、茶髪にタレ目を持つ、うだつの上がらない男。
猫背で椅子に座り、突然の事にうろたえている。
クローゼット側に座る、黒髪を結んだ眼鏡の男は、グレーのパーカーを着た男は、この状況でも驚くことなくこちらをみており、むしろ、現状況を把握しようと、冷静に努めているようだ。
かなり知恵の回りそうな印象を受ける。
そして窓側、滝馬室と真っ正面で、椅子にふんぞり返り分厚い週間漫画を広げた男。
黒いジャージに身を包み、攻撃的に尖らせた金髪頭。
室内だというのに薄いレンズのサングラスをかけ、見るからに節操の無い人間。
金髪黒ジャージの男は以前、優妃とこの部屋に訪問した際、玄関口で応対した、うだつの上がらない男とトラブルになり、奥から金属バットを持って現れた男だ。
その時は逆光で顔が見えなかったが、はっきり顔を見ると、かなり危険な風貌だと解った。
滝馬室の側で、生ゴミのような口臭を漂わせるモヒカンの男とは、比べ物にならない危なさを感じさせる。
ガラの悪い連中だ。
とても、まともな集団には思えない。
金髪、黒ジャージの男は、サングラスが動くくらい、眉を動かし聞く。
「あ? 水道局?」
黒ジャージの機嫌を伺ってか、モヒカンの男は、肩をしきりに左右へ揺さぶり、滝馬室を威圧して追い返そうとする姿勢を見せる。
滝馬室は、顔面の筋肉をひきつらせなが愛想笑いを作り、この場を乗り切ろうとした。
最悪の事態に、安スーツの中年男は冷や汗が止まらない。
ここにいる連中は、さほど賢そうには見えない。
のらりくらりかわし、隙を見て逃げなければ―――。
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